レコード盤★盤<br>“俺は村田だ! 花と竜 ”
feature #044

レコード盤★盤
“俺は村田だ! 花と竜 ”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.8 / 20 May 2021

←Ep.7

小売業に従事しているもんで、いつか、仕事はAIに取って代わられるかも知れない。もう既に、以前は手書きで行っていた伝票やら書面の類はデジタルに置き換わり始め、自身で計算する必要はなくなった。仕入れ、発注、レジ打ちだって、いずれAIがやってくれるようになるだろう。無職になる前に、AIじゃできない自分だけの仕事を見つけなきゃ。たとえば、落語や浪曲のレコードを集めて紹介するとか…あ、もうやってる。

技術革新や時流の変化によって仕事の内容は変わり、時にはその職種自体がなくなってしまうことは、今に始まったことではない。オイラの好きな落語や浪曲の世界には、今じゃ見かけない仕事がたくさん出てくる。鋳掛屋、代書屋、車夫、汚穢屋などなど、どんな仕事だかわからんでしょ?そんな消えた(消えかかっている)仕事を紹介する本が、昨年末、今年と立て続けに刊行されました。演芸にまつわる事柄も載っているので、読んでみました。

消えた仕事の一つとして沖仲仕【おきなかし】が載っていました。沖仲仕とは、港に接岸できない大型船の積み荷を陸に運ぶ港湾労働者のこと。伝馬船で乗り付け、海上で船から船へ荷物を積み下ろしたり、燃料となる石炭を運んだりする仕事です。船上での力仕事は危険が伴います。そんな仕事をするのは、力自慢で荒くれ者、命知らずな海の男たち。その男たちを親分が束ね、仕事に臨んでいたそうです。

沖仲仕の生活を描いた小説として、火野葦平の『花と竜』が紹介されていました。火野の父であり、福岡県は若松の沖仲仕、玉井金五郎が主人公の大河小説。興味が沸いたもんでこれも読んでみましたが、面白いのなんの! 玉井金五郎の男っぷりに惚れますね。

『花と竜』は映画にテレビドラマにと、幾度となく映像化されています。1964年のドラマ版では村田英雄が主人公を務め、自ら主題歌も歌っています。その曲が「花と竜」。おおよそほとんどのベスト盤に収録されている、村田英雄の代表曲の一つです。オイラ、村田英雄ファンですから、もちろんこの曲は知っておりますが、火野葦平の『花と竜』を読んでから聴く村田英雄の「花と竜」はもう格別なの!興奮が抑えきれません。だから今回は、村田英雄「花と竜」のレコードを紹介するよ。

まずは初出のシングル盤です。

Single Title

花と竜-村田英雄 女の意地-花村菊江 (7インチ)

AK522 コロムビア

B面の「女の意地」もドラマ主題歌のようですが、ドラマ見たことないんで、どっちがOPでどっちがEDかはわからず。村田英雄演じる金五郎を見てみたいんで、DVD化とか配信とかしてくれないかな。

それはさておき、この曲の作詞作曲は村田英雄本人です。
文芸浪曲という分野を切り開いた酒井雲のもとで浪曲師修行を積んだ村田英雄。師の志を受け継ぎ、独り立ちした後も多くの文芸浪曲を口演しています。文芸浪曲とは、本を読まない/読めない人にも文芸作品の楽しさを味わってもらうため、小説を浪曲に翻案したもの。村田英雄をその豪放な見た目とは裏腹に、数多くの小説を読み漁り、自身で浪曲化。古臭い演歌のイメージが強い人ですが、元はバリバリの新作派です。戦後、GHQにより演目が統制されていた浪曲界において、独自の演目を持つ村田英雄は頭角を現し、トップ・クラスの浪曲師となりました。
小説から核となるエッセンスを抜き出し再構築するという文芸浪曲。その創作経験はこの曲の作詞においても大いに生かされています。特に3番、

〽俺の死に場所ここだと決めた

ク~、たまりませんな。若松で一家を築き上げた玉井金五郎を見事に表現しています。是非とも小説を読んでから聴いてください。小説の世界と歌の世界とがピタっとハマる快感を味わえます。

とはいえ、小説『花と竜』は、上下巻にわかれた大作。ちょっと読むのがしんどいなんて思う方もいるかも知れません。そんな方には、聴いて楽しむ浪曲版をどうぞ。

Single Title

浪曲 花と竜 村田英雄 (10インチ)

DL75 コロムビア

玉井金五郎の男っぷりの良さを堪能できる二幕を浪曲化。浪曲といっても、普通の浪曲ではありません。オーケストラによる劇伴、他の役者の台詞も入ったりと、浪曲とラジオドラマを折衷したような仕上がり。もちろん、村田英雄の豪快な節回しや歌声も入っているので、歌も聴けてストーリーも味わえる超お徳盤です。

