ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.24 / 7 Jul. 2023
カリプソの王者、マイティ・スパロウによる、あんまりカリプソじゃない異色作『Sparrow Sings for Lovers』から辿る、アザー・サイド・オブ・スパロウ。前回からの続きです。
B面になって、ようやくスパロウらしいカリプソ曲が出てきた。典型的なスパロウ節。しかし、このメロディの展開のひとヒネリ具合いを感じてほしい。コレである。当時のヒット・ポップスから受ける刺激を自分のアレンジに活かすスパロウ。そして、カリプソそのものをアップデートしていったのがマイティ・スパロウなのである。
「Hither, Thither, and Yon」もやはり60年のヒット。ブルック・ベントンによるものである。スパロウが歌い方を寄せている感はあるが、スパロウとベントンはバラード曲に関しては元々の声質や歌い口が似ているのかも知れない。スパロウのほうが下品だけど。そこが良い。
「Rose」もオリジナル・カリプソ曲。スパロウ的にはオールド・スクールな感じのスタイルだ。歌のうしろで “南京豆売り” のフレージングが引用されるホーンなどなど、遊び心もたっぷり。
「Great Pretender」こちらも説明不要な大名曲。プラターズの55年のヒットである。スパロウの囁きを聴いてほしい。ギターの安い音がホテル・バンド感を醸し出していて、それもまたたまらなく愛おしいのだ。
「Love Me As Though There Were No Tomorrow」はナット・キング・コールの57年のヒット。エンターティメント界で頂点を極めたアフリカン・アメリカンのひとりとして、世界中のアフリカ・ルーツのエンターティナーたちに希望を与えたのがキング・コールだったのではないだろうか。ここではチャチャチャ・アレンジで聴かせるが、この質感は意外とトリニダードの楽団ならではのムード。本格ラテン楽団ではこうはならないのが不思議な魅力なのである。
「El Reloj」はスペイン語で歌われるボレロ。この曲もお気に入りのようで、スパロウは65年の『Tatoo Woman』でも再演している。原曲はメキシコのロベルト・カントラルによる作。カントラルが率いたロス・トレス・キャバレロスの録音やトリオ・ロス・パンチョスらのヴァージョンが有名だろうか。哀愁たっぷりのメロディである。
そんなこんな、二回に渡って『Sparrow Sings for Lovers』を探ってみた。スパロウのオリジナル曲にみられる凝ったコード進行は、ボレロからヒントを得たものも多いのかも知れないな、とか。色々な発見が。そして、甘いメロディがとにかく大好きなスパロウなのである。ときに田舎のカラオケ親父のような風情を醸しながらも、有名曲を良い気分で歌い上げるのだ。カリプソ・キングのアフター・アワーズのような、打ち上げ会場のような、そんな一枚。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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Our Covers #043 ワダマコト