レコード盤★盤<br>“怪盤・雪女”
feature #035

レコード盤★盤
“怪盤・雪女”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.4 / 20 Jan. 2021

←Ep.3

最近テレビで観ることが少なくなった怪談。Jホラーの流れをくむ、いわゆる実話系のホラー・ドラマは夏場によく放送されるが、時代がかった怪談ドラマはなかなか観られなくなった。子供の頃に観た『耳無し芳一』、『ろくろ首』、『牡丹灯籠』(トシちゃんが主役。刀の差し方がヘンだった)など、怪談ドラマの持つ妖しげな雰囲気は、今でも心に残っている。

怪談は夏のモンじゃないかって? いやいや、冬場の怪談もありますよ。『番町皿屋敷』のお菊殺しや、『真景累ヶ淵』の宗悦殺しは冬が舞台。現代怪談『山小屋の4人』も冬の雪山での出来事。冬ならではの寒さが、恐怖感を演出します。中でも一番メジャーな冬の怪談が、雪女ではないでしょうか。

雪女といえば、まず思い出されるのが小泉八雲の『怪談』。日本に各地に伝わる伝説、昔話などを集め、文学作品として再構築した短編集です。その中に雪女も収められています。雪深い地域には多かれ少なかれ雪女にまつわる伝説が残されており、昔話集や映画、ドラマなどなど、さまざまなフォーマットで語られています。大抵の場合、基本的なストーリー展開は八雲版が原典。八雲版を読んだことがなくても、多くの人はあのストーリーが頭に浮かぶのでは。今回は寒い冬にぴったし、雪女にまつわるレコードをみていきましょう。まずは朗読で味わう雪女です。

Single Title

雪女 / さるじぞう(ソノシート)

学習研究社

学研が刊行していた学習雑誌『2年の学習』の付録ソノシートです。テキストを書いたのは、『怪談レストラン』シリーズでもお馴染み児童文学作家・松谷みよ子。朗読は昭和の名女優・岸田今日子というなんとも贅沢な付録です。八雲版雪女の舞台は武蔵の国(青梅が舞台とされています)、雪女に遭遇する二人、茂作と己之吉の職業は木樵ですが、このソノシート版の舞台は飛騨の山奥、茂作と己之吉の職業は猟師。松谷みよ子さんは東京生まれですが、戦時中は長野県へ疎開経験あり。終戦後は、児童文学を手掛けながら、民話や妖怪譚を研究していました。そんな経歴が、八雲版との差異に繋がっているのではないかと思われます。地域や語る人によっていろいろな違いがあるってのも、昔話の面白さですね。ストーリー展開はほぼ原典通り。

音声のみで味わう怪談ってのはイイもんで、聴く者の想像力を掻き立て、恐怖感が増します。しかし、このソノシートを聴いて感じるのは、怪異に遭遇するという恐怖よりも、男女の悲哀。正体がわかり、己之吉の元を離れる雪女。己之吉への未練を感じさせる岸田今日子の語りは、悲しい恋物語のよう。妖怪と人間、種族を超えた叶わぬ恋。ちょっとホロっとする雪女です。

続いては、懐かしいテレビアニメのレコードです。

Single Title

まんが日本昔ばなし⑮ つるのおんがえし / ゆきおんな(7インチ)

TC4120 東芝

こちら舞台は北国の雪山。茂作と己之吉の職業は八雲版と同じく木樵ですが、冬は猟に入るのがならわしという設定。マタギのような生活を彷彿させます。ストーリー展開は原典通り。
まんが日本昔ばなし版の『雪女』の特筆すべき点は、雪女がなぜいなくなったのかという点に、一定の解釈が加えられていることでしょう。
雪女という話、昔話や寓話にありがちなメッセージ性がとてもわかりづらい。だからこそ、含みがあって面白いのです。ただただストーリーを楽しむこともできるし、教訓めいた暗喩を見出せなくもない。小泉八雲も、そこに文学性を感じたのではないでしょうか。
物語のラスト、雪女は己之吉を残していなくなってしまうのは何故か? まんが日本昔ばなし版のラストは、こう締めくくられます。

‟北国の冬の山には、今も雪女がいると人は言います。そして、冷たい体を温かくぬくめてくれる優しい人間の心を求めて、ヒューヒューと悲しく泣いて、雪の山肌を駆け巡っているんです。”

ロマンティックかつセンチメンタル。このなんとも言えない余韻がイイじゃないですか。本来は映像作品ですが、市原悦子と常田富士夫の語りと北原じゅんによる劇伴音楽だけでも、十分に楽しめるレコードです。

怪談モノには、音楽が付き物。落語や講談の怪談噺では、ドロと呼ばれる太鼓のロールとスライド・ホイッスルや能管による効果音で恐怖感を演出します。いわゆる「ヒュ~ドロドロ」っていう古典的なサウンドです。映像作品においても、音楽の効果は絶大。昭和日本の怪談映画では、西洋音楽の手法と純邦楽がクロスオーバーするサウンドがバックにながれることが多く、「ホラー」とは一味違う、「怪談」の世界観を演出します。最後に紹介するのはそんな怪談映画のサウンドトラックです。

Album Title

武満徹の音楽〈2〉

SJX7504 ビクター
Track
B1:怪談

第18回カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞作、小林正樹監督の『怪談』。小泉八雲の短編「黒髪」(八雲版の原題は「和解」)、「雪女」、「耳無芳一」、「茶碗の中」を映像化したオムニバス映画です。監督の演出、少ない台詞ながらも表情一つで話を動かす役者の演技、丁寧に作り込まれたセットはどれも素晴らしく、怪談映画の金字塔とも言っていいでしょう。そしてこの映画を引き立てるのに、音楽のもたらす力は計り知れません。

劇中音楽を担当するのは、日本を代表する現代音楽作曲家の武満徹。映画に合わせて「木」、「雪」、「琵琶歌」、「文楽」の4つのトラックが作られています。東洋の思想や純邦楽に理解のあった武満徹らしく、琵琶や尺八などの和楽器がふんだんに使われつつ、現代音楽の技法が随所に散りばめられています。雪女の劇伴音楽「雪」は、ミュージック・コンクレートによる作品。胡弓やプリペアド・ピアノの音などを重ね合わせてテープ変調させたインダストリアル・サウンド。効果音ともノイズとも言えない音世界が、凍てつく雪女の世界観にベストマッチ。未見の方、映画鑑賞の際は武満徹の音楽にも要注目です。そして、この音世界にハマったならば、このレコードもコレクションに加えましょう。

寒さで何をするにも億劫になりがちな冬。嫌な季節と思う方もいるかと思いますが、そんな季節だからこそ真価を発揮するレコードがあります。真冬のレコード・タイムに、雪女はいかがでしょうか。

つづく

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。書店勤務を経て、現在はディスクユニオンの書籍販売担当として勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。 https://twitter.com/RAKUGORECORD
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