レコード盤★盤<br>“三たびの忠臣蔵、再び松の廊下でござる!”
feature #086

レコード盤★盤
“三たびの忠臣蔵、再び松の廊下でござる!”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.17 / 20 Feb. 2022

←Ep.16

今回は3度目の忠臣蔵特集です。物語のクライマックス、討ち入りの日が12月14日ということもあり、忠臣蔵は年末の風物詩。歌舞伎、映画、テレビドラマ、浪曲、講談と、冬の始まりから年末にかけて忠臣蔵はピークをむかえます。

年末の風物詩ですが、年が明けてからはNGなのかといえば、そんなことはありません。忠臣蔵には四季折々の様々なエピソードがありますので、いつやっても構わない。とはいえですよ、雪の降る中の討ち入りシーン、春や夏にはちょっと合わないですよね。

演芸の世界ではいつ頃まで忠臣蔵ネタをやるかというと、3月の中頃までというのが慣例。そう、3月14日に起きた松の廊下の刃傷事件の頃まで。このコラムがアップされるのは2月後半なので、まだ間に合う! ということで、忠臣蔵。時期に合わせまして、Ep.2で紹介しきれなかった刃傷事件にまつわるレコードをご紹介します。

まずはこの曲。松の廊下といえば、外せない忠臣蔵歌謡ヒット・ナンバーの筆頭。本コラム3度目の登場、真山一郎の『刃傷松の廊下』。今回もジャケ違いでご紹介。

Single Title

刃傷松の廊下/番場の忠太郎 真山一郎 (7インチ)

K07S6607 キングレコード

いかにも再発盤って感じのつくりのジャケット。キングレコードの舞踊歌謡シリーズは、同様のジャケットのフォーマットで、演歌、民謡、歌謡曲のシングル盤が無数にあります。完全なる量産品です。それだけ需要があったということでしょうか。ちなみに、真山一郎『刃傷松の廊下』のシングル盤のジャケットは再発を含め現在4種確認済です。また新たなジャケットを発見したらご報告いたします。

この曲を聴いていただくとわかりますが、スロー~ミディアムのゆったりとしたテンポが特徴的です。楽器演奏も歌唱においても、真の技量が問われるのは早いテンポよりゆっくりとしたテンポ。かつ、この曲の歌詞には、ストーリー性があります。声を楽器のように音として聞かせるのではなく、旋律を伴う語り部として物語を聴かせ理解させる必要がある難曲です。挑戦し甲斐のあることからか、歌に自信のある多くの歌手がカバーしています。中でも白眉がこちら。

Album Title

歌謡劇場 藤圭子 (LP)

RVL7207 RVC
Track
A1:刃傷松の廊下

昭和歌謡レコード好きにはレア盤の一つと名高い人気のLP。一昨年にEp.2を書いたときは未所持でしたが、昨年、〇万円で買いました。浪曲チックな歌謡曲、歌謡浪曲を中心に編まれたアルバム。A面冒頭が「刃傷松の廊下」です。聴く者を魅了するハスキーで鼻にかかったような独特の声、圧倒的な歌唱力の高さ。この曲を聴けただけでも、高いお金払って良かったと思える名唱です。最初の第一声で心が持っていかれます。もし安い値段で見つけたら、絶対買いですよ!

カバーのレコードには、こんなのもあります。

Single Title

刃傷松の廊下 / あゝ徳島城 鍵山敏夫 (7インチ)

GK3101 キングレコード

おそらく民謡系歌手と思われる鍵山敏夫による吹き込み。バックの壮大なオーケストレーションがドラマチックな曲を引き立てる「刃傷松の廊下」ですが、本ヴァージョンはオーケストラが薄い。予算の都合なのか、ストリングスもホーン・セクションも、人数が少ない。幸か不幸か、その分バンド・サウンドっぽく聞こえなくもなく、歌声が際立ちます。民謡育ち独特のこぶしまわしが楽しめるヴァージョンです。

忠臣蔵歌謡曲界屈指の人気を誇る「刃傷松の廊下」。平成の時代も歌い継がれています。中村美律子、氷川きよし、島津亜矢などの、歌巧者がCDを出していますので、いろいろ聴き比べてみるのも楽しいですよ。しかし、残念ながらイントロも伴奏も、アレンジは真山一郎版とほとんど一緒。この呪縛から解き放たれた新たなカバーの出現を期待しています。

お次は浪曲で聴く刃傷事件。

Single Title

浪曲 殿中松の廊下 / 開城前の大石 吉田三笠 (7インチ)

NL2337 テイチク

後に吉田奈良丸の名跡を継ぐ吉田三笠の口演。一説によると関西浪曲は、文楽・義太夫の影響を受け、中低音域の節回しが主流に、関東は新内の影響で高音域が主流になったとか。吉田三笠の口演は、それもうなずける心地よい中音域の響き。節回しパートもたっぷりあるので、言葉のうねりに乗って、じっくりと物語に浸れます。

浪曲界中興の祖と呼ばれる桃中軒雲右衛門が義士伝を得意とし売り出したこともあってか、浪曲レコードは忠臣蔵ネタの宝庫。松の廊下以外にも、多様なエピソードを様々な浪曲師たちが演じています。眺めているだけでも楽しい忠臣蔵ジャケもたくさんあり、いずれまた、機会があればご紹介します。

最後は華やかに音頭で。Ep.2では江州音頭、今回は河内音頭です。

Album Title

歌謡鉄砲節 大忠臣蔵 松の廊下 / 民謡鉄砲節 実話 河内十人斬 鉄砲光三郎 (LP)

KC39 ミノルフォン

大阪の河内地域を中心に歌い継がれ、踊り継がれる河内音頭は、祭文語りから進化した紋踊りで、大阪夏の風物詩。三味線と太鼓の伴奏が基本ですが、戦後はエレキ・ギターなどの洋楽器を取り込み進化し続けています。音頭取り一人の持ち時間は長く、音頭のリズムにのって物語を語るという、語り芸の一つでもあります。

現代的河内音頭を広めた第一人者、鉄砲光三郎による本作は、全編スタジオ録音による作品。櫓でのリアル感はなく、コンサート音頭といった仕上がり。オーケストラ伴奏が入り、お馴染みの合いの手、〽イヤコレセー、ヨッコイセ は、ホーン・セクションが担当する豪華なサウンドです。また、物語構成も素晴らしい仕上がり。松の廊下エピソード内での有名な吉良の嫌がらせ、墨絵事件、畳替え事件、服装違い事件、座り場所事件を全て抑え、最後は歌舞伎でもお馴染み「鮒侍発言」で浅野ブチ切れ刃傷沙汰。正統中の正統展開の松の廊下を楽しめます。

ところで、音頭は夏の定番。忠臣蔵は冬の定番。実際の音頭の現場で、忠臣蔵がかかることはあるのかしら。リアル河内の生音頭で、是非とも確かめてみたい。今年の夏は県境を跨いだ旅行できるといいな。

つづく

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店勤務を経て、現在はディスクユニオンにて勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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