ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.3 / 24 Sept. 2021
前回に引き続き、トリニダードの楽団が料理した米国ポップスをご紹介。
ドラマーでありバンドリーダーであったクラレンス・カーヴァンの楽団による「Smoke Gets In Your Eyes」。言わずと知れたプラターズの大ヒット曲を見事にカリプソ化している。ときにホーン・セクションのカウンターメロディを、ときにベースラインに寄り添うように、はたまたクチャクチャと粘着質なコードカッティングと変幻自在なギターが見事だ。緻密に込み入ったホーンセクションのアンサンブルにギター一本で立ち向かうような、そんな印象である。主メロはホーンに任せてはいても、影の主役はギターだと言って良いだろう。これこそトリニダードのダンスバンドの醍醐味のひとつだと思う。
カーヴァンの楽団はダーリング・ブラウン、フレディ・ハリス、シピオ・サージェントという順に歴代有能なギタリストを抱えてきた。どこかのブログだか動画サイトだかで、この曲を収録した『Artiste』というアルバムの前作『Body And Soul』に触れたものがあって、そこに当時の楽団メンバーであったロイ・ケイプ本人が書き込みをして、『Body And Soul』のギターがサージェントだったことを述べていたので、その次の作品である『Artiste』のギターもサージェントなのだろうと推測される。『Artiste』はカタログ番号から辿ると恐らく63年か64年のリリース。今回調べてはじめて知ったが、44年生まれのサージェントは当時二十歳そこそこだったことになる。驚愕だ。いまだに盤に針を落とすたびに新たな発見と驚きを与えられている場合ではない。こちとらもう五十になろうというのに。天才は最初から素晴らしいのですな。自分の二十歳の頃を思い返せば、パチンコとテトリスに明け暮れていたような気がして、なんとも悔やまれる。やり直したい。
ともあれ。カーヴァン楽団の歴代ギタリストたちに共通するのは、アレンジにガッツリ食い込んだ重要な役割を担っていること。こういったギターのパートがどこまでアレンジャーの意図で、どのくらいギタリストのセンスに任されていたのか、とても気になるところだ。
ちなみに、カーヴァン楽団はギタリストのみならず、トランぺッターのロン・バーリッジ、前述したサックスのロイ・ケイプら、有能なプレイヤーでありのちにアレンジャー/バンドリーダーとして活躍する重要人物を多く輩出している。トリニダード版のスカタライツといったところだろうか。
のちにカーヴァン自身はニューヨークへ渡り、バンドはロン・バーリッジが引き継ぐことになる。さらにのちにバーリッジもニューヨークへ渡り、残ったメンバーがマイティ・スパロウのバックで知られるトルバドールズへ。脈々とカリプソ最前線を走り続ける遺伝子の根っこがここにあるのだ。
クラレンス・カーヴァンの貴重なインタビューが掲載されたサイトがあるので、興味ある方はぜひ。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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