魅惑のオンラインショップ《パライソレコード》がお贈りする、カヴァーソング桃源の世界。
野田晋平(パライソレコード)
Ep.8 / 05 Oct. 2020
デビッド・セヴィルこと米国の奇才ロス・バグダサリアンが作り上げたシマリス3人組チップマンクス。当初はクリスマスのノベルティシングルの一企画のつもりでしたがなんと全米1位を獲得するという想定外のヒットを記録。その名は一気に広まることとなります。その最大の特徴であるテープの回転数を上げた奇妙なヴォーカル(通称「ムシ声」)はまたまたく間に世界に飛び火。各地でチップマンクスクローンを生み出すという非常事態となり、以降の音楽シーンにおける手法のひとつとして定着していくのはご存知の通りです。60年以上経た今もなおジャンルを問わず使われ続けている「ムシ声」。その奇妙な音楽歴史に残されたカヴァー曲を今回はご紹介。えっ、ヴォーカルが全部一緒だって?
ムシ声本家チップマンクスは1回こっきりの企画のつもりでしたが、想定外のヒットを記録したことで、次から次へと新曲を出さなければいけない羽目に…あ、でも声が売りやから既存の曲をカヴァーさせればええやんとバグダサリアンが言ったかどうかはさておきチップマンクスはカヴァー曲を量産していきます。その白羽の矢が当たったのはやっぱりビートルズ。1964年にはビートルズカヴァーだけで丸々1枚アルバムを作ってしまいます。
YouTube
Salt Peanuts
そっちがポップやロックならこちらはジャズだ!とムシ声のスキマ産業へ参入したのはジャズ界の奇才ドン・エリオットとTV音楽の奇才サッシャ・バーランドのご両人。チップマンクスと同じリスの2匹を見立てつつも「ムシ声でジャズる」という新たな切り口で驚きのヒップ&クールサウンドを生み出したその世界はそれ以降のムシ声史において今もなお特異な存在であり続けます。数々のカヴァーを取り上げていますが、ここではディジー・ガレスピーの「Salt Peanuts」を。強烈なステレオアクションと超絶スキャットがすごすぎる!
YouTube
Kung-Fu Fighting
アメリカがシマリスならこちらはブタだ!とイギリスへと飛び火したムシ声はピンキー&パーキーというキャラクターを生み出します。例に漏れずこちらもたくさんの作品をリリースしますが、1975年のアルバムではソウルヒットをカヴァー。ムシ声によるカール・ダグラス「Kung-Fu Fighting」なんて珍味カヴァーも。ムシ声の汎用性恐るべし!ブタはじめバッタにぬいぐるみにその他いろいろキャラを変え世界各国数々のムシ声キャラが存在しますが、その他は皆さん各自で探してください笑。
YouTube
Sweet Lorraine
キャラクターに歌わせるというのが定石だったムシ声に強者誕生!? あのビーチ・ボーイズにも影響を与えたモダンコーラスグループ、フォー・フレッシュメンのロス・バーバーさん。ライブ盤ではナット・キング・コールなどの名演でおなじみの「Sweet Lorraine」をムシ声カヴァー。ヴォイスチェンジャーもない時代、ライブでどうやって回転数上げてんだろう? ヘリウムガスかなんかかな? とずっと疑問だったのですが、この映像観てビックリ、何の小道具も使わず人力でやってるんですね。こりゃもうヴォーカルを超えて声芸だ!
YouTube
また帰ってきたヨッパライ
こちら日本でのムシ声ソングの代名詞といえばやっぱりフォーク・クルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」。そんな日本音楽史に残る珍味曲がディスコブームに帰ってきた!?あらゆる歌謡曲をディスコ化するスタジオミュージシャンプロジェクト、メイジャー・チューニングバンドによる「また帰ってきたヨッパライ」。強烈なベースラインが生むグルーヴでミラーボール仕様に大変身!
YouTube
ドリフの早口ことば
日本中を爆笑の渦に巻き込んだドリフターズ。そんな中でも名物コーナーとして知られるのが「ヒゲダンス」と「ドリフの聖歌隊」での早口言葉。生演奏によるお茶の間レベルを軽く超えるファンキーサウンドの正体はともに海の向こうで流行ってたソウルチューン。なかでもウィルソン・ピケット「Don’t Knock My Love」を拝借した「ドリフの早口言葉」の終盤では志村けんのムシ声(ヴォイスチェンジャー)による歌唱が登場します。さすがレコードコレクターとしても知られる志村の遊び心満載のアイデアが詰まったカヴァーを超える爆笑オリジナリティ!
YouTube
Take Your Time
ビートルズのなかでもとりわけモンド嗜好の高かったポール・マッカートニーはソロ転向後も宅録盤や電子音楽盤など往年のファンも眉をひそめる傍若無人ぶりで数々の迷盤を生み出しますが、その嗜好は一番近くで見ていた人にも飛び火したのでしょうか?ウイングスのギタリストとして知られるデニー・レイン1977年のソロアルバムではリズムボックスとスカスカなサウンドで早逝のロックンローラー、バディ・ホリーのナンバーを次々とカヴァーしていきます。「Take Your Time」ではなんとムシ声入り!?プロデュースはポールなのでもしかしたらポールの趣味かもしれませんが…。
YouTube
God Save the Queen
グラムロックの名門モット・ザ・フープルに在籍し、クイーンのツアーサポート、そしてソロでは先鋭的な作品をリリースする奇才モーガン・フィッシャー。そんな彼が仕掛けた変態プロジェクト、ハイブリッド・キッズはフライング・リザーズのような王道へのアンチテーゼとも取れそうな脱力サウンドで数々の名曲を解体していきましたが、そのひとつの手段として用いられたのがムシ声。その攻撃性で音楽界をひっくり返したセックス・ピストルズの放送禁止ソング「God Save The Queen」をさらにひっくり返すというとんでもない荒技でなんとも可愛いノベルティソングに仕立て上げています。これにはパンク信者もきっと真っ青!
YouTube
There She Goes
ジョー・ミーク、ジョージ・クリントン、プリンスなどなどそこを辿れば主流とは違うアウトサイダーな支流が途切れることなく流れているムシ声の歴史。近年でも坂本慎太郎がアルバム「ナマで踊ろう」などで使用するなど再び注目されますが、現在そんなムシ声や宅録、MTR録音などモンドな手法を天才的ポップセンスで楽しませてくれる第一人者と言ってよいのが東京を拠点に活動するシンムラテツヤ。基本的にオリジナルソングを歌う彼ですが、エンジニアを手掛けたチャイルデッシュ・トーンズ feat宇佐蔵べにではカヴァー曲を迷アレンジ。なんとあのラーズ涙の名曲「There She Goes」にムシ声を登場させてしまいます。いや〜ツボをついてるなぁ。ムシ声の未来もまだまだ安泰そうです!
YouTube
(つづく)
- Profile
- 魅惑のオンラインショップ《パライソレコード》主宰。世界中の魅惑サウンドを探し求め、中古レコードをメインに(ほぼ)毎日新入荷を更新中。
http://paraisorecords.com/
Our Covers #020 野田晋平