ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.26 / 6 Oct. 2023
バハマの巨人、ジョセフ・スペンスの「Out on the Rolling Sea」は、僕にとってのエヴァ—グリーンな名曲だ。ゴスペルとカリブとブルースを折衷してしまった偉業。奔放な歌と武骨で躍動感溢れるギター、そして足踏み。なんて自由な歌だろう。ギターのフレーズも、ハミングを交えた歌詞さえも、湧き出てくるままに表現する。音楽の原点でいて究極の形に思えるのだ。ジョセフ・スペンスが嫌いだなんて言うひとがもしもいたなら、そんなヤツは信用してはいけない。
スカやメントでもよく取り上げられるこんな曲も、鼻歌気分でいてめちゃくちゃエグい。
というわけで、ジョセフ・スペンス。この音楽観に最も近しいものを感じさせてくれたのは、ライ・クーダーでもタジ・マハールでもなくて(どっちも好きだけど)、オル・ダラだった。決して力まないけれど達観してる。そういうのが音で伝わる名演。
ジョセフ・スペンスがバンド編成の録音を残してくれていたら、どんなだっただろうとよく想像していたけれど、オル・ダラの1stアルバムを聴いて「この匂いは!」とビリビリ感じて。そしたら2ndアルバムでこの曲をカヴァーしていて嬉しくなってしまったのだった。ちなみに、この2ndアルバム『Neighborhoods』の日本盤にはボーナストラックとして「Out on the Rolling Sea」の弾き語りヴァージョンも収録されていた。
そういえば、ヴァン・ダイク・パークスもこの曲カヴァーしていた。
さすがにこれはやり過ぎだよなぁ、と思う。ポーチか海辺で口ずさまれていた歌を荘厳な劇場仕立てにしたような。いかにもヴァン・ダイク・パークスらしいアレンジ。素朴で武骨なのが良かったのに。個人的には、ヴァン・ダイク・パークスに関しては好きと嫌いが入り混じって複雑なのだ。
そんなこんな。バハマの宝、ジョセフ・スペンスは周期的にマイ・ブームが訪れる。秋のジョセフ・スペンス・フェアでした。
ジョセフ・スペンスとビギニング・オブ・ジ・エンド“「Funky Nassau」を生んだバハマはいつの時代もミクスチャ天国なのだ。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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