レコード盤★盤<br>“円丈の特別編”
feature #111

レコード盤★盤
“円丈の特別編”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.24 / 20 Sep. 2022

←Ep.23

前回の「耳なし芳一」に関するコラム、「次回、乞うご期待」と締めてしまったが、その後まったく平家物語と向き合えず。というのも、本の制作をしておりまして、その作業が佳境なんです。カタギの仕事(小売業のサラリーマンです)の合間を縫って新刊本を作るのは、結構大変なもんで。なんの本を作っているのかといいますと、落語家・三遊亭円丈の作品集、『円丈落語全集3』です。

著者である三遊亭円丈は、新作落語のパイオニアといわれる伝説的な落語家。従来の古典落語の枠組から脱却し、落語の新たな歴史を切り拓いた人物です。映画のアクションを落語の仕草に置き換えた「アクション落語 ランボー怒りの脱出」、埼玉ディスりネタの元祖「悲しみは埼玉に向けて」、アフガニスタン出身でムスリムの落語家が会社の余興に呼ばれる「ランゴランゴ」など、名作は数知れず。円丈作品は、これまでの落語の価値観を塗り替える革命だったのです。晩年は記憶力の低下に苦しみながらも高座に出続け、新作落語スピリットをファンに見せ続けましたが、惜しくも昨年11月にこの世を去りました。

2巻で刊行が途絶えていた全集、「続きは私がやります!」と表明してから足掛け3年、コロナ禍が始まったり、円丈師匠の病状が悪化してしまったりとあって、生前に刊行することは叶わなかったですが、ようやっと、もうすぐ刊行という所まできました。日々、刊行に向けて作業をしているので、今は「円丈」以外のことは考えられない状態なのです。というわけで、今回は三遊亭円丈にまつわるレコードをご紹介しましょう。

まずは、カルト歌謡とも称される人気ナンバーから。

Single Title

恋のホワン・ホワン 三遊亭円丈 (7インチ)

CREP5702 クリンク

円丈のあまりにも独特な歌声。初めて聴いたときは衝撃を受けましたが、聴けば聴くほどクセになります。発売当時の注目度はそこまで高くなかったようですが、ウォール・オブ・サウンドな編曲が注目され後年再評価。コンピCDへの収録や、2度のシングル盤再発を果たします。オリジナルはちょいと値段が高めでして、オイラが持っているのは再発盤。

ジャケの「恋のホワン・ホワン」の文字の下には〈CRUEL TO BE KIND〉の文字があることからわかる通り、元曲は英ロック歌手ニック・ロウの「CRUEL TO BE KIND(邦題:恋するふたり)」のカバー。国内盤シングルはこちら

Sinle Title

恋するふたり ニック・ロウ (7インチ)

P485F ワーナー

ビルボード、英国シングルチャートで12位を獲得したヒット曲です。発売は1979年。「恋のホワン・ホワン」の発売は1981年。当時の日本の音楽シーン、流行りを取り入れるのが早い。

カバー曲でありながらオリジナルとは別次元の人気を生み出した「恋のホワン・ホワン」は、カバーのカバーという珍現象を生み出します。それがこちら。

Single Title

恋のホワン・ホワン CHILDISH TONES feat. 宇佐蔵べに (7インチ)

KKV077VL KiliKiliVilla

おもちゃの楽器でロックンロールを演奏するバンドCHILDISH TONESが、宇佐蔵べに(アイドルらしいが、あんまりよく知らない)をヴォーカルに迎えてリリースされた7インチ。7インチってのがまたオマージュ感があっていいですね。演奏、歌声ともに独特の味わいがあります。ホワン・ホワンは常に独特の味わいです。

御存知の方も多いと思いますが、三遊亭円丈の「恋のホワン・ホワン」という曲は、こちらのアルバムからのシングル・カット曲です。

Album Title

リハビリテーション 三遊亭円丈 (LP)

3B23001 トリオ

円丈が世に出始めた1980年代、当時の数少ない公式音源の一つがこのLPです。普通に落語をレコードに吹き込むことを嫌がった円丈、当時ちょっぴり流行っていたスネークマンショー的なお笑いレコードを作りあげました。グラウンド整備を中継する野球中継、モースル信号による小噺など、あまりにもブッ飛んだギャグ・レコード。当時どれだけ売れたのかは知りませんが、後年に2度もCD化されています。発売から40年を経過した今でも結構笑えますので、ぜひ聴いてみてください。

円丈の独特の歌声を楽しめるレコードは、「恋のホワン・ホワン」以外にももう一枚ありまして、それもカバー曲。元曲が、ビールのCM曲としてヒットしたこちら。

Single Title

すごい男の唄 三好鉄生 (7インチ)

CWA430 クラウン

円丈のカバー版がこちら。

Single Title

すごいドラゴンズの唄/夏木ゆたか、高信太郎、三遊亭円丈、浅沼道郎 (7インチ)

CWA494 クラウン

名古屋出身の円丈は大の中日ドラゴンズ・ファン。同じくドラゴンズ・ファンの著名人4人と替え歌カバー。歌詞は5番まであり、1番ずつ歌い手を変え、セ・リーグ他球団を倒していきます。円丈は3番、大洋ホエールズ担当。あまりの歌声からか。途中に入る合いの手がヤジに聞こえます。

このレコード、B面には三好鉄生の元曲が収録。替え歌も元も一緒に楽しめる、同じレコード会社ならではの計らいですね。

1980年代はゴールデンタイムの演芸番組『花王名人劇場』やテレビCMにも出演し、全国区で名前を知られた三遊亭円丈。新たなものを作り上げていく新作落語魂は過去への執着が薄いためか、この頃の音源は非常に少なく、後年からファンになったオイラは残念でしょうがない。もっと円丈を観たい、聴きたい、触れたい。ずっとそう思っていたので、多くの円丈作品を楽しめる『円丈落語全集』シリーズに携われて本当に幸せです。一所懸命に円丈愛を注いで作っていますので、11月4日発売予定『円丈落語全集3』を、どうかご贔屓に。

(つづく)

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店勤務を経て、現在はディスクユニオンにて勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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