『西内徹&Yamande』のリリースと還暦を祝ったイベント「テ祭2021」から一週間。登戸駅に赤いセーター姿で現れた西内徹さんと、すぐ近くの「ヤキトリハウス平安郷」へ。ビートルズの曲ばかりがずっと流れている店内で、さっそく乾杯。
Special Thanks: WADA MAMBO
27 Oct. 2021
借金のカタにサックスをもらったんです。それが運の尽きでね(笑)
eyeshadow (以下E): この店にはよく来られるんですか?
西内徹 (以下N): そうですね。この間までは緊急事態宣言中でやってなかったですけど、時々来ます。ここは安くて美味しくて、でも美味しすぎないところがちょうど良くて。
E: 飲みに行くお店は決まっているんですか?
N: 再開発で行きつけの立ち飲み屋とか全部なくなっちゃったんです。この辺は溝の口の西口に似ていて、もっと雑多な感じだったんですよ。登戸は商店街もない変なところだけど、まあ交通の便がいいですし。多摩川も近いんで。
E: あ、なるほど。多摩川で練習されているんですもんね。
N: そうです。駅から近いところはバーベキューや釣りをしている人たちがいるので、もうちょっと離れた上流の方ですね。さすがに真冬とか真夏はカラオケボックスに行きますけど、昔はね、年中多摩川に行ってました。家でも出せるんですけど、なんか吹いた気がしなくて。雨の日はやんないですけど、4〜5時間。晴れてて用事がない日はサックスとフルートの両方やってます。4〜5時間なんて少ないですよ。ちゃんとした人は8時間ぐらいは普通にするんじゃないかな。
E: サックスは何年ぐらい続けているんですか?
N: 30…35年くらいかな。きっかけは学生の時にバンド仲間と賭け人生ゲームをやって、10万勝っちゃって。その借金のカタにサックスをもらったんです。それが運の尽きでね(笑)。それまでパンクバンドとかやってたんですけど、ドラムだったので。
E: ドラムをやめてサックスに転向したのですね。
N: サックスはすぐ音が出るのでこりゃいいや、モテんじゃないかって。
E: なるほど(笑)。もともとサックスやってた人はどうしたんですか?
N: やめました。
E: ガチで取っちゃったんですね。
N: うん、フフフ(笑)。
E: パンクバンド出身ということですが、パンクからレゲエに軸足が移ったきっかけを教えてください。
N: ランキン・タクシーさんのバックバンドを募集しているのを雑誌で見つけて、行ってみたらやらせてくれるってことになった感じです。ドラムがリズムボックスで、ベースはカシオのシンセで。だから生バンドというよりは打ち込みバンドですよね。30年くらい前かな。バンドはじめたのが遅いんですよね。その頃は地元の友達とちょこちょこリハーサルスタジオに入ったりしてたんですけど、ライブはまだやったことがなかった。ランキンさんでいうと『ワイルドで行くぞ』(1991年)の頃ですね。このアルバムが好きで。
E: その頃はレゲエをよく聴いていました?
N: 20代はレゲエとパンクとフリージャズぐらいしか聴いてなかったかな。
レゲエ以外の人をサポートしていく上で、気持ちが変わっていったのかもしれない。
E: 西内さんと同じぐらいの歳の人って言うと…。
N: エマーソン北村が同級生。北海道なんですけど、大学を卒業して北村の方が先に東京へ行って、じゃがたらやらMUTE BEATやらやってて、だいぶ後に俺が東京に来て、しかもまただいぶ後に一緒にやることができたって感じですね。はじめて一緒にやったのはレゲエ・ディスコ・ロッカーズで、北村にサポートしてもらって。
E: それは知りませんでした! そういえばレゲエ・ディスコ・ロッカーズってカヴァー曲が多いですよね。
N: 好きですから。この間出た7インチがフランキー・ナックルズ「The Whistle Song」のカヴァーで、国内だけじゃなく海外でも超売れたんですよ。僕はこの曲を知らないです。でもみんな思い入れがあるみたいですね。
E: 確かにあの曲はみんないろんなドラマを持ってそうです。ちなみに『西内徹&Yamande』に入っているカヴァー曲は西内さんの好きな曲なんですよね。
N: 10代で好きだった曲が多いかもしれないですね。ファーストアルバムはレゲエをやろうと思って作ったんですけど、セカンドはなんでもいいやと思って。レゲエ以外の人をサポートしていく上で、気持ちが変わっていったのかもしれないですね。こだわることないなと。もともとレゲエでカヴァーするといい感じになるというのがあって、それが好きだったんですけど。
E: セカンドアルバムの中で気に入っているカヴァー曲はなんですか?
