レコード盤★盤<br>“歌謡曲に司会は付き物だった ~歌謡説明の説明~”
feature #027

レコード盤★盤
“歌謡曲に司会は付き物だった ~歌謡説明の説明~”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.1 / 21 Oct. 2020

歌謡曲の実演には、必ずと言っていいほど司会者がいた。10~30秒ほどの前奏が流れる間に、ほどよく歌を引き立てる言葉を並べ、歌い手へとバトンを渡す。七五調を主とした美文調の語りは、ムーディーな歌謡曲や演歌によく合う。

こうした歌の前口上のようなものは、歌謡説明と呼ばれる。最初期は、無声映画からトーキーへの移行で仕事にあぶれた活動写真の弁士が、持ち前の話術を活かして行った説明付きの歌謡ショー。関西の実力派弁士だった泉詩郎は、自前の楽団を率い、歌謡物語と称されるショーで人気を博した。その後、寄席芸人や専属の司会者、アナウンサーなどが、コンサートやラジオ/TVの歌番組で歌謡説明を披露するようになる。90年代以降はロック/ポップスなどのバンド・サウンド全盛のため、耳にする機会は少なくなってしまった。今でも確実に聴けるといえば、ラジオ日本『夏木ゆたかのホッと歌謡曲』。他にも、テレビ東京系の歌番組では、徳光和夫が軽妙な語りを聴かせる。2010年の紅白歌合戦では、長年に渡って森進一の司会を務めた漫談家・綾小路きみまろが、これぞ本職と思わせる名調子で「襟裳岬」を彩った。

と、まあ、ここまで読んだなら、歌謡説明というものを聴いてみたくなってきたのでは? テレビやラジオも良いけれど、レコードで聴くのもイイもんです。歌謡説明の入ったレコードもいっぱいありますよ。

定番と言えるのが、演歌歌手のライヴ盤。演歌のレコードで、タイトルに「リサイタル」というワードが入っていれば、高確率で司会付き。司会の語りがカットされずにそのまま収録されていればもう最高! 司会者によって、また、歌う曲調によって歌謡説明の仕方も様々で面白い。オーソドックスな七五調の語り、歌手の生い立ちと曲を絡めた説明、観客との当意即妙なやりとり、演者とのトーク・コーナーなど、司会者がいるライヴの雰囲気を体感できます。

かっちりとした七五調、オールド・スタイルな歌謡説明を聴きたい人には、弁士のレコードがオススメ。先に述べた泉詩郎は大正末期から第二次世界大戦前までにかけて多くのSP盤を吹き込んでいる。量の多さは人気のバロメーター。戦後も泉詩郎独特の甲高い声が懐かしがられ、復刻LPも多く作られた。他にも、無声映画の文化を現在に繋いだ松田春翠、昭和20年代のスター歌手・岡晴夫の司会を長きに渡って務めた西村小楽天など、複数のレコードが残されている。岡晴夫の「啼くな小鳩よ」での歌謡説明、「岡の小鳩か小鳩の岡か」というフレーズは、歌謡説明史上に残る名文句。

ああ、こんな歌謡説明の後に歌ってみたいなと思ったアナタ! そんなアナタのような人のためには、司会付きカラオケ・レコードというものがあります。文字通り、カラオケの演奏が収録されたレコードですが、Aメロが始まる前に本職の方々の歌謡説明が入っています。語りの後に歌うと気持ちいいのなんの!

そんな歌謡説明の文章は、語り手本人が作っていることがほとんど。語り手それぞれの特徴が出ていて、聴き比べてみるのも一興。長い前置きでしたが、司会付きカラオケ・レコードを数多く吹き込んでいる玉置宏と芥川隆行を例に取り、それぞれの歌謡説明の特徴をみていきましょう。曲は渡哲也のヒット・ナンバー「くちなしの花」。

Album Title

玉置宏とオン・ステージ あなたのワンマンショー

SKM1400 キングレコード
歌謡説明
「くちなしの花」玉置宏 ver.

