演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹（演芸＆レコード愛好家）
Ep.32 / 20 Jun. 2023

←Ep.31

温暖化だ異常気象だといったところで、六月が来れば雨が降るわけで、梅雨がやって来ます。雨が降ると、しとしと、ぴっちゃん、しとしと、ぴっちゃん。

〽しとしとぴっちゃん・しとぴっちゃん・しとぴっちゃん

というわけで、今回は『子連れ狼』がテーマです。
『子連れ狼』といえば、まずこの一枚から。

見事なジャケット画は原作の作画担当小島剛夕によるもの。主人公・拝一刀の強者っぷりが伝わる迫力あるジャケット画です。細やかな線といい、秀でた色彩感覚といい、劇画の醍醐味が十二分に伝わる、是非ともに手元においておきたい逸品です。

1970年から『漫画アクション』で連載が始まった『子連れ狼』。柳生一族の陰謀により、妻や配下の者を殺され、公儀介錯人の役目を追われた拝一刀。柳生一族を裏で操る裏柳生総帥・柳生烈堂への復讐を誓い、息子・大五郎を連れ刺客として旅へ出る物語です。ハードボイルドなストーリーと、子連れの殺し屋という異色の設定はすぐに人気となります。その人気をうけ、連載開始の翌年に作られたイメージ・ソングがこのレコードです。あまりにも有名なオノマトペ〈しとしとぴっちゃん〉に始まり、大五郎の思いを歌にしたパートを若草児童合唱団が、父・拝一刀パートを橋幸夫が歌います。1970年代の橋幸夫を代表するヒット曲で、発売翌年には、日本レコード大賞大衆賞や日本歌謡大賞特別賞など、大衆の支持を得た楽曲に贈られる賞を受賞します。作詞は原作者の小池一夫、作曲はビクター専属の𠮷田正。この橋、小池、𠮷田の組み合わせでは、もう一枚『子連れ狼』のイメージ・ソングが作られます。それがこちら。

2枚のシングル盤とも、A面B面両方が『子連れ狼』のイメージ・ソングです。この4曲を立て続けに聴けるLP盤がこちら。

LP収録版の「子連れ狼」（橋幸夫版）は、冒頭の語りパートをシングル版より長くとっており、より気持ちが『子連れ狼』の物語に入り込みやすくなっています。原作者が作詞を手掛けているだけに、どの楽曲も本編のストーリーにマッチし、登場人物の心象を写し出していて、原作ファンなら絶対好きになってしまう曲たちなのです。

血湧き肉躍る硬派なストーリーを楽しむには原作漫画がもちろん、と言いたいところですが、TVドラマ版もいいんです。萬屋錦之介主演で1973年から放送開始された『子連れ狼』（ドラマ版）は、原作のストーリーを再現しつ、萬屋錦之介の殺陣も映え、大人気ドラマとなります。前述の「子連れ狼」（橋幸夫版）は、このドラマ第三部（今風にいうとシーズン3）のオープニング曲としても使われました。第一部と二部のオープニング曲はこちら。

背後の柳生烈堂、凄い迫力です。作詞は原作者の小池一夫、作編曲はドラマの劇伴も務めた渡辺兵夫。要所々々できまるホーン・セクションの刻み、ストリングスの奏でる対旋律、グルーヴ感溢れるドラム、かるく歪んだエレキ・ギターのコード・ストローク、そして甘くゆったりと中低音ボイスで歌うバーブ佐竹。豊饒な昭和歌謡曲の魅力をこれでもかと詰め込んだ楽曲です。このかっこ良さははたまらん！

『子連れ狼』の映像化作品はいくつかありますが、個人的に超オススメは若山富三郎主演の映画版。血が飛び散り、頭、首、腹には刀がブスブスと突き刺さり、四肢切断や斬首シーン、敵陣の大量殺戮など、到底現在では考えられない演出のオンパレード。それでいて原作のハードボイルドなストーリー展開もきっちりとみせてくれる、スーパー・アクション痛快スプラッター時代劇です。TVドラマ版よりも先、1972年に第一作目が公開され、1974年までの短い期間に全6作品が公開されています。どんだけ人気だったんだよ！ どんなスケジュールで作ってんだよ！ と、いろいろとツッコミたくなります。

サントラ・レコードは未発売（後年、海外でCD化）ですが、三作目から劇中で使われる主題歌はシングル盤が発売されています。

作詞は小池一夫、作曲はかまやつひろし。かまやつの持ち味が活きたジャパニーズ・フォーク・ロック調のメロディにのる歌詞の第一節は、

〽夜がらすが　哭いた　誰かが　死ぬんだぜ

凄い文句ですね。でも、これが『子連れ狼』なのです。そして、若山富三郎の声が甘くて魅力的。

若山富三郎の映画版『子連れ狼』、実は海外でも人気があります。1作目と2作目を再編集した『SHOGUN ASSASSIN』という映画が1980年にアメリカで公開、VHSも発売され、グラインドハウス映画を愛する者たちを魅了します。クエンティン・タランティーノもその一人。『キル・ビル』の殺陣の演出には、『子連れ狼』（映画版）の印象が色濃く反映されています。

『SHOGUN ASSASSIN』の音楽は日本版と異なり、マーク・リンゼイという人が作曲しています。この人、1960年代にアメリカで人気だったロック・バンド、ポール・リヴィア＆ザ・レイダーズのリード・シンガーです。このバンドの曲は、タランティーノ監督作品『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも効果的に使用されていました。もしかして、なにか関係が、ないですかね。

『SHOGUN ASSASSIN』はサントラ・レコードが発売されています。

小島剛夕とは全く異なる、アメコミ・テイストのジャケ画。サウンドは当時の流行なのか、『サスペリア』のゴブリンとかジョン・カーペンターみたいな80年代シンセ・サウンドです。こういう、今聴くとチープなシンセ・サウンドって、なんだかクセになります。

漫画、映画、ドラマのように視覚で楽しむ『子連れ狼』もありますが、残酷描写が苦手な人は、聴いて楽しでみてはいかがでしょうか。最後にご紹介するのは、若者向けの浪曲レコード『ヤング浪曲』シリーズの第2弾として制作された、浪曲版「子連れ狼」です。

口演は声優としても活躍した二代目相模太郎。映画人気を受けて『子連れ狼』が題材に選ばれたと思われ、A面は映画版第1作を、B面は第2作のストーリーをモチーフとしています。

このレコードの魅力は、曲師による三味線の他に、佐藤允彦によるシンセサイザーの効果音と音楽がつくこと。制作から50年近く経過した今聴くシンセ・サウンドは、『SHOGUN ASSASSIN』と同じくチープではありますが、レトロな味わいともなっています。浪曲ボイス×三味線×シンセサイザー、他ではなかなか聴けないこの組み合わせを、是非楽しんでください。

主人公・拝一刀が携える刀は、短くて太い実践刀「胴太貫」。どうたぬき、タヌキ、、、前回のコラムが、『たぬき』を聴く。お、なんか期せずして繋がった。とまあ、こんな感じで、ちょっとしたことに喜んで、明るく前向きに、そして『子連れ狼』でスカっとして、じめじめした梅雨を乗り切っていこうと思います。

（つづく）