ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.30 / 29 Feb. 2024
既存の音源を流用するいわゆるサンプリングという手法は、ヒップホップ以降広く普及したわけだが、これらの源流はジャマイカにあったというのは面白い歴史。
さらにその源流といえるかも知れない。既存の楽曲を引用するというのは30~40年代のトリニダードのカリプソには多く存在する。イントロやテーマとして丸ごと引用するものもあれば、歌のなかに一節挟まれるものもある。まるで劇中劇のようにも思えるユニークな作りだ。
これは、中絶手術を受けるために町を出た売春婦のストーリーで、発売当時かなり問題になったという。
「Netty Netty」のイントロのフレーズは、ファッツ・ウォーラーがヒットさせた「Christopher Columbus」。
元来のストリング・バンド編成だったトリニダードの楽団に、ホーン・セクションやドラムセットがもたらされたのは、米国や英国のジャズ・バンドの形態からの影響だっただろう。編成を真似たら実際に演奏も真似てみたいのは自然なこと。「アメリカじゃこんなのやってたよ」ってな風にそのままフレーズを頂いてしまった感じだろうか。
同じく重鎮カリプソニアン、ライオンの楽曲「Bing Crosby」。こちらは途中で挟み込むスタイル。タイトル通り、当時の大スターであったビング・クロスビーを讃える歌。1分51秒あたりに引用されるのはクロスビーの36年のヒット「Pennies From Heaven」だ。
ライオンのレパートリーで人名がタイトルになっているのをもうひとつ。「Four Mills Brothers」ではヴォーカル・グループ名門、ミルス・ブラザースを讃えてみせる。歌のなかで引用される〈I Ain’t Got Nobody…〉という一節は、ミルス兄弟のレパートリーでもあったスタンダード曲。
恐らくは、このミルスが歌うフィルムをライオンも眺めて心打たれたのかも知れない。
引用というわけではないが、フランク・シナトラについて歌ったのはウィルマス・フーディニー。「ボビー・ソックス・アイドル」と呼ばれティーンエイジャーの人気を席巻したフランク・シナトラに向かって、「お前の声はカリプソに向いてるから、是非歌ったほうが良い。トリニダード訛りはわしが教えてやるさかいに」などと、身の程知らずなアドバイスをするフーディニーが可愛い。歌の最後は当時大ヒットしていた米国のアンドリュース・シスターズの「Rum And Coca Cola」を揶揄して、「カリプソっつうのはあんなもんじゃねぇよ」と。
人名曲繋がりでもう一曲。ジャイヴ・エンターティナー、キャブ・キャロウェイの歌はマクベス・ザ・グレートによるもの。
テレビもまだ普及していなかった時代。世界規模で考えると、やはり映画に出ていたスターは強いようだ。
そんなこんな。音楽や文化は想像するよりずっと軽やかに行ったり来たり。混じり合い、絡み合い、折り重なって形作られて来たのですな。古い歌を聴きながら、しみじみとロマンを感じるのであります。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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Our Covers #043 ワダマコト