レコード盤★盤<br>“四次元落語『あたま山』”
feature #040

レコード盤★盤
“四次元落語『あたま山』”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.6 / 22 Mar. 2021

←Ep.5

気温もだんだんと暖かくなり、いよいよ春となってまいりました。毎年々々聞かされていることかと思いますが、今年も言います。春といえば桜ですね。落語の世界では、『長屋の花見』、『花見の仇討』など、桜にまつわる噺が寄席を賑わせます。このコラムでも、そんな春にあやかりまして、ひとつ桜にまつわる落語を。四次元の世界に聴衆を誘う『あたま山』のレコードをご紹介といきましょう。

アニメ映画でも話題になりました『あたま山』。みなさま子供の頃、果物の種を飲んじゃったら、体の中で発芽しちまうんじゃないか、なんて想像した事はありませんか?そんな想像が一席の落語になったのが『あたま山』です。

主人公はケチな男、ケチの吝嗇【ケチ】兵衛さん。すごい名前ですな。吝嗇兵衛さん、ケチなもんだから、一度入れたモノを出すのがイヤだ。そんなんなんで、サクランボを種ごと食っちまった。

すると吝嗇兵衛さんの頭から芽が出て、みるみる内に桜の木が育つ。春になると満開の桜の花。花見の客で頭の上がうるせーのなんの。あまりにもうるさいもんで、吝嗇兵衛さん、頭の桜を引っこ抜いちまった。

引っこ抜いたら頭に窪みができる。その窪みに雨水が溜まる。ケチなもんだから、せっかたまったもんを捨てるのがイヤ。だから水はそのまんまで池になる。その内、頭の池に鯉が湧く、鮒が湧く。釣りに来た子供が騒ぐし、夜になると大人たちが舟を出して網を打つ。それがもううるせーのなんの。あまりにうるさいもんで、とうとう吝嗇兵衛さん、頭の池に身を投げてしまいました。

なんとまあシュールレアリスムな世界!すばらしいオチですね。状況を想像できますか? できませんよね? 吝嗇兵衛さんの頭はクラインの壺なんでしょうか。

さあ、この奇抜な噺をどう料理しているのか、昭和の名人のお二方のレコードを見ていきましょう。まずはこちら。

Album Title

古今亭志ん生名演集 三十一/三十二/三十三 (3LP)

F7091~3 キャニオンレコード
Track
Disk3 B:庚申待

ちなみにこれは裏ジャケです。村上豊によるジャケ画は、古今亭志ん生名演集の魅力の一つ。ジャケット表面はこんな感じです。

disk1~3のA面に渡って収められている『名人長二』が描かれています。

あれ? 『あたま山』じゃないじゃないかって? しかしこれは、間違いでもなんでもありません。志ん生は『庚申待』のマクラで『あたま山』を使っているのです。

『あたま山』という噺、ストーリー通りに演じると数分で終わってしまう短い噺。いわば、ちょっと膨らんだ小咄のようなもの。志ん生は『あたま山』を、いかにも落語らしいバカな噺と称しています。ストーリーに忠実に『あたま山』を演じ、その後、落語のオチの種類を少し解説。それに合わせていくつか小咄をふって客席を温め、本編『庚申待』に入ります。この『庚申待』という噺もなかなかのおバカな噺。『あたま山』のオチでふにゃふにゃになった思考の頭に、ズバズバ笑いが訪れます。この見事な流れ、ぜひご堪能ください。

短い噺である『あたま山』を、一席に仕立てたのが林家彦六(八代目正蔵)です。

Album Title

林家正蔵十八番集 第一集 (3LP)

JV1118~20 ビクター
Track
Disk2 B:あたま山

噺のマクラに『あたま山』を使った志ん生と違い、彦六は『あたま山』本編に入る前にたっぷりと小咄のマクラをふります。それも、雷様が出てきたり、龍が出てきたり、手と足が喧嘩したりと、荒唐無稽な小咄ばかり。そうです、これが奇天烈なオチを持つ『あたま山』への布石となるのです。落語という芸は、写実的表現だけでなく、完全フィクションの空想世界も表現できます。彦六はそのことを荒唐無稽な小咄で実演し、聴き手を『あたま山』の世界に入りやすくします。

そして本編。頭の桜の花見の場面は、芸者・幇間(たいこ)を上げてのドンチャン騒ぎ。彦六はここで音曲を挿入。芝居噺が得意な彦六ならではの粋な演出。曲は『奴さん』と『ステテコ』の2曲。ビクターの十八番集シリーズは全編スタジオ録音なのでクリアーな音質。三味線の響きがよく映えます。

そんな音曲やら、その後の頭の池でのガヤガヤした騒ぎがあって、忘れたころに頭の池に身を投げる。現実と思っていた状況がガラっと虚構に変わります。ここでマクラの小咄が活きてくるんですね~。イイ構成ですね~。頭がモヤっとしつつ、胸がスっとするような不思議な感覚が味わえます。

しかしまあ、桜の下での宴は楽しそうだな~。来年の春は、きっと・・・。

つづく

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。書店勤務を経て、現在はディスクユニオンの書籍販売担当として勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。 https://twitter.com/RAKUGORECORD
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