村田英雄は浪曲師から歌手に転向したと言われていいますが、歌手になってからもこのような浪曲レコードを度々制作しています。自身を育ててくれた浪曲への愛でしょうか。浪曲ファンのオイラのときめきポイントです。

村田英雄は1971年にコロムビアから東芝へ移籍。移籍後、過去のヒット曲を新録しています。もちろん、「花と竜」も。

Single Title

花と竜 村田英雄 (7インチ)

TP10600 東芝

印象的なイントロは活かしつつ、ドラム・セットがストレートにリズムを刻む洗練されたスタイルのアレンジ。コロムビア盤の発売は1964年、東芝盤は1979年。聴き比べると、歌謡曲の中でのドラムの役割が、ジャズ寄りのサウンドからロック色の強いものに変わっていったことわかります。それに対し、歳を重ね円熟味を増した村田英雄の歌い方はかなりレイドバック。サウンドの流行りを意に介せず、我を貫き通す村田英雄は魅力的です。

東芝時代には、『花と竜』をタイトルに冠したLPも出しています。

Album Title

花と竜/人生劇場 村田英雄 (LP)

TP60325 東芝

腕に竜の彫物、金五郎ジャケですね。部屋に飾っておくと、ずっと村田英雄に見張られている感じがする凄いジャケットです。
玉井金五郎は若気の至りから、腕に彫物を入れてしまいます。3番の歌い出し、

〽竜の彫物 伊達ではないぞ

とはこのこと。
この竜の彫物、小説版では左腕に入れますが、映像化作品によっては右腕に入れています。村田英雄版も、浪曲版でのセリフやこのジャケを見る限り、右腕に入れているようです。映像でも確認したいので、やっぱりなんとかDVD化、配信、してくれないかな。

村田英雄は歌番組でも「花と竜」をよく披露していたようですが、放送時間の関係から2番をカットして歌うことがほとんど。そんなショート・ヴァージンも聴いてみたい方にはこちらがおすすめ。

Album Title

芸能生活四十周年記念 村田英雄リサイタル 燃える男の歌声 (2LP)

TP60268~9 東芝
Track
DISC2 B2:花と竜

第二部、村田英雄ヒット・パレードの中で披露。大観衆を前にノッていますね。ああ、会場へタイムスリップしたい。ちなみにこのリサイタル、歌だけでなく、浪曲やチャンバラも披露。そしてなぜかチャンバラもLPに収録されています。音だけ聴いてもなんだかよくわかりません。「花と竜」の2番をカットするなら、チャンバラをカットすればよかったのに…。

さて、ここまででたっぷりと聴いてきて、村田英雄の男臭さに当てられちまったなと思いましたら、爽やかなインスト・ヴァージョンで一休み。

Album Title

アントニオ・コガ ギター・ムード 第4集 村田英雄集 (LP)

ALS4064 コロムビア
Track
A1:花と竜

歌手としての村田英雄を見出した古賀政男の愛弟子、アントニオ古賀のギター・アンサンブルによる村田英雄作品集です。ナイロン弦の音色が耳に心地よく響きます。歌がない事で際立つメロディー・ラインの良さ。改めていい曲だなあと感じます。

最後にご紹介は、『花と竜』の主人公、玉井金五郎が歌われたこの曲です。

Single Title

男三代 村田英雄 (7インチ)

TP17926 東芝

歌手生活三十周年を記念して、村田英雄の名曲に登場する三人の男をフィーチャーした楽曲。1番は『無法松の一生』の富島松五郎、2番は『王将』の坂田三吉、そして3番が『花と竜』の玉井金五郎です。一度に三人の男の息吹を感じられる好企画。特に好きなとこは、3番の出だしで『花と竜』チックなブラスのフレーズが入るとこ。グッときます。オマージュ感たっぷりの胸熱ポイントです。ちなみに、ジャケのイラストは村田英雄によるもの。多才ですね。松五郎がちょっと可愛い。

沖仲仕の仕事は、コンテナやクレーンの導入、港湾整備が進み、今ではかつての荒くれ者たちの力仕事とはだいぶ異なる仕事となっています。時代の変化ですね。

村田英雄が歌ってきた男の演歌も、時代の変化で中々受け入れ難いものになってきました。家庭を顧みず、男は外で仕事って、そんなのダメよね。けどそのうち、家事も育児も全部AIがやってくれて、男も女も家庭を顧みずに外で仕事ができるようになるかもね。いやそもそも、外でする仕事もAIに取って代わられるぞ。玉井金五郎は沖仲仕に、村田英雄は歌に命を懸けてきました。そんな人生の歌物語『花と竜』を、仕事もせずにのほほんと聴ける時代が来るのかしらね。

つづく

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。書店勤務を経て、現在はディスクユニオンの書籍販売担当として勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。 https://twitter.com/RAKUGORECORD
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