GUITAR GRILL<br>“カリプソを通してクラシックの<br>メロディの素晴らしさを知る”
feature #131

GUITAR GRILL
“カリプソを通してクラシックの
メロディの素晴らしさを知る”

ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。

ワダマコト
Ep.21 / 27 Mar. 2023

←Ep.20

カリプソは歌詞の音楽であるということは良く語られることだけれど、歌手のバック以外のダンス楽団としての需要もあり、楽団によるインストゥルメンタル・アルバムも多く残されている。

楽団はそれぞれに優れたアレンジャーを抱えていた。ダンス楽団としてのアルバムでみせる多くのカヴァー曲の数々は、アレンジャーの腕の見せ所という感じで、なかなかにアイデアが凝らされていて面白いのだ。こうした有名曲、ヒット曲、スタンダードなど、皆が効き馴染んだメロディを風変りな手触りで、というコンセプトは、ロックステディやチャチャチャなどと通じる。カリプソに於いても、インスト作に関しては完全にアレンジの音楽なのである。

いわゆるジャズ・スタンダードや、当時のポップスのヒット曲などが取り上げられることが多いわけだが、どの楽団も何曲かはクラシックの楽曲をカリプソ・アレンジに仕立てたものを録音しているのも面白いところ。自分も含めて、現代ではクラシック音楽にあまり馴染みがない方も多いだろう。カリプソ楽団の演奏を通じてクラシック音楽のメロディの素晴らしさに接しておくのも良いかも知れない。

例えば、名門クラレンス・カーヴァン楽団の演奏によるクラシック・ナンバーの数々。

まずは、チャイコフスキーの「None but the Lonely Heart(ただ憧れを知る人だけが)」。

Clarence Curvan「None but the Lonely Heart」

素晴らしいメロディをザラッとした感触に。

格式高く演奏するとこういう感じです。

Tchaikovsky「None but the Lonely Heart」

この曲はなぜかカリプソ楽団に好まれるようで、セル・ダンカンやアンセル・ワイアットも録音を残している。

Sel Duncan「None but the Lonely Heart」
Ansel Wyatt「None but the Lonely Heart」

60年代録音の『Greatest Sound Around』に収録されている「Minuet in G」は、イグナツィ・ヤン・パデレフスキ作。

Clarence Curvan Orchestra「Minuet in G」

パデルフスキはポーランドの作曲家でピアニスト。1860年生まれ。のちにポーランドの首相も務めた偉人だそうで、なかなかにドラマチックな人生を歩んでいてとても興味深い。本人演奏の1937年の映像が素晴らしい。これもダンス音楽ですな。

Paderewski「Menuet in G」

ドビュッシーの「Clair de Lune(月の光)」。

Clarence Curvan「Clair de Lune」

素晴らしい!センチメンタルなムードのなか、ギターのトレモロ・エフェクトがビヤビヤしていて一人でイナタさを放っている。

Claude Debussy「Clair de Lune」

ドビュッシーと言えば、我らが西内徹&ヤマンデによるドビュッシー・カヴァーも覚えておいてほしいです。

西内徹&Yamande「My Reverie」

などなど。クラレンス・カーヴァンのみならず、この手のクラシック曲のカリプソ・カヴァーは沢山あるので、聞き比べてみると面白い。「チャイコフスキーの…」とか「ドビュッシーの…」などと語って知性を漂わせながら、脳内で再生されているのはカリプソ・リズムだったりして。クラシック音楽へのコンプレックスみたいなものがカリプソを通じて解消されるかも知れないのだ。たかが音楽である。良いメロディはどんな風に演奏しても素晴らしいし、その個性を楽しめば良いと思う。

(つづく)

Profile
カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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