カルロスひろし
feature #037

カルロスひろし

日本語ラップのDJミックス『Neftlix』シリーズをSoundCloud、Mixcloudにアップし、SNSを中心にファンを増やすカルロスひろし。いきなり出てきたようで実はDJ歴25年、Cbtek!の名でLEF!!!CREW!!!でも活動していた彼に、1月下旬の日曜日、雨けぶる横浜の関内でインタビュー。

Special Thanks: TSUTCHIE
23 Jan. 2021

eyeshadow (以下E): 現在のようなスタイルでDJをやるようになったきっかけを教えてください。

カルロスひろし (以下C): 2010年から2018年の8年間、スケートボード・ショップを川崎でやっていまして、その時期に地元のクラブでイベントもやっていたんですよ。でもウケる音楽が東京と全然違っていて、例えば渋谷とかのクラブに来る客さんってみんな物凄い音楽に詳しくて、誰も知らないような曲も、新しい曲かけても踊ってくれる環境でDJさせてもらえてたんですけど、川崎で同じ感覚でDJすると全然受けないですよね。でも、これは悪いとかではなくて、来てくれる友達も音楽が好きだからというよりは、僕たちと仲良くて地元を盛り上げようとして来てくれる人たちだからしょうがないんですよね。だからみんなに楽しんでもらうために、分かりやすいやり方をしなきゃ駄目だなって試行錯誤してて、日本語の曲を朝方かけた時めちゃめちゃ受けたんで、「これはチャンス」だと思って翌日からTSUTAYAへ通って、毎日CD10枚くらいひたすらインポート。そして、そのイベントは朝4時くらいからTK(小室哲哉)ばっかで、全員歌って踊るのが名物なイベントになってきちゃって。

E: この頃からカルロスひろしの名前で?

C: この頃はCbtek!〈コボテック〉って名前でやってました。カルロスひろしというのは、オメガトライブのカルロス・トシキに、僕の本名の〈大富寛〉を合わせて、明らかにふざけてやってる感を出したくて付けた名前です。

E: SoundCloudにカルロスひろし名義でミックス音源をアップし始たのもその頃?

C: 確か2016年。それはそのイベントの延長でポップス寄りに作ったんですよね。日本語のラップとかじゃなくて、『カルロスでSUMMER MIX』っていう。これが一番最初ですね。

E: 公開して反応はどうでした?

A:そんなに受けなかったですね。Twitter、Facebook、Instagram、お店のブログ、全部使って告知したけど、こんな受けないんだと思って凹みました。

E: それから現在までトータルで何本くらいアップしてますか?

C: カルロスひろしで20本ほどですかね。20代のビッグ・ビートをかけ始めたくらいから全部Mixcloudにログ残してるんですけど、この間数えたら78個ありました。Mixcloudは〈KEN KANAGAWA〉ってアカウントでやってます。

E: 日本のラップミュージックをミックスした『Neftlix』シリーズは10までありますが、曲は一体どうやって見つけてるんですか?

C: ほぼApple Musicです。通勤の1時間、仕事に行く電車の中ではミックスで使えそうな曲をひたすら探しながら、いいなと思ったらBPMごとに全部分けたプレイリストにどんどん入れていくんです。
通勤中は知ってる曲は聴かないってルールを設けてるので、知ってる曲を聴いて「いい曲だなー」って反芻するのは止めようと。とにかく知らない曲を聴く。そしてBPMごとに仕分ける。

E: BPM別ですか?

