ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.2 / 23 Aug. 2021
いま手元に『ハワイアンとラテンのリズムによる日本のムード』というボス宮崎とコニー・アイランダーズ、鈴木庸一とラテン・カンパニオンのカップリングのLPがあるが、これはタイトル通り日本の民謡のメロディを舶来のリズムに乗せてカヴァーするというユニークな昭和のミクスチャ。カリブ諸国に目を移せば真逆で、お馴染みのメロディをカリブのリズムに乗せてというアプローチになるわけで。メロディの国か、リズムの国か、発想が違ってくるものだなぁ、とか。ここまで書いて、金沢明子の“イエロー・サブマリン音頭”を思い出した。あれは、舶来のメロディの音頭仕様。ふむふむ。色々ありますな。
ジャマイカではアメリカやイギリスのポップスやソウル〜リズム&ブルースのヒット曲をロックステディに料理するのが常套手段だったわけだが、トリニダードもまた然り。お馴染みのメロディを、ユニークに、ときに強引に自国のリズムに仕立てて見せてくれる。
英国のポップ・シンガー、ペトゥラ・クラークの64年の大ヒット「Downtown」(恋のダウンタウン)。あの名曲に果敢に挑んだのは、トリニダードのギタリスト、アンセル・ワイアット率いるコンボである。前回もこのコラムに登場しているワイアット氏。このひとの感性が個人的に物凄く好きなので許してください。
ドリーミーにオーケストレーションされた原曲に対して、このスカスカでドタバタした感じ。「ダウンタウンへ繰り出そう!」というよりは「下町を呑み歩くべ」といった感じ。転調を経てエンディングにかけて、なぜかブルージィに燃え上がるワイアットのギターに注目してほしい。
ワイアットのコンボは、スキーター・デイヴィスの名曲であり、こだま和文氏が日本語詞を書いたチエコ・ビューティのヴァージョンでもお馴染みの「End of the World」もカヴァーしていて、そちらも是非聴いてみて欲しいがYoutubeでは見つからないようで残念。物悲しいトレモロ・エフェクトが掛かったギターがメロディを紡ぐ夕暮れムードたっぷりの名演である。
ロックステディの立役者であったリン・テイトがかつて在籍したというトリニダードの楽団、ダッチー・ブラザーズも「End of the World」をカヴァーしていて、こちらも素晴らしい。
このエレガントなアレンジ、どうよ。ボールルームでのダンスバンドとしてのカリプソ楽団。こういうの沢山あるのです。ハマると危険な中毒性あり。もちろん、この時代の録音にはもうリン・テイトは参加してないが、その根っこに共通したものを感じさせるなんともアンバイの良いギターが良い仕事をしている。
次回も、この辺りをもう少し掘り下げてご紹介する予定。お楽しみに。どうぞ。どうぞ。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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Our Covers #043 ワダマコト