ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.1 / 22 July 2021
ギターもののカヴァー曲というテーマでこれから様々取り上げてまいります。ワダです。どうぞ、よろしくお願いいたします。
記念すべき一回目ということで、「エレキ・ギターと言えば」な曲を。サーフ・ミュージックがまだジャック・ジョンソンじゃなかった時代。シャドウズやヴェンチャーズといったエレキ・インスト・グループのテケテケ・サウンドが世界を席巻したわけです。思えば、このタイミングで人類はリヴァーブやトレモロ・エフェクトの音色に夏と海を感じるように刷り込まれたのですな。
エレキ・インストの代表的なナンバーといえば、シャドウズの60年のヒット「Apache」。もう、ここにテケテケの全てが凝縮されています。これは世界中に輸出され、そして各地で根を張りそこで変異を遂げてまた新たな伝統を生んでいくのです。そう、まるでウィルスが蔓延してゆくかのように、世界中にエレキ・ギターのテケテケが伝染してゆく最初の一歩。
そして、日本では英国のシャドウズよりも人気が高かった米国のヴェンチャーズのヴァージョンが、例えば先日亡くなってしまったエレキの神様、寺内タケシ氏のブルージーンズによりリメイクされました。日本に届いたテケテケは、グループ・サウンズ、民謡、クラシックと、あらゆる音をエレキ化させていくことになります。
デンマークのギタリスト、ヨルゲン・イングマンは北欧版レス・ポールといった趣。いろいろ多重録音で変なことやってますが、このひとも「Apache」。うまいですねぇ。ギターは実に色々な音色が出せる楽器なのです。全く関係ないですが、この人の名前を “ヨルゲン” と打ったところで “夜弦” と変換されてしまい、なんか素晴らしい気持ちになりました。
ペルーではクンビアとテケテケが結びついたチチャなるジャンルが生まれ、そこでもやはり「Apache」。なぜだろう、波しぶきというよりは砂煙が俟って前が見えません。
わたしが愛するトリニダード・トバゴのギタリスト、アンセル・ワイアットも「Apache」。このひとは、トリニダードの寺内タケシと呼びたい。それまでホーン・セクションを従えたビッグバンド編成が中心だったカリプソ・シーンに、エレキ・ギターとコンボ・オルガンを核としたスモール・コンボの時代が到来したのが60年代。そんなシーンで《TELCO》レーベルなどにギター・インストを沢山残したのがこのアンセルさん。細かいリズムにカリプソが漂います。ビャーンとしたギターは切れ味がないのではなく、コクが深すぎるのです。
ジャマイカではバイロン・リー&ドラゴネアーズが「Apache」。エレキ・シタールと女性コーラスが怪しいムードを漂わせます。設定としては、ジャマイカに渡ったインドのひとがサーフィンをしています…ビーチでは美女たちが彼が海から上がるのを待っているのです…といったところか。もはや、どこの国でもない未知のハイブリッド・サウンドですな。こういうのにちょっと近いニュアンスのロックステディmeetsエキゾチカな音といえば、日本ではEXOTICO DE LAGOが得意としています。彼らのレパートリーはオリジナルもカヴァーもひねりが効いていてとてもユニークなので、是非にお薦めです。
純粋にギターものとは違いますが、インクレディブル・ボンゴ・バンドの「Apache」もまたレア・グルーヴ〜ブレイクビーツ世代には欠かせませんね。「Apache」初体験はコレでしたってひとも多いかも。
などなど。尽きませんな。時代も国境も越えて愛された「Apache」の色々でした。出かけることもままならない、そんな悶々とした今年の夏のBGMに如何でしょうか。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
con-los.com
wadamambo.com
ppdp.jp
piquant.jp
Our Covers #043 ワダマコト