C: BPMで全部管理してます。BPMさえ近ければどんなジャンルでも突破口が見つけられる。僕のやり方だとBPMが離れると違うジャンルに行きづらいので、いいなと思ったらその場でBPMを測るソフトで測って「60か。じゃあ倍速の120のプレイリストに入れよう」って。どんどん溜めてプレイリストがだいたい30曲位に増えてきたら作れる状態になるんで。その状態になってから曲を買いますね。

E: 面白い。

C: このやり方にしてから飛躍的にリリースペースが早くなりましたね。それまではひたすらリストにまとめて、買って、BPM測って、プレイリストに分けていたんですけど、今のやり方にしたら、買う前に大体分けられるんで、今作るべきものだけ買ってということが出来る。まあこれも子供がいて妻がいて、お小遣い制ゆえに生まれた技ですが。

E: カルロスひろしさんのミックスって、1曲1曲を丁寧に聴いて熟知した上でDJミックスしてるんだなと感じます。

C: そう思ってもらえるのは嬉しいですね。丁寧にというか、派手なミックスというよりは曲をしっかり聴かせて、歌詞がリンクするように心がけています。
仕分けの段階ではあんまり聴きこんでなくて、ミックスを作っていくうちに何回も聴き直すから、そこでじっくりチェックする感じです。「これってこういうことを歌ってるんだな」とか、「このメロディ感とこのトラックの音のこの辺はこの曲と似てるから順番変えてみよう」って作業をやっていくと、「ドラッグの話の曲の後にラブソングはちょっとやだな」とか、そういうのが見えてきてメロディだけじゃなく意味と内容を色々考えるようになるんですよね。

E: ミックスをする上で気をつけていることはありますか?

C: 曲を変な箇所で切らないってこと。4人MCがいたら3人しか使わないっていうのは極力やらないようにしています。その4人目の人がかわいそうでしょ。「お前達の曲使ってたよ」って言われた時に、「いや、最後の俺入ってなかったんだよ」ってなるのが嫌だなって。1回だけ気づかずにやっちゃったんで今でも後悔してます。
でもこういうのって母国語の日本語だから気にするようになったことで、洋楽のミックス作っていた時は歌詞を100%は理解しないでメロディとフローしか捉えていないので、この後に誰が何を歌っているかを気にする事なくクイックミックスしていました。ある日から、その音楽の意味を理解しないで物作りをしている感じが嫌になっちゃって。

E: 洋楽はもう聴いてない?

C: たまに聴きますけど、今は日本人の曲以外でミックスを作る気がないので、積極的には聴かないです。日本の曲を聴く量に比べたら100分の1かな。

E: そもそもの音楽遍歴は?

C: 兄弟が4人いて、姉、姉、兄、僕なんですけど、上のお姉ちゃん達が音楽にアンテナが高くて、部屋に行けば色んな音楽が聴ける環境が子供の時からありました。
小学生の頃は、JUN SKY WALKER(S)とか UNICORNが大好きで、バンドブームの頃ですね。THE BLUE HEARTSのカセットとかCDを貸してくれて色々聴いていました。

E: バンドを組んだりしました?

C: 中学校に入ったらスケボーを始めちゃったんで、もう全然バンドをやる気も起きなくなっちゃって。

E: スケボーはどういう流れで?

C: テレビで流れていたスノーボードの映像を観て、お姉ちゃんに「ああいうのやってみたら?」って言われて、それで練習用にスケボー買ってもらったのがきっかけです。

E: 聴く音楽も変わりました?

C: スケーター寄りの音に変わっていきましたね。スケボー・ビデオのバックで流れる曲がスケートパンクから徐々に何でも使うようになってきたのがちょうどその頃で、ジョン・コルトレーンやファンカデリック、デルザファンキーホモサピエン、デ・ラ・ソウルとか、アメリカの西海岸から東海岸までなんでも使われてました。ロックももちろん使っているし、凄く雑多で刺激的な中学生時代でした。中でも、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を使ってるスケボー・ビデオがあって、その印象が凄くて、いまでも『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は大好き。
スケボー・ビデオの曲が知りたくて、ビデオのエンドロールにちょろっと出てくるクレジットをチェックしたり、それでも分からなかったら、音楽詳しい人って必ずいるんで、先輩の先輩とか、もちろん後輩でも詳しい奴がいたので、いろんな人に分からない曲を教えてもらってましたね。

E: みんなスケーター繋がりですか?

