レコード盤★盤<br>“大木伸夫「涙の酒」にみる演歌考察”
feature #133

レコード盤★盤
“大木伸夫「涙の酒」にみる演歌考察”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.30 / 20 Apr. 2023

←Ep.29

演歌と聞いて、どういう印象を持たれますか? まず思い浮かぶのは、古臭い。次に、高齢の方が聴く。あとは、カラオケ居酒屋やカラオケスナックなどなど、オールド感が強いイメージですよね? どれもその通りだと思います。

昭和の歌謡曲がブームと、メディアがよく取り上げていますが、その歌謡曲という括りには演歌は含まれないようで、若い人に好まれているのはグルーヴィーな曲がほとんど。独特のビート感があったり、バックのミュージシャンがセッション・マンだったり、いわゆるノリのある曲が人気です。

だけどオイラは思うのです。ノレるだけが音楽の魅力じゃないし、グルーヴだけが音楽の価値ではない。聴けば聴くほどに曲が沁み、歌詞が沁みる演歌だっていいじゃないか。そんな演歌が人気だった、そんな時代もあったのです。今回は演歌の魅力に、レコードを通して迫っていきましょう。

テーマとなる曲はこちら。

Single Title

涙の酒 (7インチ)

DJ1432 ポリドール

浪曲師で歌手の大木伸夫が1964年に発売したシングル曲です。むせび泣くギター・イントロ、きっちり七五調の歌詞、マイナー調のメロディ、メリスマの効いた歌い方、これぞ正統〈演歌〉という名曲です(ちなみに、〈演歌〉の名称が普及したのは1970年前後から。当時はただ〈流行歌〉と呼ばれていましたが、後年〈演歌〉にカテゴライズされます)。藤圭子、二葉百合子、ちあきなおみ、氷川きよしなど、数々の歌手によってカバーされる、演歌スタンダード・ナンバーの一つ。今回はこのカバー・バージョンをたっぷりとご紹介、というわけではありません。大木伸夫ご本人の「涙の酒」を、数多くみていきましょう。

どういうことかといいますと、昭和の時代、売れる曲は何度も何度も再発されます。「涙の酒」も御多分に漏れず、多くのレコードがあるのです。いかにこの曲が、そして演歌が人気だったのかの証です。先にあげたジャケットは初出のもの。次が1968年の再発盤です。

Single Title

涙の酒 (7インチ)

DR1344 ポリドール

再発時にカップリング曲が変わるのはよくあることで、B面には「涙の酒」より前に発売された「花と竜」を収録。収録曲の変更にあわせて、ジャケットも変わります。盃を持って「酒」っぽくなりました。

次は1976年、ポリドール『ベスト・ヒット・シリーズ』という人気曲の再発企画から。

Single Title

涙の酒 (7インチ)

DRQ6909 ポリドール

カップリング曲に選ばれたのは、1965年発売の「独航船」。ジャケ写は「酒」感がより増しています。このジャケット写真、よほどイメージが曲とマッチしていると思われたのか、よく使われています。1979年の再発盤がこちら。

Single Title

涙の酒 (7インチ)

DR6322 ポリドール

遂にカップリング曲は無くなり、B面にはカラオケが収録されています。続きまして1981年の再発盤がこちら。

Single Title

涙の酒 (7インチ)

7DX1050 ポリドール

文字の色と配置が変わりました。B面には先ほどと同じくカラオケが収録。

平成のポップスとは異なり、細やかな音程の変化や節回しを伴う演歌を歌いこなすには、ある程度の練習が必要です。カラオケ教室なども盛んになり、演歌を歌うということは素人の余芸や、お稽古事、習い事のようになっていきます。カラオケは演歌の人気を支えるものとなりました。

そんなカラオケ需要もあってか、カラオケ単独でもシングル盤が発売されています。

Single Title

カラオケ 涙の酒 (7インチ)

DRQ6940 ポリドール

カラオケ盤とはいえ、明朝体とポップ体がならび、ブロマイド風の写真の周りに、お銚子、盃、マイク、レコード、梅を配したなかなか味のあるジャケットです。

演歌歌手は一発当てると長持ちする、とはよく言われますが、本当にその通り。なんせヒット曲をタイトルに冠したベスト盤、コンピレーション盤がやたらに多い。「涙の酒」を冠したレコードは他にもあります。まずは4曲EP盤。

Single Title

涙の酒 (7インチ)

KR1015 ポリドール

ジャケットを見る限りタイトルはわかりませんが、ラベル面には大きく「涙の酒」と記されています。

続きまして、LP盤を発売順にみていきましょう。

Album Title

涙の酒 大木伸夫ヒット集 (LP)

MR2230 ポリドール

出ました、あの写真。1973年発売のLPです。そう、あのジャケ写はこちらが初出です。ジャケットには「大木伸夫ヒット集 涙の酒」と書かれていて、帯は「涙の酒 大木伸夫 大ヒット集」。一体どちらが正しいのでしょうか。

次は1980年発売のもの。

Album Title

激唱大演歌/大木伸夫・涙の酒 (LP)

MR3223 ポリドール

「激唱大演歌」というタイルだけで十分だと思うのですが、最後に「涙の酒」が付きます。「大木伸夫=涙の酒」のイメージが強すぎるのでしょうか。

次は1981年発売のものです。

Album Title

涙の酒/大木伸夫(大木伸夫ヒット曲集) (LP)

28MX1031 ポリドール

またまた出ました、あの写真。そして、2年連続で似たような内容のLPを出しているというのも凄い。『激唱大演歌』と収録曲が7曲もかぶっています。演歌、そして、大木伸夫の人気っぷり、レコードの売り手市場っぷり、そして、日本経済が豊かだったことを物語っているのではないでしょうか。

最後にご紹介するのが、1983年発売のLPです。

Album Title

大木伸夫オリジナル・ヒット曲集 涙の酒 (LP)

28MX1143 ポリドール

ジャケット写真がちょっと明るくなりました。収録曲はほとんど前に紹介したものと変わりません。

最後にこのLPをご紹介と書きましたが、これで終わりではありません。これ以降はミュージック・テープ(カセット)で発売され、1980年代後半からはCDも発売されます。『涙の酒』は、シングル・カセットもシングルCD(8cm CD)も発売されましたし、LP同様、『涙の酒』をタイトルに冠したベスト盤の類が多数発売されます。

ここまでくると、なんか食傷気味になりませんか? こういった過度な再発は供給過多になり、音楽の価値を貶めてしまうのではと考えます。シングルやベスト盤の発売数の多さは、他ジャンルの音楽と比べると名に余ります。演歌人気低迷の要因は様々ありますが、こういった供給過多の売り方により音楽ファンの心が離れてしまったのも、一因ではないでしょうか。ヒット曲がずらずらと並ぶだけじゃない、ちゃんと1枚通して聴ける、そんな名盤の誕生を、演歌ファンとしては切に願っています。

とは言うものの、やっぱりどのレコードで聴いても「涙の酒」は沁みますぜ! 一人酒のBGMにおすすめです。

(つづく)

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店勤務を経て、現在はディスクユニオンにて勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。
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