レコード盤★盤<br>“3月だ! 高尾太夫がやって来る!”
feature #038

レコード盤★盤
“3月だ! 高尾太夫がやって来る!”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.5 / 20 Feb. 2021

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「傾城【けいせい】に誠なし」。傾城とは絶世の美人遊女のこと。お殿様や大名が、城が傾くほど入れ込み散財してしまうというのが語源です。遊女・花魁は手練手管で男をだまし、お金を巻き上げる。あんたが一番好きでありんす。なんてことを何人にも言っては、それぞれから貢がせるのです。それゆえに言われているのが、「傾城に誠なし」。ああ、オイラも身に覚えが…。それはさておき、花魁にだって真の愛はあるんです。「傾城に誠なしとは誰が言うた」。今回は職人と花魁の純愛物語、落語や浪曲の人気演目『紺屋高尾』のレコードをご紹介。

紺屋の職人・久蔵、数日前から患って寝込んでいる。原因はなにか探ると、花魁道中で見た高尾太夫に一目惚れし恋煩い。吉原のトップ中のトップである高尾太夫には、職人風情がそう簡単に会えるものではない。しかし、三年働いた給金をそっくり貯めれば、その金で高尾太夫に会えると親方に説得され、仕事に精を出す久蔵。一切の無駄遣いをせず金を貯めること三年。貯めたお金を携えて吉原へ。普段から大名たちを相手にしている高尾太夫。職人風情にはそう簡単には会ってはくれない。そこで親方の発案により、女遊びに詳しい馴染みに医者に頼みこみ、久蔵を上総の材木問屋の若旦那という設定にして吉原に連れて行ってもらう。その日、運良く高尾太夫の体は空いており、久蔵の相手をしてもらえることに。三年間恋焦がれた相手と一夜をともにすることができ、夢見心地の久蔵。そんな久蔵に高尾太夫は、

「ぬし、次はいつ来てくんなますか?」

紺屋の職人の稼ぎでは、そう簡単にすぐに会いには来られない。久蔵は正直に高尾太夫に打ち明ける。自分は、本当は紺屋の職人であること。一目見たあなたに恋をして、三年働いたお金で会いに来たこと。次に会いに来られるのはまた三年後であること。しかし三年もの間に、きっとどこぞの殿様に身受けされることでしょう。そうなっても、どこかで私とすれ違うような機会があったその時は、「久はん無事か」と言ってくれればこんな幸せなことはない。そう言って泣き出す久蔵。

久蔵のひたむきな気持ちに胸を打たれた高尾太夫。来年三月十五日に年季が明ける。そうしたら、あなたの妻として自分を迎えてくださいと、久蔵にお願いをする。

それからというもの久蔵は、「来年三月、来年三月・・・」と仕事中もブツブツブツブツ。親方や仲間の職人からは、お前は騙されているとバカにされるも、高尾太夫の言葉を信じる久蔵。そして明くる年の三月十五日、眉を落として歯を染めて、久蔵の前にあらわれる高尾太夫。あの言葉は本当だった。久蔵と高尾太夫は夫婦となり、紺屋の店を出す。吉原一と言われたあの高尾太夫に会えると店は大繁盛となりました。傾城に誠なしとは誰が言うた。傾城誠の恋、紺屋高尾の読み切り談はまずこれまで。

と、まあ、こんなストーリーでございます。どうです? イイ話でしょ? そりゃあまあ、吉原は苦界と呼ばれる劣悪な環境だったとか、貧乏な職人より金持ちの方がイイとか、三年も商売の女に片思いなんてキモイ&重いとか、いろいろ思うことがある人もいるだろうけど、ここは愛の物語ということで手を打ちましょうよ。時にはそういう素直さも大切よ。

『紺屋高尾』といえば、浪曲師・篠田実(初代)の十八番。大正時代に吹き込んだSP盤が大ヒット。それ以降、10インチ・サイズ、LP片面サイズ、両面サイズと、様々なヴァージョンが残されています。短時間で味わえるLP片面サイズのヴァージョンも魅力的ですが、時間があるときはゆったりたっぷりと楽しみたい。今回ご紹介はこの1枚。

Album Title

紺屋高尾 篠田実

RS2027 ローオンレコード

なんてったって、ジャケットがイイでしょ。豪華絢爛な吉原の花魁の艶やかな姿が見事に描かれています。頭、重くないのかな。男の人と寝るときは、頭どうすんのかな。遊郭には行ったことがないもんで疑問は尽きませんが、本題に。

篠田実という浪曲師、声がちょいと独特。言葉を伸ばすときに、音がモジュレーションがかかったように揺れる。初めて聴いたとき、録音状態が悪いのかなとか、ひょっとしてオイラのオーディオ・セットがイカれたのかなと思ったが、そういう声なんですね。慣れてくるとこれがクセになる。良い浪曲師としての条件でよく言われるのが、「一・声、二・節、三・啖呵」。浪曲はストーリーを楽しむだけでなく、浪曲師の「声」も楽しむもんなんです。篠田実の声、楽しみましょう。

浪花節の「節」、浪曲の「曲」が意味するところは音楽です。浪曲は、語り芸というだけでなく、音楽でもあります。イイ浪曲ってのは、心地よい音楽でもあります。浪曲は演目のラスト、歌のような節回しと相三味線で盛り上げるバラシ」と呼ばれる部分があります。篠田実の『紺屋高尾』、このバラシのグルーヴ感が最高に気持ちイイ! 思わずヒラヒラと手踊りしたくなります。物語のストーリー性、浪曲師の声、バラシのグルーヴと聴きどころ満載。『紺屋高尾』の決定盤の一つと言っても過言ではないでしょう。

