ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.22 / 3 May. 2023
ハリー・べラフォンテが亡くなった。べラフォンテの大ヒット曲「Banana Boat Song」は、正確にはトリニダード・トバゴで言うところのカリプソではなくて、ジャマイカのワークソングのようなものであるというのはよく言われるところ。しかし、べラフォンテがフォーク・ミュージック・ブームの先駆けとしてカリブの民謡を世界に紹介する形でこの曲を歌ったことで、〈カリプソ〉という言葉自体が改めて世界に広まったことは間違いない。実際、カセットコンロスをはじめた頃、年配の方から、どんな音楽をやってるのかと尋ねられて「カリプソ」と答えると、「懐かしい! べラフォンテや浜村美智子みたいな感じ?」なんて反応が多かった。
べラフォンテが歌った純粋にカリプソが起源の曲といえば、「Man Smart Woman Smarter」がある。
タイトル通りに、男性よりも女性のほうが賢いのだと歌われるカリプソ古典。それは、神話のエデンの園のアダムとイヴまで遡って検証され、愉快な語り口で描かれる。なんともユニークな歌詞だ。オリジナルとされるのはキング・レイディオ。洒脱でいて武骨な戦前カリプソのアンサンブルがお見事な1936年録音。
これが、1945年のマクベス・ザ・グレイトによって洗練される。バックは名門、ジェラルド・クラークの楽団だ。
さらにアメリカナイズされてリズミカルでスウィンギーなのがデューク・オブ・アイアンの50’s録音。
バハマの歯抜けのピアノ弾き、ジョージ・シモネットのヴァージョンは、ジャマイカのメントにも近い味わい。
メントと言えば、のジョリー・ボーイズも歌っている。この味わい深さと言ったら。
バハマのカリプソ兄弟、タルボット・ブラザーズは、アコーディオンも入ってひときわ楽しい。
見事にツイスト化したのはゲイリー U.S. ボンズ。
ロバート・パーマーの70’s録音はニューオーリンズ風味に仕立てられてて、やたら煌びやかだ。ライヴ映像でご覧ください。
ほかにも、チャック・ブラウンによるゴーゴー仕立てのものなどなど、キリがないほど多くのカヴァーが残されている。「Not Me」というタイトルで録音されていることも多いので、さらなる聴き比べも果てしない。
話をべラフォンテに戻して…
べラフォンテに関しては、人種差別、飢餓問題、そして反戦反核など、活動家としての功績も知っておいてほしい。近年のドキュメンタリー映画などで、公民権運動の語り部として登場するべラフォンテを目にされた方も多いと思う。
『WE ARE THE WORLD』の企画を提唱したのもべラフォンテだったという。僕らの世代にとっては、ベネフィット・アルバムという、〈自分にもできる社会貢献〉をはじめて体験したのが、英国の『BAND AID』、そして『WE ARE THE WORLD』だった。有名人の自分だからできること。例えば音楽を通じて、世界で起きている問題を人々に気付かせる。いち早くそんな役割を担った偉人だった。
最後に、その『WE ARE THE WORLD』録音風景から。レコ—ディングの合間にアル・ジャロウが歌い出して、大合唱へと発展する「Banana Boat Song」が、なんとも楽しいので是非。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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Our Covers #043 ワダマコト