ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。

ワダマコト
Ep.6 / 21 Dec. 2021

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これまでは、欧米の曲をカリブの人たちがカヴァーしているものを多く取り上げてきたけれど、今回はカリブ〜南米諸国どうしでのカヴァーを。ひとまず、ご存知ない方は先入観なしにこの曲を聴いてもらいたい。

一体なんですか、コレは？「ヨイヨイヨイ…」とか言ってるし。ハミングともスキャットともつかないこの感じ。歌詞もどうやらうろ覚えっぽい。レコーディング前に呑み過ぎてはいけないって、あれ程言ったのに…。

などなど、様々なご感想がありましょう。しかし、これがバハマの国民的スター、ジョセフ・スペンスの歴史的録音である。国民的スターすぎて誰も注意できなかったのではないか、などと勘ぐってはいけない。ライ・クーダーやタジ・マハールをはじめブルースやルーツ・ミュージックを探求した連中が崇めた巨人の名曲である。ゴリゴリと力強いギターを聴いてほしい。そして、自由過ぎる歌の素晴らしさ。世界中に向けて発売されるレコードであろうが関係ない。いつもの調子で「ヨイヨイヨイ…」と超ご機嫌なスペンス。これまた生活のすぐ傍らにある音楽って感じがたまらないのだ。

この曲は、トリニダードのカリプソ王、マイティ・スパロウの1968年の大ヒット。

スペンスのが素朴すぎて、どっちがオリジナルか混乱してしまう。ほかにもバハマのホテル・バンドの連中も取り上げたりしていて、カリブ全域でもこの曲の人気が高かったこと、そしてスパロウの影響力の大きさが伺える。

トリニダードのお隣、ヴェネズエラでもカヴァーされていた。しかもサルサ・ヴァージョン。

ヴェネズエラが生んだサルサの大スター、オスカル・デレオンが在籍したグループだ。これまた原曲とガラリと印象が変わるが、イナタくて程よくダサくて、そこがめちゃくちゃカッコ良い。

オスカル・デレオンといえば、タキシードに口ひげで白いベイビーベースを構えて歌ってる写真のジャケットを、やたらと見かけた覚えがある。もう今は閉店してしまったけれど、渋谷のレコファンのワールド・コーナーの中に『メキシコ』という仕切りがあった。その、ほんの十枚程度しかないメキシコ・コーナーが、一時『髭面』コーナーになっていたことがある。お店のひとがテキトーに放り込んだのか、客のいたずらかわからないが、とにかくメキシコ・コーナーは口髭のおっさんジャケばかりが並んでいた。当然、オスカル・デレオンもここにいた。メキシコじゃなくても良いのだ。よくわからない髭は全部ここに入れる勢い。油断すると、ホール＆オーツもジョン・オーツの髭でここに隔離。フレディ・マーキュリーもクィーン名義じゃなかったら危ういかも知れない。そんな感じ。ああいうのがしばらくそのまんまになってたの、なんか良かったなぁ。

妙にノスタルジックになってしまいました。皆さま、どうぞ気の利いたクリスマス・ソングのカヴァーなんかを漁ったりして、楽しく年末をお過ごしください。

（つづく）