レコード盤★盤<br>“「悪名」坊主が生んだ暴れん坊 ”
feature #077

レコード盤★盤
“「悪名」坊主が生んだ暴れん坊 ”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.15 / 20 Dec. 2021

←Ep.14

瀬戸内寂聴が亡くなった。戦争体験、奔放な恋愛、30代での作家デビュー、50代での出家、僧侶となってもなお執筆を続ける傍ら、法話で大衆と向き合い続ける。興味をそそられるポイントの多過ぎる人生である。

どんな人なのか、どんな小説を書くのか気になり、何度か読もうと試みた。代表作といわれる『夏の終わり』、自伝小説『いずこより』、読み始めてはみたものの、美しすぎる文体がむずかゆく挫折。いずれまたチャレンジしたい。

僧侶が書く文学は古くからある。かつては隠者文学などと呼ばれ、落語や講談でもおなじみの西行法師、『徒然草』の兼好法師(吉田兼好)らが有名。近代は隠者と呼ばれるような僧侶自体が非常に少なくなったとはいえ、瀬戸内寂聴や、2001年に「中陰の花」で芥川賞を受賞した玄侑宗久など、文学界で高い評価を受ける僧侶が・・・。

違う、違う。別に文学の話をしたいわけではないし、ここはそういうサイトではない。レコードだよレコード。

僧侶+作家+レコードのキーワードでオイラの脳裏に浮かぶはこれ。

Album Title

極道辻説法 今東光 (LP)

20AG192 CBS・ソニー

インパクトのあるジャケ写ですね。オイラ、まったくリアルタイムではないのですが、毒舌和尚として人気だったお坊さんです。参議院議員を務め、テレビのコメンテーターも務め、雑誌に連載もあったそうです。瀬戸内寂聴の師僧でもあります。

このLPは、週刊プレイボーイの人気連載「極道辻説法」をレコード化したもの。僧侶とは思えぬ荒っぽい口調が面白く、冒頭いきなり、

質問者:「和尚、人間死んだらどこへ行くんですか?」
今東光:「知らねえよ、オレも。ハリ倒すぞ。」
質問者「じゃあ、天国はあるんですか?」
今東光:「それも行ったことねえからわかるかい。」

とまあ、これです。こんな調子で、お悩み相談。素晴らしいレコードです。

作家としての今東光の代表作といえば、河内の暴れん坊、八尾の朝吉を描いた『悪名』。勝新太郎主演で映画化されていますし、河内音頭の外題としても耳にしたことがあるので、名前だけは知っていました。とまあ、このような思考が頭を辿りまして、瀬戸内寂聴の訃報に接し、『悪名』を読みたくなったわけです。

早速Amazonでポチろうとしましたが、文庫1冊の割には意外に高い。収入が平均年収以下の我が身、おいそれとは買えない。なので、妻が登録しているAmazonプライムの「シネマコレクションby KADOKAWA」で映画を観る。大映制作、1961年に公開された『悪名』。勝新と相棒役の田宮二郎とのコンビは人気を博したようで、後にシリーズ化。全16作が作られています。しかし、アマプラで観られるのは2作目まで。もうちょい『悪名』に触れたい。そのためにはDVD-BOXを買わないといけないが、もちろん文庫本以上に高く、手が出せない。となるとやはり、家にあるレコードを聴くしかない。ということで、今回は『悪名』のレコードです。

まずはこちら。

Single Title

悪名(河内音頭)/悪名のテーマ(セリフ入り) (7インチ)

SN1216 テイチク

映画『悪名』のサントラEP盤。A面には勝新太郎による河内音頭、B面には映画の音声にテーマ音楽を被せて収録されています。

東京の下町深川育ちの勝新こと勝新太郎。父は長唄三味線方の杵屋勝東治。自身も10代で名取となっています。幼少の頃より邦楽に慣れ親しみ身に付けた、平均律とは異なる和の音律。長唄と河内音頭、ジャンルは違えど、やっぱり巧い。この映画のために、現代的河内音頭を代表する音頭取りである鉄砲光三郎に指導を受けたそうですが、河内音頭の唄い方の中にところどころ現れる江戸前の小粋な雰囲気がニクイ。

この河内音頭はシリーズ第6作の「悪名市場」の中で唄われているそうです。親分衆の前で朝吉が河内音頭を唄うということは解説で読みましたが、映画未見のため詳しいシチュエーションはよくわからん。単品でDVD化して欲しい。

お次はこちら。

Album Title

京山幸枝若大全集 浪曲 悪名(血沫花街の唄) (LP)

NL2388 テイチク

関西浪曲界の雄、京山幸枝若(初代)による浪曲版の「悪名」。朝吉が懇意の女郎を足抜けさせる件、映画第1作の中盤部分をまるっと浪曲化しています(原作未読のため、原作準拠か映画準拠なのかは不明)。ただ浪曲で演じているだけでなく、効果音とナレーションを効果的に使い、レコードで楽しむことを想定した演出が施されているのが特徴。DVDもVHSもない時代、家庭で映像再生はできません。こういった仕掛け入りに浪曲レコードを聴きながら、脳内スクリーンで朝吉の活躍を再生していた時代があったのでしょうか。

