GUITAR GRILL<br>“イエローバードの沼”
feature #158

GUITAR GRILL
“イエローバードの沼”

ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。

ワダマコト
Ep.27 / 15 Nov. 2023

←Ep.26

ジャマイカのメントバンドのみならず、バハマのホテル・バンドも、米国ではミルス・ブラザーズらのヴォーカル・グループにも取り上げられ、さらにはヴェンチャーズのレパートリーとしても有名なカリビアン・クラシック「Yellow Bird」。レコード店のワールドミュージック・コーナーで見かける、バンドメンバーが並んだ写真のジャケット。内容もわからないしバンド名も聞いたことない。しかし、そこに「Yellow Bird」と「Jamaica Farewell」が収録されてれば、ほぼ確実にカリブのホテル・バンドだ。あとはジャマイカか、バハマか、バミューダか、現場さえわかれば聴く前から傾向と対策はバッチリである。針を落とせばそこが四畳半のアパートであろうと、たちまち青い海が広がり、振り返れば小鳥がさえずるのです。

そんな、〈欧米からイメージするカリブ・リゾート〉の典型みたいなイメージの「Yellow Bird」。英語詞ということもあって、米国生まれか、ジャマイカか、あんまりトリニダード・トバゴ産ではないっぽいけど…などなど推測していたら、意外にもハイチで作られた曲だった。

Issa El Saieh「Choucoune」

ニューオーリンズ生まれでハイチで育った作曲家、ミシェル・モーレアール・モントンが詩人オズワルド・デュランの「Choucoune(シュクーヌ)」という詩にメロディをつけたもの。詩は1883年に書かれ、1893年に演奏されたのが最初だという。

Katherine Dunham & Her Ensemble「Choucoune」

こちらのヴァージョンはダンサーであり舞踏団を率いてアフロ・カリビアンのダンスを米国のみならず世界中に紹介したキャサリン・ダナムによる1948年にフランスの《デッカ》に吹きこまれたもの。〈アフリカ系アメリカ人の舞踊の家母長にして皇太后〉とも称されるダナム。その探究心はハンパなくダンスから辿ってカリブ諸国の文化人類学的なところまで。ハイチのヴードゥー、トリニダード・トバゴのシャンゴなどに関する論文を発表していたりと、アフロ・カリビアンの文化を世界に伝えた重要な存在だった。ハイチにも住んでいた時期があり、そこで「Choucoune」と出会ったというわけだ。

Josephine Premice「Choucoune」

ジョセフィン・プレマイスもダナムの舞踏団出身だった。こちらは57年に米国の名プロデューサー、ジーン・ノーマンのレーベルから。洒脱なスモール・コンボをバックにフランス語で歌われる。

「Choucoune」のタイトルで吹き込まれたものを聴くと、僕らの耳馴染んだメロディに辿り着く前にもうひとつヴァースというか、別のメロディがくっついていることに気がつくだろう。本来のAメロ部分は英語化する際に省かれたようだ。

かたや、ハリー・ベラフォンテが吹き込んだ英語詞は「Don’t Ever Love Me」のタイトルで、Aメロつき。「Yellow Bird」とは異なる歌詞で歌われている。

Harry Belafonte「Don’t Ever Love Me」

「Yellow Bird」としての初レコーディングは、ノーマン・ルボフによるもの。歌詞はソングライター、アラン&マリリン・バーグマン夫妻。

Norman Luboff Choir「Yellow Bird」

ベラフォンテ、ルボフ共に1957年にリリースされていて、同時に二つの英語版「Choucoune」が世に放たれたのである。

ここで、歌詞の内容を比べてみよう。全文載せるとかさばるので要約ですいません。

「Choucoune」

マラブー(混血)の美女に恋焦がれる主人公。しかし、彼女はフランス人の男の虜になっていまう。足を鎖で繋がれたよう、とその心を表現しているのが印象的だ。「この痛みは大きすぎる。忘れたほうがいい」と小鳥に向かって嘆く。大筋はそんな感じだろうか。

「Don’t Ever Love Me」

熱帯の島で美しい娘と恋に落ちる主人公。しかし彼女が言うには「私たちの恋は実らない。私を愛さないで。諦めて。私は自由気ままなの」とな。なんとも可哀想な話なのは原曲と重なるものの、ディティールやメッセージ性は省かれた感がある。そして小鳥は登場しない。

「Yellow Bird」

バナナの木の上にいる黄色い小鳥と一人ぼっちでいる自分を重ねる主人公。大空に飛び立ってゆける小鳥を羨みつつ。

原詩には、ある意味でカリプソにも共通するような毒があり生々しさがあった。そこは削ぎ落とされた感じ。

そんなこんな。ノーマン・ルボフのヴァージョンのヒットにより、「Yellow Bird」は世界中で多くのカヴァーを産む。

いち早く取り上げたのがミルス・ブラザーズ。アメリカが思い浮かべるカリビアン・リゾートの風景である。

Mills Brothers「Yellow Bird」

インストでカリブのムードを印象付けたのは、やはりアーサー・ライマンのヴァージョンが決定的ということになるだろう。

Arthur Lyman「Yellow Bird」

バミューダのカリプソ兄弟、タルボット・ブラザーズの珍しい動画もある。

Talbot Brothers「Yellow Bird」

個人的にはパラゴンズのバージョンが一番好き。

Paragons「Yellow Bird」

まだまだあるので、皆さまもイエローバード沼をどうぞ。漫画化〜アニメ化〜実写化〜ハリウッド版…といったアンバイで原作から様々な変化を遂げてゆく様にも似ていますな。時代も国境も越える普遍のメロディ。

(つづく)

Profile
カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
con-los.com
wadamambo.com
ppdp.jp
piquant.jp
Our Covers #043 ワダマコト

Our Covers

Yo. Shinoyama
Our Covers #098

Yo. Shinoyama

Searchin' music store
内田大樹
Our Covers #097

内田大樹

rotary店主
Iñigo Pastor
Our Covers #096

Iñigo Pastor

Munster Records
奥山一浩
Our Covers #095

奥山一浩

PICKUP + oncafe 店主

EyeTube

The Nat Birchall Quartet – Ringo Oiwake [美空ひばり]
EyeTube #1775

The Nat Birchall Quartet – Ringo Oiwake [美空ひばり]

The Bodysnatchers – Too Experienced [Bob Andy]
EyeTube #1774

The Bodysnatchers – Too Experienced [Bob Andy]

The Beatles feat. Tony Sheridan – What’d I Say [Ray Charles]
EyeTube #1773

The Beatles feat. Tony Sheridan – What’d I Say [Ray Charles]

Nick Heyward – Hot Love [T. Rex]
EyeTube #1772

Nick Heyward – Hot Love [T. Rex]

Playlists

Editor’s Choice
Playlists #001

Editor’s Choice

Store

Mew O’Clock
T-Shirts

Mew O’Clock

eyeshadow’s Dub Workshop<br/>“Ethiopian Relaxation”
T-Shirts

eyeshadow’s Dub Workshop
“Ethiopian Relaxation”

Mew O’Clock – Mug
Goods

Mew O’Clock – Mug