N: 「At Last I Am Free」ですかね。原曲のシックというよりロバート・ワイアットの方ですね。カヴァーのカヴァー。
E: 原曲シックなんですよね。ずっとロバート・ワイアットの曲だと思っていました。
N: 俺もそうです。渋さ知らズもやってますね。インストで。
E: 反響が大きかったのはどの曲ですか?
N: ARIWAって女の子のボーカル曲「知らぬまに心さわぐ -You Brought A New Kind Of Love-」が反応いいですね。レーベルではシングルカットするようなこと言ってました。「At Last I Am Free」は長すぎるんでね、シングルにはならない。
E: ライブも含め、これまでカヴァーされてきた中でお気に入りはなんでしょう?
N: この間シングルで出た「夕日は昇る」はなかなかいいなと思います。LPが売り切れてて、《HMV》からシングルを出さないかと話があったって聞きました。でも1,980円は高いっすね。レコードの原材料の価格が上がっているせいだって聞きましたけど高い。とはいえ1,980円でも儲けはほとんどないと思います。
E: 1,000円未満で買えていた時代が懐かしいですね。西内さんの好きなアーティストは誰ですか?
N: ローランド・カークです。なにしろ人間離れしてるところが好きですね。昔からです。「Loving You」のカヴァーなんて最高ですね。その後、右半身不随になるんですけど、YouTubeにギル・エヴァンスのオーケストラで、76年かな、客演しているのがあって凄いんだよね。演奏を観てて気がついたら「この人、右半身使ってない」って。片手で、ちょっとの違和感しかないんだから。ローランド・カークの好きなアルバムは『Volunteered Slavery』かな。
E: 「My Cherie Amour」のカヴァーが入っていますね。
N: スティーヴィー・ワンダーの原曲より、こっちの方が全然好き。いやー、音楽の話ができるのって楽しいですね。
序列をつけるのはまったく嫌いですね。
E: 本日はお好きなカヴァー曲をお持ちいただきました。見せてもらってもいいですか?
N: 3枚持ってきました。1枚めは『This Is Lovers Rock Stylee』。日本盤です。シュガー・マイノットの「Good Thing Going」なんですけど、元の曲はマイケル・ジャクソンですね。これを聴くと「夏がはじまったな」って(笑)。オープニング感が凄いんですよ、上がります。原曲を遥かに超えていると思います、うん。それと、ジャケットが前回のアルバムのアー写を撮ってくれた菊地昇さんってことで持ってきました。いいジャケですよねー。
N: 2枚めはロバート・ワイアット『Nothing Can Stop Us』。出た時に買いました。《ラフ・トレード・レコード》だったので。「At Last I’m Free」ももちろんいいんですけど、中でも好きなのは「Shipbuilding」。
N: 最後はザ・レインコーツの『The Raincoats』。「LOLA」、ザ・キンクスのカヴァーです。これも《ラフ・トレード》でいいアルバムなんですよね。名盤。10曲入りなんだけど片面15分ずつくらいしかない(笑)。
3枚とも同列で好きです。順番とか嫌いなんですよ、意味がないと思うから。人のアルバムに点数つけるのもやめて欲しいですよね。序列をつけるのはまったく嫌いですね。
ライブはモテる気がする(笑)
E: 10月20日の「テ祭2021」、相当盛り上がりましたね。
N: イベントはめちゃ楽しかった。T字路sの妙ちゃん(伊東妙子)の「ジャングルブギ」と「スローバラード」がなにしろ良くて凄いんですよ。ミックスがウッチー(内田直之)で、それがまた良くて。あと坂本(慎太郎)さんの「ディスコって」をちょっとレゲエアレンジでやったらずっハマりで(笑)。ハンバート・ハンバートの(佐藤)良成がARIWAとデュエットした「同じ話」も良かった。なにしろハマりましたね。
あとはディック・デイルのなんだっけ、あの…タランティーノの2人で踊っているやつ。そう!『パルプ・フィクション』、あの映画のテーマ曲「Misirlou」を梅津和時さんに吹いてもらったんです。
E: ライブとリリース音源を比べるとどちらに愛着を感じますか?