C: ほとんどスケーターばっかりです。

E: カルロスさんの地元ではスケボーやってる人が多かったんですね。

C: 中学では流行っていなかったんですけど、高校に入ったばかりの頃は学校単位で流行っていましたね。高1では誰もバイクの免許を持ってなかったので、実はヤンキーがみんなスケボーやっていて、2年生になると免許を取って単車に乗っちゃうからみんな辞めちゃうっていう。懐かしい。

E: いいですねー。ヒップホップを本格的に聴き出すのもこの頃ですか?

C: 高1ぐらいからDJしたいと思ってたのでレコードを買うようになってたら、高2くらいでヒップホップ・ブームが来ちゃって、僕もブームに背中を押されてターンテーブルを買って、ヒップホップにのめりこみましたね。
コモン『RESURRECTION』とか、ビギー(ノトーリアス・B.I.G.)のファーストが出たぐらいの頃で、出る新譜が全部格好良かったので、とりあえず現行のヒップホップを聴いていれば楽しかったですね。
それに通学路の途中にある川崎の西武百貨店の中にWAVEがあって、隣がムラサキスポーツだったんですよ。学校帰りに毎日ムラサキスポーツへ行って、そこで働いているスケーターでありDJもやってる先輩が「あのレコード買った方がいいぞ」っていつも教えてくれたんですよね。最高の環境でした。

E: 現場でのDJ経験はいつから?

C: 高2くらいですかね。横浜のどっかのクラブで友達がラップして、そのバックでDJやった覚えがありますね。それから高2? 高3かな? さっき話したムラサキの先輩が誘ってくれて、いろんな場所でDJさせてもらいました。
学校出てからは地元の印刷会社に就職して、仕事が終わったらスケボーやって、週末はクラブに遊びに行ったりDJしてましたね。

E: 仕事を続けながら?

C: 23歳くらいまではずっと同じ仕事をやっていましたね。現場のDJは20歳くらいで1回フェードアウトして、20歳から24歳ぐらいは本気でスケートボードをやってて、その頃は家でシコシコとサンプリングソースのボサノバとかファンクとかブレイクビーツとか色んな音楽が流れるDJミックスを作ろうと試行錯誤するんですけど形にならなくて。ちょうどその頃にビッグ・ビートが流行ってて、あの無茶苦茶に色々なジャンルの音楽が混ざっている感じにハマりましたね。そしてスケボーが一段落した24歳くらいでまた現場でのDJを本格的にやり始めた感じです。

E: 音楽に対して柔軟ですね。

C: それはスケボーをやっていた中学校の時の環境が大きかったんだと思うんですけど、これ格好いいなと思ったら遠慮なく使うというか。だから今でも自分がヒップホップのDJだとは思ってないですし。

E: DJとしての活動は今もされてるんですか?

C: こんなご時世なのでやる場所がないっちゃないんですけど、たまにThreepee BoysっていうDJクルーのイベントにはタイミングが合えば出させてもらっています。

E: ミックス音源の公開については、今後どうしていく予定ですか?

C: 自分のアカウントでの公開に限界が見えたところがあるので、ちょっと次は違う動きをしようかなって思っています。

E: 自分のアカウントでずっとシリーズを続けていくのにこだわりは?

C: 前はこだわってましたけど、今はあんまりこだわってないですね、それよりも2020年に10個作ったことで定期的に作ることへの自信がついたので。他の場所でミックスを公開する事に興味が出てきましたね。去年の最後に出した『Neftlix 10』は半ば意地になって作ったんですけどね。「今年中に絶対10個作ってやる!」って言いながら(笑)。

E: DJミックス自体は続けていく?

C: もちろんです。歌も歌えないし楽器も出来ないですし、DJが音楽の中で自分が唯一出来ることだから。最近はR&Bやインストで面白い曲が一杯あるので、その辺も扱っていきたい。

E: ちなみに趣味で聴くのはどういう音楽が多いんですか?

