野田晋平(パライソレコード)
Ep.5 / 06 July 2020
「I Got Rhythm」「Rhapsody in Blue」など数々のスタンダードを生み出した作曲家ジョージ・ガーシュウィンが1935年のオペラ『ポーギーとベス』のために書き下ろしたアリア「サマータイム」。人種差別が表面的であった当時の米社会においてキャストのほとんどが黒人によるというものは異例であり、メトロポリタン・オペラの舞台のための制作だったものの、結局ブロードウェイにて初演されることとなります。(メトロポリタンでの初演は1985年)。奴隷として主人である白人の赤子をあやしつける黒人女性が歌う子守唄。「サマータイム」という陽気なタイトルとは裏腹に深いテーマを含んだ今もなお数々のアーティストによって歌い継がれる名曲です。
アビー・ミッチェル、ヘレン・ジェプソンの録音に続くほぼ最初期の吹き込みとなるビリー・ホリディの「サマータイム」はこれまでのオペラ調のヴォーカルから、まさにビリー節によるジャズカヴァー。エキゾチックやブルーズフィーリングも加わり、その後の「サマータイム」のイメージを決定づけるような名演です。
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Summertime
ジャズには本当に数多くのカヴァーが存在して、マイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンスなどのレジェンドも取り上げていますが、御大ジョン・コルトレーンも例に漏れず取り上げています。しかも11分以上にも及ぶ長尺インスト。圧巻です。
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Summertime
濃厚なインスト版があれば重厚なヴォーカル版も!ということでジャズヴォーカルグループの代名詞ランバート、ヘンドリックス&ロスの「サマータイム」は最高にヒップなアレンジでキメてくれます。スモールコンボをバックに声こそ最強の楽器だと言わんばかりに重ねていくクールさ。もう参りました!
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ジャズのみならず様々なジャンルへ派生した「サマータイム」。ロック界といえばやはりコチラ、のちにソロデビューしロックレジェンドとなるジャニス・ジョプリンが在籍したビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー1968年のアルバムから。60年代末期フラワームーヴメントの象徴であった彼女の歌うサイケデリックなブルーズロックヴァージョン。「サマ〜〜タイム」の第一声からひき込まれます!
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R&Rシンガー、ビリー・スチュワートは名曲「Sitting In The Park」などスウィートな歌唱が真骨頂と言えますが、1966年に歌った「サマータイム」ではとびきりファンキーなアレンジでシャウト系のヴォーカルを聴かせてくれます。サム・クックなんかもカヴァーしていますが、こちらの方に軍配!
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Summertime
ジャズテイストを持ったソフトロックブループとしてイージーリスニング界の巨匠イノック・ライトプロデュースのもと活動したフリー・デザイン1969年アルバムに収録の「サマータイム」。サイケデリックな導入部から突然転調し高速ジャズ、そしてスキャットへとなだれ込むプログレッシヴなアレンジ。最高にクールです!
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ジャッキー・ミットゥー、ヴィン・ゴードンらが在籍したスタジオワンのバックバンド、サウンドディメンション。ジャマイカにも「サマータイム」のカヴァーは無数にあるかと思われますが、オルガンとトロンボーンで味付けされたこのヴァージョンはやはり格別ですね。まさにムードサウンド!
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スペシャルズ分裂後の分裂後のテリー・ホール、ネヴィル・ステイプルズ、リンヴァル・ゴールディングの3人が結成したファン・ボーイ・スリーによる1982年のシングル「サマータイム」は彼らのサウンドの軸であるアフリカンリズムを大胆に取り入れたエキゾテイスト溢れる名カヴァー。12インチExtended Mixでは本編後にジャングル奥地に進んだようなプリミティヴな展開がさらにすんごいです!
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目玉のコスチュームに身を包む謎に包まれた変態音楽集団レジデンツ。結成時より問題作をリリースし続ける彼らが1984年にリリースしたアメリカンコンポーザーシリーズの第一弾。ガーシュウィンとジェイムス・ブラウンの楽曲を取り上げるというその組み合わせ自体も異色ですが、「サマータイム」も期待を裏切らない異様ぶり!?まるでサスペンスやサイコスリラーのスコアのような仕上がりです…
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東京を中心に活動するエキゾチカロックステディバンド、Exotico De Lagoを率いる長久保寛之によるソロワークスはスタンダードやロック〜ポップスの名曲などのロックステディアレンジ作ながら、多重録音や密室的なサウンドがレスポールなどの宅録ファンにも訴えかける名盤。ここで取り上げる「サマータイム」もエキゾ嗜好の高い彼らしくマーチン・デニー「Quiet Village」のベースラインの上をマーク・リボーのようなパンクなギターが炸裂する名アレンジ。カッコイイ!
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Summertime
TVドラマ「深夜食堂」でのあの印象的なオープニングテーマ「思ひで」で知られる鈴木常吉は米ポルカバンド、ブレイヴ・コンボのカール・フィンチがアルバムのプロデュースを務めたセメント・ミキサーズでのバンド活動など、「フォーク」とひとくくりにできない多様な音楽性が根底にあります。そんな彼がカヴァーする「サマータイム」は日本語詞と英詞を織り交ぜた染み入るアレンジ。曲本来の背景にある子守唄のように語りかけるヴォーカルが本当に素晴らしい!
(つづく)
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- 魅惑のオンラインショップ《パライソレコード》主宰。世界中の魅惑サウンドを探し求め、中古レコードをメインに(ほぼ)毎日新入荷を更新中。
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Our Covers #020 野田晋平