“雨の別れに 淋しい顔が
今夜も私を 切なくさせる
自分で捨てた 幸せなのに
噂ばかりが ついてくる
雨にこぼれた 花ひとつ
白い面影 くちなしの花”

見事なまでに七音と五音の組み合わせ。曲の前奏にピタっと収まり、スッと歌に入れます。

文化放送のアナウンサーから早々にフリーに転身した玉置宏。代表的な名台詞は、「一週間ぶりのごぶさたでした」。ラジオ、テレビ、コンサートなどで司会業を中心に活躍した名アナウンサー。幾多のコンサート司会や歌番組の公開収録で磨き上げられた話芸は、まさに名人芸。この語りの後に自分が歌えることは、至上の喜び。大会場で、大観衆を前に歌っている錯覚すらおぼえます。

続きまして、芥川隆行をみていきましょう。

Album Title

芥川隆行・ナレーションで綴る あなたが歌う カラオケ夜の盛り場演歌特集

SL1485 テイチク
歌謡説明
「くちなしの花」芥川隆行 ver.

“ 風の噂に やるせなく
君が想いに ふけるとき
心をよせる 過ぎし日の
しあわせうすき 淋しい笑顔
今はやつれて 何処へ咲く
思い出遠く 香りも淡く
あの日の別れは 涙の彼方
雨にしらじら ぬれていた
忘れられない くちなしの
花によく似た 面影だった”

こちらも見事な七音と五音の組み合わせ。しかし、何か気が付きませんか? そう、玉置宏に比べて文章が長いんです。芥川隆行のこの歌謡説明は、語りが先に入り、その後、前奏がはじまります。丁度「あの日の別れは~」の部分から前奏スタート。

32才でラジオ東京(現TBS)にアナウンサー1期生として入社した芥川隆行。遅咲きながらも、多くの歌番組や時代劇で影アナを務めました。チャンバラ好きな子供だったオイラ。夕方の再放送でみていた『大岡越前』や『必殺仕置人』ナレーションは今でも耳に残っています。「のさばる悪をなんとする 天の裁きは待ってはおれぬ」とボトムの聴いた声を毎日のように聴いていたなんて、幸せな日々だったな~。

司会業が中心の玉置宏と違い、芥川隆行はナレーターとしての活動が多い。それゆえか本作でも、コンサートでの司会というより、語りから歌までで一つの作品のような仕上がりに。歌謡説明の文言も、一つの完成されたポエムのよう。さながらライヴ派の玉置宏、スタジオ派の芥川隆行といったところでしょうか。この歌謡説明に続けて歌うと、歌の世界に自分が溶け込み、作品の一部と化します。エクスタシーです。

とまあこのように、語り手によって違った特色のある歌謡説明。カラオケ・ボックスが街に溢れる昨今、役目を終えたカラオケ・レコードたちは底値で売られています。その中には、自分の歌心とマッチする歌謡説明がきっとあるはず。レコード・ライフのお供に、歌謡説明も加えてみてはいかがでしょうか。

それでは最後に、今年の8月、惜しまれつつこの世を去った名優・渡哲也さんへの追悼の思いを込めて、自分なりの歌謡説明を捧げます。

Single Title

くちなしの花

Artist

渡哲也

DR1790 ポリドール
歌謡説明
「くちなしの花」伊藤一樹(@RAKUGORECORD)ver.

“また一人 昭和のスターが旅立った
個性豊かな俳優たちを
束ねて率いたその背中
けっして忘れはいたしません
先に待つ あなたが愛した裕次郎
もう一度 聴かせてくださいこの曲を
男・渡が歌います くちなしの花”

つづく

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。書店勤務を経て、現在はディスクユニオンの書籍販売担当として勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。 https://twitter.com/RAKUGORECORD
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