STICKO「WONDERWALL」を皮切りに、4枚のカヴァー曲をリリースした《A-KLASS RECORDINGS》。どんな思いでレーベルを立ち上げ、どんなレーベルにしていく予定なのか、主宰するICHI-LOWさんへインタビュー。
19 Apr. 2023
eyeshadow (以下E): 2022年9月から立て続けに4枚のシングルをリリースし、すべてがカヴァー曲です。《A-KLASS RECORDINGS》はカヴァーソング専門のレーベルになるのでしょうか?
ICHI-LOW (以下I): いえ、カヴァー曲だけではなくオリジナルも出していきたいですし、私以外のプロデュース楽曲もリリースしたいと考えています。
E: そうなんですね。これまでSTICKO「WONDERWALL」はオアシス、MIFYAH「SPOILED BY YOUR LOVE」はアニタ・ワード、Keyco「GIVE IT UP, TURN IT LOOSE」はアン・ヴォーグ、PJ「GIMMI LITTLE SIGN」はブレントン・ウッドと幅広いジャンルから選ばれていますが、どのような基準でカヴァーする曲を決めているのでしょうか?
I: 私自身が好きな、長く愛聴しているというのはもちろんですが、あんまりレゲエアプローチでのカヴァーがされていない曲から決めています。DJの現場で選曲している感覚ですね。
E: 人選はICHI-LOWさんがひとりで決めているのですか? どんな基準で決めているか教えてください。
I: いまは原曲と同じく英語で歌えることと、黒さというかヤーディー(ラガ)な味を出してくれそうな人を私ひとりで決めています。あとはこの曲をこの人が歌ったら面白いだろうな…というイメージですね。
E: アレンジをする際に気をつけていることはありますか?
I: ただ裏打ちにして「レゲエカヴァーしました」とはならないように気をつけているのと、ジャンルにこだわらない、どこかでレゲエ感が伝わるアレンジを心がけています。
E: それぞれのシングルに込めたICHI-LOWさんの想いを聞かせてください。
I: 「WONDERWALL」は映画『Mommy/マミー』の中で一番のクライマックスにほぼフル尺で使われていて、もともと好きな曲ではあったんですけど、この映画でさらに刷り込まれて最初にカヴァーするならこれだって決めていました。
UKのロックで難しい曲をあえてレゲエアレンジにしたいと思って、かつこの歌にはSTICKOの声しかないと決めて作った曲ですね。ギターのARI君やベースのTORI君のパートもイメージ通りの仕上がりで、最初から出来が良すぎた感じです(笑)いろんなジャンルのリスナーに聴いて欲しいです。
「SPOILED BY YOUR LOVE」はレゲエの中ではキャロル・ゴンザレスが有名で、むしろアニタ・ワードを知らない人の方が多いと思うんですけど、多幸感のある曲をダンスホールアレンジではなく、いつまでも聴けるカヴァーにしたくて作りました。Mifyahの声もハマったし、森さんの生音もバッチリだったので、曲として良いものができたなと。
「GIVE IT UP, TURN IT LOOSE」はもう単純に原曲がめちゃくちゃ好きで、挑戦したかったってだけです(笑)Keycoのコーラスもバッチリ仕上げて、ひとりアン・ヴォーグをしてくれています。これこそグラウンド・ビートアプローチなんだけど、レゲエを匂わせていた90年代初頭のあの感じを意識しました。
「GIMMI LITTLE SIGN」は色々なカヴァーが出ているんですけど、レゲエ周りでは多分2曲くらいであとはフレーズの引用だったりするので、いまストレートにやったらいいなというのと、PJの声でやりたくて。ハッピーな感じって歌い手の人柄から声に現れたりするのかもと思ったりするので、みんなにハッピーな気持ちになって欲しいという想いで作りました。親子共演っていうところも気に入っています。
E: さすがどの曲も思い入れが強いですね。それでは今後決まっているリリース予定があれば。
I: 6月くらいにもう1枚、そのあとまた1枚予定しています。カヴァー曲でアルバム1枚になるくらいは計画しています。
E: カヴァーしたい曲や歌って欲しいシンガーがいましたら、さらっとで結構ですので教えてください。
I: 曲はネタばらしになってしまうのでまだお話できませんが、マドンナとかシャーデーの大ネタや、《Salsoul Records》などのディスコから選曲してみたいですね。
歌ってほしいシンガーはMonday満ちるさんやLeyonaさん、SILVAさんなどのディーヴァからエンディア・ダヴェンポートといった海外勢、ASOUNDのARIWAやYouth Of RootsのKon RyuやRAMJAなど、いまのアーティストまで幅広く歌ってもらえたらと考えています。
E: まだまだネタはありそうですね。ところで2022年の後半というタイミングで《A-KLASS RECORDINGS》レーベルを立ち上げた理由は?