同じく浪曲からもう一枚ご紹介。

Album Title

水戸黄門漫遊記 雲井の仇討/紺屋高尾 佃雪舟

NT4063 テイチク
Track
B:紺屋高尾

浪曲という演芸は、扱う題材が幅広く、浪曲師によって得意なものが様々。人情モノが得意な人、侠客モノが得意な人などタイプもいろいろ。ご紹介の佃雪舟はケレン読み。面白おかしい、滑稽な話が得意。近年少なくなってしまったタイプです。

恋愛物語の『紺屋高尾』のどこに笑えるポイントがあるのかって思うでしょ? 特にないんですよ。ないんだけど、まず声が面白い。笑福亭仁鶴師匠や三遊亭兼好師匠のようなややガラっとした声質が、笑いを誘発するんです。それでいて、親方や仲間の職人たちと久蔵のやりとりで、ちょこっとトボけたことを言う。思わずプッと吹きだしてしまうんです。

そして、佃雪舟最大の魅力はバラシ。佃雪舟はバラシで自らカスタネットを取り出し、三味線に合わせてタッタカタッタカと叩き、自らの節回しを最高潮に盛り上げます。ああ、一度でイイから生で観てみたかった。

とまあ、面白い要素ばかり強調しましたが、久蔵と高尾太夫との会話なんかは、しっとりと聴かせるんですよ。緩急自在、そしてその緩急の振れ幅が凄い! 一大エンターテインメント『紺屋高尾』をぜひお楽しみください。

篠田実のバラシのグルーヴ、佃雪舟のカスタネット芸が気に入り、全編通してグルーヴしたいなんて方には、こんなのもあります。

Album Title

河内音頭 せんせんづくし/紺屋高尾/忠太郎ですおっ母さん 小松みつ子

FW7300 コロムビア
Track
A2:紺屋高尾

大阪伝統の河内音頭。昭和以降、浪曲などの演目を音頭に取り込み、語り芸としての要素を加えて、長時間聴衆を踊らせるように進化しています。

小松みつ子は、演歌の大御所・中村美津子の前名。十代の頃より河内音頭の音頭取り(いわばリード・ボーカル)として活躍していました。このLPは1977年発売ですので、当時まだ27歳。若さ溢れる可憐な歌声です。浪曲などの話芸に比べてしまえば、微妙な台詞の駆け引きなんてものはないですが、メロディー+ストーリー+ビートの高揚感はたまりません。ノリノリ『紺屋高尾』があったっていいじゃないですか。その後、小松みつ子は浪曲師・春野百合子(二代目)の門を叩き、その歌声にさらに磨きをかけることとなります。

元は落語の人情噺といわれている『紺屋高尾』。最後は落語版から一枚。

Album Title

圓生百席 第二十四席~第二十七席 紺屋高尾/淀五郎/テレスコ/豊竹屋(3LP BOX)

SOGZ122~4 CBS・ソニー
Track
DISC1:紺屋高尾

いわゆる昭和の名人とよばれる噺家の中でも最高峰に位置する三遊亭圓生(六代目)。圓生の持ちネタのほとんどをまるっと録音してしまおう! しかも無観客スタジオ録音で。という企画が『圓生百席』シリーズ。自宅のオーディオ・セットで、独り、圓生と対峙できる珠玉のシリーズです。

落語では、本筋に入る前に世間話や本編に関連する小咄などを話す「マクラ」という部分があります。『圓生百席』では、収録演目に合わせてマクラが作られており、他とかぶらないよう計算され尽されています。このマクラでの蘊蓄は、圓生の魅力の一つ。

幼少のときより芸人として活躍していた圓生。学歴はないかもしれないが(ほぼ小卒)、芸の事、芸にまつわる文化背景にはとんでもなく詳しい。この盤でも『紺屋高尾』に合わせまして、吉原について、紺屋の職人について知識を披露。付属ブックレットの解説でも知識を披露。遊郭も藍染めも、今やもう全然馴染みがないじゃないですか。このプチ情報のおかげで、物語への理解度がグッと高まります。

この圓生百席版、入れ事(本筋とは関係ないギャグ)が多いのも特徴的。物語を壊すか壊さないかギリギリ、時代背景とは関係ない笑いをブッ込みます。これにより浪曲版との異質化が鮮明に。

そしてさらなる特徴として、サゲ(落ち)がつくこと。解説によると、蝶花楼馬楽(三代目)の速記にあったサゲで、本筋とは関係ない人物が出てくる、いかにも落語らしいサゲとのこと。起承転結の枠にとらわれない落語の魅力ですね。どんなサゲか気になる人は、圓生百席を聴いてみよう!

毎月20日頃に更新しているこのコラム。オイラなりに時節柄、季節柄を考えて題材を選んでいる。今回は2/20~3/19の掲載分(WEBコラムなので実質はずっと掲載)。三月といえば高尾太夫が来る! と息巻いて書いたのだが、なんと圓生百席版の紺屋高尾の年季明けは2月15日! もう過ぎてるじゃん!

まあ、語り手によって型が違うのも演芸の魅力の一つ。一ヶ月のずれはアドバンテージということでご勘弁を。

つづく

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。書店勤務を経て、現在はディスクユニオンの書籍販売担当として勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。 https://twitter.com/RAKUGORECORD
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