スペシャル / ダブプレート座談会(後編)
feature #048

スペシャル / ダブプレート座談会(後編)

レゲエには「スペシャル」と呼ばれる独特のカルチャーがあり、また似たような存在として「ダブプレート」があります。既存曲を基底とするスペシャルやダブプレートは、ある意味カヴァー曲と言えるのではと、3名のプロに話を伺うべく集まっていただきました。2回に分けてお届けする後編です。3人が語るスペシャル / ダブプレートの未来とは。

Members;
COJIE: Mighty Crown / Scorcher Hi-Fi
1TA: Bim One Production
Tamotsu Suwanai: Wax Alchemy

7 Feb. 2021

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eyeshadow (以下E): それではこの辺で、持ってきていただいたスペシャル/ダブプレートを見せてください。

保 (以下TM): あ、匂いが!

1TA (以下1T): もうハマるよね。

TM: 《Wax Alchemy》では塩化ビニールでカットしていますが、《アローズ》とか《ミュージックハウス》はアセテート盤で中に鉄板が入っているんですよね。

E: アセテート盤ってどのくらいの寿命なんですか?

COJIE (以下CO): 頻度とか使い方にもよりますけど、長持ちはしないですね。

TM: ヒップホップみたいな使い方をすると割とすぐキューバーンします(頭だし部分にノイズが入ること)。ただ、アセテート盤は劣化が早いけど、ミント・コンディションのうちはめちゃくちゃ音がいいです。

CO: めちゃくちゃ綺麗な音するよね。

TM: 塩化ビニールももちろん音はいいんですけど、アセテートのミント状態には到底勝てないですね。

E: 世界的にもアセテートは廃れてるんですか?

TM: ダブ・スタジオとか一部ではまだ使ってますね。今は新材がなかなか手に入らなくて値段も高いから、スタジオ側もきついみたいです。以前のようにテストカットも出来ないし。

E: スペシャルやダブプレートが10インチ・サイズなのは昔からですか?

TM: 7インチ・レコードのプレス用のマスター盤を作るのに使われているのが、10インチ・サイズのラッカー盤で、その物自体も高いので、コストを抑えるためにも、傷があったり、既に何かがカッティングされていたりとか、正規のマスター盤作成には使えないB級盤にダブプレートととしてカッティングしていたので、特にレゲエのダブプレートは10インチの物が多いです。

CO: 昔から主流は10インチですね。

TM: 10インチで片面2カットの計4カットにするか、片面1曲ずつバッキバキにするか、人によって分かれますね。

1TAさん持参その1:キング・スティットのスペシャル(Arrows Studio)

TM: 《アローズ》はいにしえのダブプレートって感じですね。しかもジャケットがかっこいいし、何か色々とちょうど良い。

1T: この絶妙な感じ。剥がれちゃったりして…この匂いがいいでんすよね。アセテートの匂いの芳香剤が出たらそこそこ人気出るんじゃないかな(笑)。それくらい魅力的な匂い。

E: これはいつ頃に、どういう経緯で作ったんですか?

1T: 2004年くらいでキング・スティットが亡くなる8年前ですね。DeeJayものだけのミックステープを作った時に、Deejayの元祖であるキング・スティットのスペシャルを録りたくて、当時働いてたレゲエのレコードショップの同僚がジャマイカにいて、相談したら録ってくれたんです。その頃のキング・スティットはスタジオ・ワンの倉庫の管理人みたいな仕事をしていて、スペシャルを頼まれることがしばらくなかったみたいで張り切って録ってくれて、周りも「キング・スティットが歌うらしいよ」って凄い喜んでくれて。そういう意味では思い出の、自分の初めてのダブプレート。ただ、どうしたって直せない傷がついた状態で送られてきて、悲しいですが同封されたDATからCDRに焼いてかけてました。

1TAさん持参その2:BS0のダブプレート(Wax Alchemy)

1T: これはBS0のダブプレートで、2017年頃に保くんとスタジオで初めて録ったときに作った1枚です。Bim One Productionの曲をブリストルのISAN SOUNDがリミックスしたスペシャル。保くんがカットしたPVCのダブプレートを10枚限定で売ったんですけど、自分たちのイベントのために作った思い出の1枚ですね。
保くんにカットしてもらった初めての盤で、これをきっかけにBim Oneのダブプレートをお願いするようになったりとか。そういう意味でも思い入れがあります。

1TAさん持参その3:Bim One Productionのダブプレート(Wax Alchemy)

1T: これはUKグライムMCのFlowdanなどに元々ある曲をBim Oneのリリックに差し替えて、自分たちの作ったオケで歌ってもらってそれをカットしたもの。

E: これしか存在しない?

