ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.18 / 26 Dec. 2022
先日、神田の《Bar Slight》で催されているイベント『Poor Joe』にワダマンボのソロでライブ出演させて頂いた。HIGHLIFE HEAVENのshochangが主催の〈カリブmeetsジャズ〉的なコンセプトの会なのだが、このイベントタイトルの『Poor Joe』は、なかなかに自分的にも所縁のある曲だったのだ。
個人的にも長年の愛聴盤、ディジー・ガレスピーの『Jumbo Caribe』という1964年のアルバムに収録されたジャズ・カリプソ・チューンが「Poor Joe」だ。
奥さんにフライパンで殴られて死にかけるという、とても可哀そうなジョーの姿が描かれる。
そういえば今まで探したことがなかったが、調べてみれば他にもやっている人がいた。女性シンガー、バニー・ポールによるもの。1957年だから、これがオリジナルのよう。もっと古いのがあるのかも、だけど。
『Jumbo Caribe』はディジーの諸作のなかでも最もカリプソ色が濃い作品だ。ディジーのラテン・アプローチというと、「マンテカ」や「チュニジアの夜」など、所謂アフロ・キューバンを代表する濃密なイメージが強いのだが、『Jumbo Caribe』はどこかユルい。全編ユルくて、良い湯加減。
カセットコンロスでも「アーハー」というタイトルにして、ごく初期からレパートリーにしている「Barbados Carnival」という曲もこのアルバムで知った。
このレコードのクレジットだと、当時のバンドのベーシストであるクリス・ホワイトの作となっており、この曲のヴォーカルもホワイトが歌っているようなので、このひとがトリニダード出身なのかと長年勘違いしていたが、今回調べてみたらニューヨーク生まれだった。すみません。作詞作曲がホワイトというのはでたらめで、この曲には原曲がある。
40年代から活動をはじめたものの若くして亡くなってしまったので、なかなかに音源が見つからないが、《ICE》レーベルからリリースされていたCDは素晴らしい曲ばかりで50’sカリプソの最高峰と呼びたいもの。
これをカヴァーしたのがマイティ・パンサー。
バックはラッド・リチャーズの楽団で、《ART》レーベルからのリリースなので、バハマでの録音だと思う。マイティ・パンサー自身はトリニダードの出身のようなので出稼ぎ録音という感じだろうか。こういう、トリニダード〜ジャマイカ〜バハマの行き来が結構あったようで、バハマのレコードにアーネスト・ラングリンがギターで参加してるのがいくつかあったりして、バハマものはあなどれないのだ。
この曲を収録したパンサーのアルバムは、スウィンギーなカリプソが満載でこれまたバハマ流儀のカリプソの最高峰。クリス・ホワイトかディジー・ガレスピーは、恐らくこのヴァージョンを耳にしたのだろうと推測するのだが、どうだろう。
ほかにも、APEというアメリカのエキゾチック・バンドが2003年にカヴァーしていたのだが、音源が見つからずで残念。実は、当時密かにこのバンドにライバル心を抱いていたのだが、Myspace(懐かしい)で繋がって、お互い「いつかあいたいですね」的な感じになったような覚えがある。あれから音沙汰なく20年が過ぎてしまった。バンドは現存しているようだが、元気だろうか。このバンドの映像を観ると、ライブ中にティキ(ハワイの木彫りのアレね)をずっと彫り続けてるメンバーがいたり、だいぶ変で面白かったのだが、今もそのスタイルなのだろうか。いつかリンクしたいものだ。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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Our Covers #043 ワダマコト