N: 愛着はライブですね。ライブの方がモテる気がするんですよね(笑)。ライブ出演の誘いは基本的に断らないです。サポートについても記憶の限りでは断ったことはないですね。
E: モテる気がする(笑)。ところで西内さんは新しい曲を聴いたりするのですか?
N: ビリー・アイリッシュとテイラー・スウィフトが大好きです。音がいいし曲もいいし、声もいいし。2人とも最高す。クルアンビンもいいですね。Twitterで誰かが呟いてるのを見ると、YouTubeやらSpotifyやらで聴いてみようって。レコードやCDは年に10枚も買わないかもしれないですね。サブスクにもなくて、どうしても聴きたいのをネットで探して買うくらい。コレクターではないですね。いらないですもん。あってもしょうがない(笑)。
E: アナログで聴くことにこだわりはないんですね。
N: まったくないですね。自分の音源もどれで出したいとかのこだわりはないです。だって変わんないですもん。レコードはちょっと音が歪むじゃないですか。そこがいいというのはわかりますけど。耳もだいぶ老化してるから、12,000ヘルツ以上聴こえないんで。しかもレゲエはビットレートが低い方が迫力あるんですよね。ハイレゾとかじゃないけどさ、そっちは求めてない。
サウンドシステムは気持ちいいです。ランキンさんの作ってるサウンドシステムはすっげえ音いいです。新宿の《OPEN》とか行きます? なにしろ音がいいです。ここと乃木坂にある《Club CACTUS》、その2つは日本でも有数に音がいいんじゃないですか。昔だったら《CLUB JAMAICA》とか《YELLOW》とかもね、懐かしいなあ。
E: DJもされているんですよね。
N: 俺、DJネームあるんすよ。てちゃ太郎(笑)。『快獣ブースカ』って知ってます? ブースカに出てくるんですよ、メチャ太郎。かわいいやつなんです(笑)。そこから貰いました。カヴァーです。DJは最近はじめたんです。レゲエばっかりなんですけど、よく考えたらうちにレコードが結構あるので。
あ、まだカヴァーの話あるな。デニス・ボーヴェルが来日した時に一緒に演ったんですが、その時キャロル・トンプソンも一緒に来ていて、歌ったのが「I’m Still Waiting」。
E: ダイアナ・ロスのカヴァーですよね! そういえばあの曲はコートニー・パインが吹いてますね。コートニー・パインはお好きですか?
N: あんなのはもう…ンフフ、憧れですよ。本当に凄い。「I’m Still Waiting」は原曲を超えてますね。あんな風に吹けたらいいなと思いますもん。俺なんて本当インチキだよ。テクニックが凄い。コートニー・パインがボブ・マーリーの「Redemption Song」をカヴァーしているじゃないですか。真似して吹いてみたけど全然違うんですよ。
E: レゲエ系で他に好きなサックス奏者はいますか?
N: 一番って言っちゃうけど、デッドリー・ヘッドリー。知ってます?『35 Years from Alpha』ってアルバム。
E: 《On-U》から出てた、サックスを持ったデッドリー・ヘッドリーが斜めに写ってるジャケのやつですね。
N: うわー知ってますか!うわ嬉しい! あれね、誰も知らねーの。誰も知らない。いやー嬉しい。順番つけたくないけどあれがベストですね。(『西内徹&Yamande』収録の)「Tribute to Deadly」って曲、デッドリー死んじゃったじゃないですか、捧げました。
E: おお、そういうことだったんですね。それはいい話。
N: 本当にデッドリーは音が綺麗ですよ。デッドリーを知ったのはサックスをはじめたのとだいたい同時期で、オーディオ・アクティブとエイドリアン・シャーウッドと一緒にツアーした時に、エイドリアンが俺のことを「ジャパニーズ・デッドリー」って言ってくれたんです。
E: それはデッドリー好きの西内さんからしたら最高の褒め言葉ですね。
N: やまんです!