GUITAR GRILL<br>“カリプソじゃないマイティ・スパロウ<br>を考えてみる” 前編
feature #140

GUITAR GRILL
“カリプソじゃないマイティ・スパロウ
を考えてみる” 前編

ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。

ワダマコト
Ep.23 / 7 Jun. 2023

←Ep.22

今回は、ちょっと趣向を変えて。カリプソじゃないマイティ・スパロウを考える。アザー・サイド・オブ・マイティ・スパロウ、そんなアルバムがあるのだ。63年にリリースされた『Sparrow Sings for Lovers』である。カリプソらしいカリプソは3曲ほどしか収録されていない。カリプソの王者なのに、である。あとはカヴァー曲で占められている異色なアルバムだ。このサイトの企画にぴったりではないか、と思い立った次第。
 78年の『Only a Fool』というアルバムでは、あの「Alone Again Naturaly」をストレートにカヴァーしていたりして、スパロウは本当にフツーに良いメロディのポップ・ソングが大好きなのである。ある意味ベタなこの感性がスパロウ自身が作る楽曲の美しくも力強く、そしてよく練られたメロディのセンスに繋がっているのかも知れない。そんな秘密の手掛かりを探っていきたい。

「If I Had a Girl」は、米国ポップ・シンガー、ロッド・ローレンの60年のヒット。わりと原曲に忠実なアレンジだが、スパロウの深く甘い声が優しい。

Mighty Sparrow「If I Had a Girl」
Rod Lauren「If I Had a Girl」

「Hucklebuck」は、ジャンプ・ブルース楽団を率いたポール・ウィリアムスの48年のインストがオリジナルだが、49年にロイ・ミルトンがヴォーカル・ヴァージョンとしてカヴァーした。ここでスパロウが手本にしているのは、ツイストの帝王、チャビー・チェッカーによる60年のヴァージョン。スパロウはこのアルバムの翌年、64年にツイストの流行をネタにしたカリプソ「Calypso Twist」を残していて、それの布石だったと考えると面白い。

Mighty Sparrow「Hucklebuck」
Mighty Sparrow「The Huckle Buck」
Roy Milton「The Hucklebuck」
Chubby Checker「The Hucklebuck」
Mighty Sparrow「Calypso Twist」

「Maria」は後に何度も吹き込んでいる大名曲。ヴァン・ダイク・パークスのプロデュースによる名作『Hot and Sweet』でも再演されていた。カリプソというよりは、チャチャチャ風味なアレンジが印象的だ。

Mighty Sparrow「Maria」

「My Heart Has a Mind of Its Own」はコニー・フランシスの60年のヒット。ここらで気付いてくる。60年の全米ヒットを次々とカヴァーしているだけではないのか? ひょっとして…。ともあれ、ストリングスがバックに入ったゴージャスな編成で歌うスパロウは貴重だ。

Mighty Sparrow「My Heart Has a Mind of Its Own」
Connie Francis「My Heart Has a Mind of Its Own」

「Save the Last Dance for Me」。「ラスト・ダンスは私に」の邦題で越路吹雪も吹き込んでいる古典。言わずと知れたドリフターズのヒット曲である。スパロウは78年のアルバムでもちょっとディスコ風味にカヴァーしていたりして、この曲が大層お気に入りなのだ。

Mighty Sparrow「Save the Last Dance for Me」
The Drifters「Save the Last Dance for Me」
Mighty Sparrow「Save the Last Dance for Me」(1978)

「Todo Me Gusta De Ti」はキューバの名門グループ、ソノラ・マタンセラが54年に《SEECO》に残したボレロ名曲。スパロウも、ロード・キチナーも時折こういったボレロ曲を歌っているのだが、これらが本当に素晴らしい。

Mighty Sparrow「Todo Me Gusta De Ti」
Sonora Matancera「Todo Me Gusta De Ti」

ここまで6曲でA面が完了。ルーツ・オブ・マイティ・スパロウ、というか60年時点でのスパロウのマイ・ブーム特選といった感じだろうか。とにかく面白いアルバムなのである。続きは次回に持ち越しです。

(つづく)

Profile
カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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