I: コロナ禍で現場も減ってきて、表現の場としてレーベルはアリだと思ったのと、アーティストにとってもリリースができる場があればライブもできるし、曲を作ってる人たちにとっても提供先になれるし、みんなのプラットフォームとしてのレーベルをやりたいと思って立ち上げました。あとは周りのあと押しもありましたね。
E: いつからレーベルをはじめようと考えていたのですか?
I: 漠然と90年代の頭くらいからイメージはしていたんですよね。当時は機材も環境も、お金がとてもじゃないけど…って感じで。それがデジタルの発達で小さい環境でもできるようになったし、リリースもできる状況になったのと、いずれコロナ禍も収束するだろうからいまのうちに動いておかないとダメだなと思ってはじめました。
E: 漠然とやりたいと思っていたレーベルの運営について、実際に行動に移すきっかけや出来事があったら教えてください。
I: デジタルリリースだけであれば、いまはディストリビュートのサービスもいっぱいあるので、制作さえできればレーベルをはじめられる環境は整っていると思うんですけど、私の場合はレコードでプレイすることも多いのでアナログでのリリースは絶対しようと決めていました。
まずプレス代を調べて、あとは知り合いのレコード屋さんに根回しして。宵越しの金は持たない主義なので、あんまりコストのことは考えていなかったのと根拠の無い自信、儲けることを優先していなかったのは大きいですね。製作費が回収できれば継続できるなと思ってはじめました。飲みに行く回数を減らせばいいやみたいな(笑)
レゲエ界だとスペシャル(ダブプレート)を録る文化があるのですが、1曲数万〜10数万ぐらいかかったりするので、それだったらリリースに回せばいいじゃんっていうのもありますね。いつどんな時でもプレイできますし。
あとは周りの皆さんに相談した時に、お金のことはいいからまずやろう! って言っていただいたのが一番のきっかけですね。ありがたい限りです。
E: レーベルを実際に運営するようになって、想像と違っていたこと、大変なことはありますか?
I: 著作権関連が思ったより難しかったところですかね。あとはプロモーションの大変さですね。
E: 反対に嬉しかったことはなんでしょうか。
I: ノー・エクスキューズで現場でかけた時に反響が良かったこととか、全然知らない場所でプレイされているのを知ったりして、曲としての素直な反応が良かったのが嬉しかったです。あとは周りの皆さんに応援してもらえているのが嬉しいですね。
E: これからレーベルをはじめたいと思っている人に向けてアドバイスをお願いします。
I: ハードルが下がったのでやろうと思ったら簡単にはじめられるんですが、続けることの方が大変だと思うので、続けることを意識してはじめて欲しいなと思います。
自分だけで完結するならやめてもいいんでしょうけど、他のアーティストの作品を出すならその曲は永遠に残りますから、ある程度は続けて欲しいと思います。
アーティストあってのレーベルですし、アーティストにとってはリリース場所です。お互いをリスペクトできるようなレーベルを目指してもらえたらって思います。
- Profile Selector / Producer / Label Founder。91年名古屋でキャリアスタート。翌92年上京。《DJ Bar Inkstick》で本格的にSelector活動を始める。その後、各地でレゲエを軸に自分の琴線に触れる音楽をPlay。 2001年〈Caribbean Dandy〉を結成。レゲエを中心としたカリブ海近郊のREBELMUSICにまつわる世界観を現代東京的に解釈しPlayする、ワンアンドオンリーなオリジナルトーキョーロッカーズスタイリー。〈FUJI ROCK FESTIVAL〉や〈Rototom Sunsplash〉にも出演。 最近は7inchレコードによるラウンジプレーに定評があり、各地でラウンジセレクションを披露している。2022年自身のレーベル《A-KLASS RECORDINGS》を立ち上げる。