ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.16 / 4 Nov. 2022
先日、カセットコンロスのライブで大阪に行ったときにDJの皆さんと「マイナー・キーのカリプソ・インスト曲は、たまらない魅力がありますなぁ」という話題になって。自分的に好みなマイナー・キーのカリプソ・インストといえばコレだ。
「Port of Spain Shuffle」というカリプソのインスト・ナンバーがある。1950年代初頭のイギリス録音で、カリプソ・リズム・キングスなる楽団の演奏だ。トランペットによるメロディの下にサックスは最初バッキング・リフ、そして次第にメロディのハーモニーへと移行して、ブリッジには猛烈にかっこいいギターの単音フレーズが挟まれる。
この曲の面白いところはそれだけではない。そのリズムのユニークさにも注目すべきだろう。一拍目にドドッ、ドドッと入るコンガのアクセント。トリニダード産のリズムだと、ントトッ、ントトッとか、ツクタタ、ツクタタと後ろにアクセントが来そうなものなのに、この曲は前のめりなのだ。想像するにガーナとかナイジェリアとか西アフリカ出身のパーカッショニストによるものではないだろうか。中間にパーカッション・ソロが挟まれるのだが、ホーンがテーマに帰ってくると、ントトッ、トトッン….あれれ。なんだかリズムがひっくり返ったような。そして曲の終わりも太鼓は止まらず、いや止まれず、なのかも知れない。なんだか大事故っぽいけれども。それも含めて、カリプソ好きにはとてもカッコ良く愛らしい、そしてミステリアスな名演なのである。
フランスのサックス奏者、Barney Wilenが1988年のアルバムでカヴァーしている。マイルス・デイヴィスやセロニアス・モンクとの共演もある名人だが、70年代にはアフロ・グルーヴを試みていたりして鋭い感性のひと。この演奏も一聴モロ・ジャズだが、耳を澄ませばちゃんと原曲の香りを残してくれている。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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