ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.28 / 22 Dec. 2023
今回はカリプソではなくてチカーノの名曲についてツルツルとしたためまする。
この曲に出会ったのは『Pachuco Boogie』というコンピレーションCDだった。ブルース名門レーベル《Arhoolie Records》からリリースされた一枚。40~50年代あたりのチカーノ楽団の貴重曲集である。ジャンプ・ブルースの一種のようなつもりで入手したものだったが、チカーノ特有の前につんのめるようなビートが全編に溢れ、ジャンプ・ブルースやブギウギとは何かがちょっと違う手応えだ。しかしとても興味深かったのを覚えている。そのコンピのなかでもこの曲のゴツい手触りは格別だった。ジャンプ・ブルース楽団が一曲は手がけるラテン・リズムの楽曲ともこれまた違う。土臭くてゴロンゴロンと転がる、はじめての感覚だった。
スウィング、ブギウギ、ジッターバグ、ルンバ、ズンバ、グァラチャ、ダンソン…様々なリズム、ダンスの名称が盛り込まれた歌詞は、チカーノたちの土曜の夜の光景を描いている。
1943年にLAで海兵がメキシコ系アメリカ人に暴行をはたらいたことが火種となって起きた暴動、〈ズートスーツ・ライオット〉を題材にした81年の映画『ズートスーツ』のサントラでもゲレロのヴォーカルでこの曲が再演されている。
そして、2005年にリリースされたライ・クーダーのアルバムで再びゲレロ本人がフィーチャーされて「おぉっ!」となったのだ。
2021年リリースのロス・ロボスのアルバムでもカヴァーされた。これは嬉しい驚きだった。
個人的に、メキシコ系アメリカ人という存在を意識させてくれたのは、サンタナではなくロス・ロボスの「La Bamba」だった。そういう世代だもんで。そして96年の名作『Colossal Head』の尖がってぶっちぎった感性で再び我々に衝撃を与えたロス・ロボス。『Colossal Head』やラテン・プレイボーイズのムードでこのチカーノ古典を料理していて、もうこれはたまらない名演。最高だ。
バリオ・ゴールド~ミュージック・キャンプの宮田さんが教えてくれたメキシコのグループによるカヴァーもめちゃくちゃハマった。極悪なマリンバ。この発想はなかなか斬新だと思う。
キッド・ラモスが参加したこちらも珍品。キッド・ラモスはブルース・ギター界隈では知られた名手で、ジミー・ヴォーンの後釜としてフェビュラス・サンダーバーズにも参加している。そんなラモスが2010年にリリースしたブルース~リズム&ブルースを聴かせるテハーノ風味なバンドのアルバムに収録されていた。
とてもシンプルで耳につくメロディ。そしてイナタいリズム。問答無用に大好物。何度でも繰り返して欲しいし、誰がやっても大体カッコいいのである。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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Our Covers #043 ワダマコト