GUITAR GRILL<br> “流行りのビートをでっち上げよう。<br>そして便乗しよう。という伝統”
feature #113

GUITAR GRILL
“流行りのビートをでっち上げよう。
そして便乗しよう。という伝統”

ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。

ワダマコト
Ep.15 / 30 Sep. 2022

←Ep.14

米国の大衆音楽は、周期的にカリブや南米の音楽に旬のダンス・ビートのヒントを求めてきた。マンボ、ルンバ、チャチャチャ、リンボー、ボサノヴァ… などなど。これが流行りのビートですよ、新しいダンスです、と。ルンバが流行れば、とにかく曲名にルンバと付ければ最先端なのだ。それが、正しくルンバか否かはさほど重要ではない。

例えば。ラテン・ビートで言うところのブーガルーと、ソウル・ジャズで言うところのブーガルー、なんだか違うじゃないか、とか。ハリー・ベラフォンテのカリプソとトリニダード・トバゴのカリプソはどうだ、とか。フレディ・キングがボサノヴァやるわけがないじゃないか、などなど。とても曖昧でややこしかったりするけれど、良い曲は残るし聴き続けられる。それが流行のキーワードに便乗した軽薄な動機で作られた曲だとしても、だ。なので、そこら辺は大らかにいたほうが音楽を愉しめるというわけだ。

ポール・アンカが1962年にヒットさせた「Eso Beso」は、歌詞にやたらとボサノヴァという言葉が出てくる。映画『黒いオルフェ』が1959年というから、世界中が新しい音楽ボサノヴァに大注目していたことが想像できるだろう。と言っても、どちらかと言えばボサノヴァというよりは南国っぽい何かといった感じで、例によって便乗の類いと言えるだろう。が、そんなことはさておいて、とても良くできた曲だと思うのだ。

Paul Anka「Eso Beso (That Kiss!)」

そして、アレンジと共にあるような曲なので、割とそのまんまの雰囲気でカヴァーされることが多い。そんな幾多あるカヴァーの中でも秀逸なのは、ジョージィ・フェイムのヴァージョンだ。粋で躍動感もあって、本当に素晴らしい原曲越え大賞。

Georgie Fame & the Blue Flames「Eso Beso」

コロンビアのロス・ティンエイジャーズのヴァージョンはチープなオルガンが絶妙な味わい。

Los Teen Agers「Eso Beso」

「ボッサノバでキッス」の邦題で日本語カヴァーしたのは、梓みちよ。

梓みちよ「ボッサ・ノバでキッス(エッソ・ベッソ)」

「Pillow Talk」のヒットで知られるシルビアと共に50年代にミッキー&シルビアとして「Love Is Strange」などを残した職人ギタリスト、ミッキー・ベイカーのフランス録音。これは何度聴いても回転数を間違えたんじゃないか、と錯覚してしまう全力疾走なインスト名演。

Mickey Baker「Eso Beso」

ロッキンでワイルドなギターのパイオニアの一人として知られるミッキー・ベイカー。本当に数限りないジャンプ・ブルース〜ロックン・ロールの名曲に名を連ねたセッションマンだが、駆け出しの頃はジャズ・ギタリストを目指していたそうだ。しかし、当時絶頂期だったピーウィ・クレイトンと出会って運命が大きく変わったという。キャデラックを乗り回し、ツアーバスまで所有していたピーウィに「どうやったらギターでそんなに儲かるのか」と尋ねたベイカー。ピーウィの答えは「ミッキー、やっぱブルース・ギターだよ」とな。

ベイカー曰く「それ以来、チョーキングするようになったのさ。金の為にね ガハハ」

これまた便乗だった。軽薄な動機がレジェンドを産んだのだ。こういう、したたかで下世話なエピソードは最高なのである。

(つづく)

Profile
カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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