
ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.9 / 29 Mar. 2022
猛烈に宣伝になってしまい恐縮ですが、ワダのソロ宅録アルバム、『WADA MAMBO – homemade monaural deluxe 2』がリリースであります。ぜひに広く聴いて頂きたいと切に願います。すでに沢山のご予約を頂いた分に関しては発送済み。最寄りのポストにパンパンに詰め込んでやりました。がしかし、まだまだワダ家の生活空間を圧迫する巨大な段ボール箱が二つばかりある。こいつをなんとかしたい。eyeshadow武田さんのご厚意により今回はこのコラムも好きなようにやってよろしいとお許しを頂きましたのでお付き合い頂ければ幸いです。
『2』とあるように、本作は15年前にリリースした宅録インスト曲集の続編。バンドサウンドが大好きだが、家も好きでネコと過ごす時間も大切にしたい、そんな自分にとっての宅録、多重録音の原点の話をツルツルと。
滋賀は大津の山奥で過ごした十代。山を下りて京都のレコード店でブルースのLPを買って来ては貪り聴く。しかし、その素晴らしさを共有できる友人はおらず、一人悶々とギターを弾いていた。思い返せばなんとも可哀そうな青春である。その頃によく聴いていたのは、チャック・ベリーがアイドルとして挙げていたジャンプ・ブルース・シャウター、ジョー・ターナー。その相棒のピアニストのピート・ジョンスンがどうやら素晴らしいことも突き止めた。ブルース関連の本やディスクガイドは沢山読んでいたので頭でっかちだったのだ。ジョンスンのレパートリーでお気に入りだったのは「Swanee River Boogie」だ。「ピートのピアノは素晴らしい」と馴れ馴れしく知ったかぶってみたものの、本当はどれも同じに聞こえて困惑していた。しかし、この曲だけは違った。誰でも聞き覚えのある〈スワニー川〉の、あの日和ったメロディがブギウギに生まれ変わっているのだ。なんという躍動感!
これは自分にとって画期的だった。ディミニッシュもマイナーもいらない。どんなメロディも3コードでブギウギできてしまうなんて。この素晴らしい発明に気づいているのは、日本では自分だけに違いない。そう思っていたのだから、本当はとても幸せな青春だったのかも知れない。
こういうサウンドを録音しなければならないという使命感に憑りつかれたものの、一緒に演奏してくれる友達はいない。マルチトラックという概念など思いもよらない。しかし、なんとかしなければならなかった。そこで考えたのは、ソニーの小さなカセットレコーダーでピアノを録音して、それを流しながらもう一台のサンヨーの赤いラジカセでギターを録音する計画。素晴らしい。滋賀のレス・ポールである。さっそく実行してみるが、ピアノのたどたどしいリズムはギターを被せるのもようやっとという感じ。繰り返しやるとなんとか慣れてきたけれど、その頃にはテープが伸びてきてピアノの音がウネウネしはじめた。ギターを鳴らすのは、9ボルトの乾電池駆動のアンプ。一応、フェンダー社製だ。しかし、これはもうどうやっても歪む。マイクで歪んで、スピーカーで歪んで、アンプで歪んで…最終的に混沌としたヒスノイズが全てを優しく覆い隠してしまった。苦心の末に完成したインスト・ブルース曲。あれは、良い音だった。ような気がする。年を経るごとに脳内で美化されて、今では40年代のエレクトリック・ギターの音を聴くたびに、「おれも昔はこんな音だったよな」などと思うのだ。あのマスターテープはどこに行ってしまったのか。たぶん、このまま聴かないでおいたほうが幸せなのだろう。
そんな原点のヘッポコ録音から、随分と時間を経てしまったけれど、基本的には何も変わっていないような気がしてきた。身近にあるもので何とかしよう。走り書きのような。そんな音の最新型を記録したものが『WADA MAMBO – homemade monaural deluxe 2』です。
とまぁ、ちょっとイイ話風に読み進めると最後に「なんだよ、広告かよ!」と、怒りを買うパターンになってしまったかも知れないけれど、『WADA MAMBO – homemade monaural deluxe 2』でカヴァーしているDUKE OF IRONというカリプソニアンの「Kockeemoonga」という曲をご紹介しておきます。
『WADA MAMBO – homemade monaural deluxe 2』の詳細はこちら
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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