お次はもっと仕掛けたっぷりのこちら

Album Title

浪曲 悪名 駆け落ち河内音頭/侠客への道 中村冨士夫 (LP)

JV1229S ビクター

京都生まれの東京育ち。育ての父、鼈甲斎虎吉のもと、4才より浪曲修行を開始したという芸人育ち。戦後は大看板として一本立ちし、浪曲のみならず、歌謡曲や河内音頭のレコードも多数吹き込んでいます。「鼈甲斎」というのは中京節の系譜。三波春夫といい村田英雄といい、中京節はマルチなのでしょうか。中村冨士夫もまた、本職の浪曲以外もやたら巧い。

このレコード、A面は侠客になる前の少年~青年記、B面では暴れん坊が侠客になるまでが収録されています。冒頭、まずは河内音頭。これがまた巧い。そこからドラマ・パート。セリフのやりとりがまた巧い。ストーリー半ばで浪曲パートが入ります。美しい節回しに聴き惚れます。終盤には歌謡曲パートもあります。もちろん、歌も巧いです。芸能てんこ盛りのレコードです。

ただこのレコード、大阪言葉がきつ過ぎて、何言っているのよくわかんないのよね。昭和のレコードらしく速記付なので、読めばいいとお思いでしょうが、速記は話し言葉を起こしていますので、

「ヤバイんぢゃ。もっと早馳けんかい我れ、ハッ、小学校ん時もせやったが、ノロいぞうほんま、大人んなっても、ドンケツやないかいっ。」

という話が続きます。

東大阪に馴染みのある方は普通なのかも知れませんが、オイラは東京郊外東村山の生まれ。江戸弁、多摩弁、標準語にしか馴染みがないもんで、聴いても読んでもついていけません。

とはいえ、河内音頭が入って浪曲もあって、ドラマ・パートもあって、幸枝若のレコード同様、場面に合わせて効果音も入って、楽しいレコードです。ただただ演芸の実況録音だけでなく、自宅でのレコード再生を念頭おかれた演出。これもレコード文化の一つ。こういったスタイルが廃れてしまったのはちょっと寂しい。

『悪名』は他にも、浪曲、河内音頭の様々なレコードがありますが、最後にどうしても紹介したいものがあります。レコード紹介のコラムでCDの紹介ですが、ご容赦ください。

Single Title

男 朝吉 村田英雄 (8cmシングルCD)

TODT5312 東芝EMI

『悪名』の主人公、朝吉を歌った1999年のシングル。このコラムでも何度か村田英雄を紹介しましたが、レコード時代のジャケ写とはだいぶ異なる風貌です。

田英雄は1996年、糖尿病の合併症により右足の壊死を起こし、膝下切断。手術の前日、今まで自身を支えてきた右足に向け手紙を書き、心を無にするため頭を丸めました。

90年代の村田英雄は、九州時代から長年苦楽を共にした妻を亡くし、心臓のバイパス手術もし、右足の切断。盟友である三橋美智也と春日八郎も相次いで亡くなり、自身のキャリアの中では心も体も最低な状態です。引退も頭をよぎったようですが、村田英雄は復活します。恰幅の良い全盛期とはかけ離れた風貌。長良川に向かって歌い鍛え上げた声量も落ちてしまいましたが、それでも歌い続けます。それが、男・村田の生き方であり、生き様です。

この「男 朝吉」。ロングトーン部分ではちょいとヘロヘロになっちゃいますが、間奏部で啖呵切るところでは男・村田健在。圧倒的なカッコよさ。かつて東映任侠映画で主役を張っていたころを彷彿させます。

老いてなおその姿を晒すか否か。芸人の生き方として、賛否が分かれることと思います。

つい先日亡くなった落語家三遊亭円丈は、記憶力の低下と戦い続け、高座に台本を持ち込み、見台で堂々とカンニングしながらも舞台に上がり続けました。村田英雄は妻も友も足も失っても、舞台で歌い続けました。芸人がどんな姿になっても見続けたい、応援したい。それが贔屓というもんだとオイラは思う。いっぱい元気をもらったんだから、こっちも芸人を応援し続けて元気を与えなきゃ。

瀬戸内寂聴は99才でもなおインスタに登場。師僧である今東光はレコードの発売と同じ年に亡くなります。ありのままの姿で人生を最後まで駆け抜けた方々です。ああ、オイラもそうありたい。

とまあ、最期『悪名』とはまったくかけ離れた話になりましたが、これも法話みたいでいいじゃないですか。オイラのレコード法話、今回はこれまで。

(つづく)

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店勤務を経て、現在はディスクユニオンにて勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。
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