C: なんだろ、矢野顕子とか、ジャズが好きで、アーマッド・ジャマルとかキース・ジャレットも好きだし。家だとあんまりラップは聴かないですね。あと、ヤン富田、コーネリアス、このお二方はかなり好きです。

E: そっち系でミックスを作ろうとは思ってないんですね。

C: 何回かやってみたけど頓挫してます。

E: それは残念(笑)。では好きなカヴァー曲を教えてください。

C: 他の人が選ばなさそうなもので言うと、YMOの「CUE」をコーネリアスがカヴァーしてて、その曲が好きですね。あとは矢野顕子がはっぴいえんどの「相合傘」をピアノの弾き語りでカヴァーしている曲があるんですよ。それが凄く好きです。

E: 個人的趣味からのセレクションですね。

C: 完全に趣味ですね。でも「CUE」の方は今だったら使えるなあって。

E: 今後のミックスに出てくる可能性も?

C: あるかな。多分15年ぐらい前のカヴァー曲だと思うんですけど、格好いいんですよね。BPM70ぐらいで。

E: ダメなジャンルってあります? これは聴かない、みたいな。

C: そんな苦手なものはないかも。音楽に関してはとりあえず何でも「1回、口に入れてみようかな」みたいな。

E: レゲエやダンスホールは?

C: 好きなんですけど、レゲエって説得力を持たせるのが凄く難しいからミックスは作らないかな。一番迂闊にやっちゃいけないジャンルかも知れないですね。誰が何をやっているのかがモノをいうし、ヒップホップ以上に並び方に意味を持つと思うんですよ。「日本語のレゲエでミックス作って欲しい」って依頼を受けることがありますけど、「中途半端なことやったらその土俵に対して失礼だから、僕は出来ない」って毎回断っています。敬意があるから。

E: いい話だなあ。ところで発表するミックス音源はほぼ新曲ばかりで構成されていますが、新譜にこだわる理由は何でしょう?

C: 新譜にこだわるのは、テレビや新聞で毎日新しいニュースを見るような感覚で音楽を捉えると、「なるほど、これが出てきたから今度こういうのが流行るんだ」とか「半年で全然変わっちゃったなあ」とか株価みたいに時代が動いている感じが見えるのが凄く面白い。その、今しかない面白い流れを捉えたいからですね。それにコンスタントに好きな曲を使ってミックスを出さないでいると、使わなかった好きな曲にずっと引きずられて心の消化不良になっちゃうから、新譜で良いなと思った曲は溜めないでさっさと出すことにしています。
あと、誰が聴いてもいい曲になっている名盤を使ってミックスを作るのって全然冒険的じゃないし、作っていて興奮しない。DJミックスのアート性って、誰も評価していないものを使うことだと思うんです。だから僕は評価されきっていない曲でミックスを作って世間に認めさせていくのが楽しいんですよね。SNSの評判とか見てから曲を選んで「あ、この曲人気ないのかも」と思うと自分のクリエイティビティが下がっちゃうじゃないですか。昨日リリースされた曲を今日入れて夕方ミックス公開とかバンバンしますもん。自分が良いと思ったら信じて出す。まだ評価もついてない曲をむしろ僕が評価をつけてやるっていう気持ちです。

E: いいですね、素晴らしい。

C: 何とか今を捉えようとしている感じです。でも、音楽では出来るんですけど、映画とか本は昔から好きなのばっかり観ちゃいますよ。マンガだと未だに『アキラ』とか『火の鳥』ばっかり読んじゃいます。そういうのが好き。

E: さすがにマンガまでは新作を追えない。

C: 全然追えないですね、まず絵柄からして無理みたいな(笑)。多分、皆さん音楽に対してそういう感覚だと思います。分かるんですよね、「こんなにいっぱい出ていても追えないよ」って。たまたま音楽はこういうやり方が続けられているので、いい頭の体操になって面白いですよ。

Profile
1978年生まれ。川崎に育ち、中1でスケートボード、高2でDJを始める。かつてはスケートショップgoldfishの店主、横浜のDJクルーLEF!!!CREW!!!のメンバーとしてスケボーと音楽の活動を両立。現在は日本語ラップの新曲のみで構成された『Neftlix』シリーズをはじめ、様々なミックス音源を公開中。これまでのミックスはMixcloudで全て聴くことが出来る。
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Photo:Yutaka Oizumi
取材協力:Landar / LACQUER

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