レコード盤★盤<br>“祝・一周年 歌謡説明、再び”
feature #066

レコード盤★盤
“祝・一周年 歌謡説明、再び”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.13 / 20 Oct. 2021

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月イチ更新のレコード盤★盤、早いもので、開始から一年が経ちました。レコード人気が再燃し、様々なメディアでレコードが取り上げられるようになりましたが、このコラムほど音楽成分の薄いレコード・コラムはないでしょう。掲載させ続けてくれる本サイトに感謝。これからも、深堀すれば面白い、流行とはよいとズレたレコードを紹介し続けたいと思います。

一年前の第一回に取り上げたテーマは「歌謡説明」。イントロから歌までの間にさらっと入る司会の語りが、歌の良さをぐんと引き立てます。司会入りのライヴ盤や、司会付カラオケ・レコードなど、歌謡説明入りのレコードは昭和の時代の多数リリースされていました。しかし、司会の語りが入るという理由だけではなかなか市場価値は上がらず、レコード人気が再燃している昨今でも、安価で買えるものがたくさんあります。歌謡説明好きのオイラとしては、好きなレコードが安く買えるのは嬉しい。けど、好きなレコードが評価されていないってのも寂しい。よし、今一度、歌謡説明の良さを訴えよう! というわけで、一周年記念、再び歌謡説明をテーマにお届けします。今回は三橋美智也が1956年(昭和31年)にリリースしたヒット・ナンバー、郷愁漂う三橋歌謡の代表曲である「リンゴ村から」を題材に、三人の歌謡説明をみていきましょう。

まずは、司会といえばやっぱりこの人。昨年も取り上げました玉置宏です。

Album Title

三橋美智也リサイタル (LP)

SKA46 キングレコード
Track

B2:リンゴ村から

歌謡説明

B2:「リンゴ村から」玉置宏ver.

“風が吹いてくると、必ず風の中に四季の匂いがしたふるさと
そのふるさとに今吹いているのは、晩秋の風
痛々しいばかりに人の少なくなった今でも
落ち葉と野を焼く匂いだけは昔のまま
そんなふるさとの匂いを、あなたもきっと、覚えておられると思います”

昭和四十七年九月に行われたチャリティー・コンサートの実況録音盤。元ラジオ・アナウンサーらしいゆっくりと、かつ、はっきりとした語り口で郷愁あふれる文章が語られます。九月のコンサートということもあり、秋を感じさせる言葉を折れ込んでいるのがポイント。この歌謡説明で、会場の聴衆はそれぞれの故郷に思いを馳せた状態で「リンゴ村から」を聴けるのです。歌が心に沁み込んできたことでしょう。会場にいたお客さんが羨ましい。

お次も一年前にも取り上げました、同じくアナウンサー出身の芥川隆行。

Album Title

芥川隆行の心にしみる歌謡曲 (2LP)

SKM1036~7 キングレコード
Track

DISC2 A7:リンゴ村から

歌謡説明

「リンゴ村から」芥川隆行ver.1

“昭和三十一年、石原慎太郎の『太陽の季節』がベスト・セラー。太陽族が大流行。
それにあこがれて農村の若者が皆都会に出始めましたが、夢と現実の違いに、後悔したものも多かったようですね。”

だいぶ説明臭い歌謡説明ですが、それもそのはず。このLPは、解説ナレーション入りで歌謡曲を聴くというコンセプト・アルバムです。昭和の時代、ナレーション入りレコードってのがたくさんありました。歌手本人が自分の持ち歌を解説していたり、曲間に女優さんのナレーションが入っていたり、芥川隆行のようなアナウンサー系の人の歌謡説明入りだったり、最近はめっきり見なくなったスタイルですね。

この歌謡説明を聴くと、「リンゴ村から」の発売当時の世相がよくわかります。ヒットの背景には、都会への期待と後悔、ふるさとへの郷愁を感じた若者が多くいたことが想像できます。

しかしまあ、せっかくの芥川隆行ですから、時代劇のナレーションよろしくビシっとした七五調も聴きたいじゃないですか。そんなときはこちらのレコード。

Album Title

芥川隆行が綴る演歌カラオケ集 故郷と初恋の演歌 (LP)

SKM1425 キングレコード
Track

A1:リンゴ村から

歌謡説明

「リンゴ村から」芥川隆行ver.2

“赤いリンゴを見るたびつらい
東京(とうきょ)へ行ったあのコのことが
思い出されて泣けてくる
便り途絶えて幾とせ過ぎ
今はどうしているのやら
赤いリンゴを見たならば
帰っておくれよふるさとに”

どうですこの見事な美文調! 二行目の東京を「とうきょ」と読ませて七音にし、四行目をあえて字足らずにして次の文への連続感を持たせる心憎い演出。芥川隆行の真骨頂ここにありという感じです。こんな語りに続けて自らが歌えるなんて、司会付きカラオケ・レコードは素晴らしい!

歌謡曲の司会の黎明期、司会を務めたのは元・活弁士たち。無声映画からトーキーへの移り変わりで職をなくしたため、持ち前の話術を活かして司会業に転身したのです。なので歌謡説明の語りは、活弁調ともいわれる七五調の文章が多かったようです。そんな中、あえて違う路線の歌謡説明を見出したのが、今回最後にご紹介する及川洋です。

Album Title

キング司会付きカラオケ歌謡大全集 (8LP BOX)

NAS16601~8ワールドファミリーレコード

DISC8:永遠の春日・三橋演歌

Track

B3:リンゴ村から

歌謡説明

「リンゴ村から」及川洋ver.

“長かった冬を通り抜けて今年もまた
春の終わりの白い花びらが揺れている
こんな晩には離れて遠い都の君に
しみじみ書いて便りを出そう
おぼえているかいオイラのことを”

軽演劇出身らしい軽妙な語り口が特徴的な及川洋。北島三郎ショーの司会を長らく務めたことでも有名です。大正十四年、東京の本郷出身。17歳の時に浅草の只野凡児劇団に入団し、歌に芝居にコントにと、浅草的なエンターテインメント・スタイルを学びます。その後、昭和二十五年頃から歌謡曲の司会もするようになり、東海林太郎、菅原都々子、三橋美智也らの司会を務めるようになります。

それまでの司会者の違う方向性を目指した及川洋の歌謡説明は、七五調から脱却した自由律。「リンゴ村から」の歌謡説明をみても、ポイントだけは七音で抑え、あとは自由なリズムで語っています。後のアナウンサー系歌謡説明の先駆けともいえるスタイルですね。ちなみのこの歌謡説明のラスト「オイラのことを」の「オイラ」のアクセントをあえて「イ」の部分において発音し、田舎臭く語っています。楽曲のポイントをさり気なく演出する巧みな技術です。

 三者三様の歌謡説明をみてきました。どんなリズム感の文体であろうが、歌謡説明はやっぱりいい。一曲の歌を引き立てるため、イントロのたった十数秒の語りのために練りに練られた文章。そして、それを語る声質と間合いの妙。素晴らしい話芸の一つ。再評価を切に願う!

つづく

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。書店勤務を経て、現在はディスクユニオンの書籍販売担当として勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。 https://twitter.com/RAKUGORECORD
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