ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.19 / 4 Feb. 2023
《Art Records》というと、バハマのカリプソものを沢山リリースしているので、バハマのレーベルかと思いきや、〈American Recording And Transcription service〉の略で、フロリダのレコード会社である。そこから60年代にリリースされたテディ・グリーヴスのアルバムが、実はジャマイカ好きも見逃せないユニークなシロモノなのだ。
ジャマイカとバハマの往来は結構盛んだったらしく、観光地バハマのホテル・バンドの仕事にジャマイカのミュージシャンがリクルートされることも多かった模様。このテディ・グリーヴスも恐らくそんな感じの、営業っぽいアルバムを2作残している。テディは、ベーシストでありシンガーで、YEASHKARK(ドナルド・グリーヴス)とエロール・グリーヴス兄弟の父でもあるひと。
そんなテディが、どういう経緯かバハマのリゾート仕事をゲットしたわけだ。そこで起用したメンバーが凄い。ギターにアーネスト・ラングリン、テナー・サックスにセドリック・ブルックス、アルト・サックスにオシー・ホール、ドラムにはカルロス・マルコムのセッションにも参加していたフレディ・キャンベル。極上のロックステディが聴こえてきそうな顔ぶれだが、今回はホテルのラウンジ仕様だ。みんな心得た達人たちなので、観光客たちの望むリクエストにばっちり応えるのである。
つまり、『Here’s Teddy Greaves and His Groovy Group』というアルバムは、オリジナリティやアーティスティックな面とは縁遠いというか、いわゆる箱バン、つまりはお仕事の音楽であって。だからこその。ある意味では責任感のない、やりたい放題なカヴァーがたくさん。そんなラフなセッションならではの良さがあると思う。
パッと目を惹くのはジョニー・ナッシュの「Hold Me Tight」のカヴァーだ。ヴォーカルのハーモニーは軽やかだが、バックはなかなかにイナタい音色だ。ラングリンもソウルフルかつブルージィに迫る好演。
言わずと知れたジョニー・ナッシュのもおさらいしておきましょう。
ジョニー・ナッシュの仲良し、ロイド・プライスがプロデュースしたソウル・シンガー、ハワード・テイトのヴァージョンは、ジョニー・ナッシュのトラックを流用していると思しきやつ。個人的にはこっちのほうが好き。
「Island Woman」「Yellow Bird」「Hold ‘Im Joe」など、ジャマイカのメントバンドやバハマ・カリプソでも定番となっている古典の数々、そしてビートルズの「Michelle」も聴きもの。
そんな、なんともeyeshadow向けなカヴァーばかりのアルバムなのだが、ひときわ異色なのは「Harper Valley PTA」である。元々はジーニー・C・ライリーがヒットさせたカントリー・ソング。
ちょっとスワンプっぽいニュアンスのあるこの曲を、テディ・グリーヴスと仲間たちは随分とファンキー&ブルージィに仕立てた。しかも、ラングリンが曲の前半で弾くのはバンジョー!イナタい。なんだか、ヘンテコなジャズ・ファンクのようでもあり、タジ・マハールのような雰囲気もあったりして。後半はギターに持ち替えてちゃんと燃えたぎってくれるので心配しないで。
どうだろう。アーネスト・ラングリンのキャリアのなかでも異色な一曲なのではないだろうか。
そんなこんな。ジャマイカの精鋭たちが、バハマに赴いてハメを外してはしゃいでいるような。そんなユニークな一枚。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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