1T: これでしか聴けない、売り物でもない。いわゆるダブプレートですね。

TM: これはテンション上がるもんな。現場へ行って置いてあると(笑)。

1T: 自分もレコードだと1曲を大事にプレイする気持ちが入りやすいです。もちろんデータでやる時もありますけど、やっぱりBim Oneでプレイする時にレコードの方が映える現場では、カットしてもらった盤をかけて、これも含めて作品ってことで、かける時も思いが入るし、そういう意味で楽器の1つという感じですよね。

1TAさん持参その4:Bim One Productionのダブプレート(Wax Alchemy)

1T: 最後は、大阪のElementとの共同レーベルの《Riddim Chango》から次に出す曲のテスト盤なんですけど、まだ世に出てないやつってことでダブプレートとしてこれを持ってきました。
*Sons of Simeon「Goliath Brothers」2021年3月26日リリース済

CO: サウンドシステムではプレリリースをどこが一番最初にかけるかって競っていたんだよね。

TM: コネクションの強さも見えますよね。ちゃんと繋がってないとそういうこと出来ないですもんね。託せないっていうか。

CO: その繋がりが見えるのがまた面白い。スペシャルとは違って、お金では買えないダブプレート。

1T: これは同じ曲のテイクが2つ以上入っている作品で、パッと聴きくと同じ曲なんですけど微妙に違う。ちょっとシンセが入ってるのと入ってないバージョンがあるよ、抜き差しが違うよみたいな(笑)。コアな人じゃないとなかなか届きづらいんだけど、そういうカルチャーを作品に落とし込んだダブとして今日持ってきました。

E: リリースは7インチになるんですか?

1T: これはそのまま10インチで出します。ロンドンの《トランジション》でカッティングしました。

TM: ダブステップの黄金期を支えたスタジオですね。

CO: ベース系は《トランジション》のイメージが強いね。

COJIEさん持参その1:Scorcher Hi-Fi「Fish + Goat」のダブプレート(Wax Alchemy)

E: 次はCOJIEさん。

CO: これは《Wax Alchemy》でカットした中でも初期のやつで、90年代のビッグチューン「Against The Tide」のダブプレート・ミックス。

1T: 保くんと知り合ってすぐの頃?

CO: すぐの頃だったかな。

TM: 懐かしいなぁ(笑)。サウンドシステム向けというか、COJIEさんのプレイスタイルにフォーカスした音作りをしたいと思って、何回かスタジオに来てもらってたんですよね。

CO: そうだね。サウンドシステム映えする音を常に追求して《Wax Alchemy》に頼んでますね。

TM: 僕もイベントに行ってボリュームとか低音とか意見を交わしていた頃。

CO: 今は何も言わなくても求めてる音が返ってくる感じ。

TM: ただですね、いつも途中で曲が増えるんですよ(笑)。

CO: それはごめんね。気をつけます(笑)。

E: COJIEさんは今まで何枚ぐらいダブプレートを切ったんですか?

CO: 100枚以上だね。

TM: 5〜6年、ほぼ毎月切ってますもんね。しかも1枚2枚のオーダーじゃないですもん。ダンスでは新譜以外全部ダブプレートですもんね。

CO: そんな感じだね。

TM: 今、国内ではトップクラスで切ってるんじゃないですか。

COJIEさん持参その2:ガーネット・シルクの未発表ミックスのダブプレート(DUBSTORE)

CO: これは95年キングストンの《ダブストア・スタジオ》でカットしたガーネット・シルクのプレリリース曲で、マスター音源のデータもないやつ(笑)。このプレートだけ。

TM: これしかないんだ?

CO: なので今度《Wax Alchemy》でリマスターしてカットし直したい。

1T: 貴重ですね。

E: このダブプレートに収録されている曲はどれもリリースされてないんですか?

CO: 両方ともリリースされてる曲とはミックスが違うね。

TM: レゲエはそういうマジックがあるからなあ。

COJIEさん持参その3:バーニング・スピア、 フレッド・ロックス、デジー・ルーツのダブプレート(Music House Studio)

1T: これは2020年に亡くなっちゃったカッティング・エンジニアのレオン・チュアが手がけた…

CO: そうだね。俺が一番信頼してたダブカッターだった…。

TM: ほんと、カルチャーまでリンクしたカッティング・エンジニアって珍しいですよね。彼の音は相当研究しました。COJIEさんにお気に入りの良い音の盤を持ってきてもらって、ボリューム感だとか質感をコピーしたり。コピーっていうか研究させてもらいましたね。

CO: そうだったよね。

COJIEさん持参その4:トゥー・プロフィットのダブプレート(Wax Alchemy)

E: これは保さんのカッティングですか?

CO: そうです。普段は10インチばかりなんだけど、これは12インチでカットしました。

1T: アーティストは誰ですか?

CO: トゥー プロフィットっていうアンダーグラウンドなダブクリエーター。めっちゃハードコア(笑)。

1T:  UKアーティスト?

CO: ブリストルのプロデューサーだね。

TM: ズブズブのやつですよね。

CO: もう変態よ(笑)。

TM: この手書きもダブプレート・カルチャーですよね。結構ラベルの管理ってみんなバラバラで、ラベルを作る人もいれば殴り書きの人もいるし、ステッカー・スタイルの人もいるし。

CO: 俺はこの手書きのスタイルがダブプレートっぽくて好き。

COJIEさん持参その5:バーニング・スピア「Black Soul」のダブプレート(Music House Studio)
COJIEさん持参その6:アズワド「National Progression」のダブプレート(Music House Studio)

CO: これも市販されてる曲とはミックスが違いますね。

1T: バーニング・スピア持ってるんですね、知らなかった。

CO: ダブプレートミックス(未発表ミックス)は持ってるよ。

TM: すげーな。

1T: 何の曲を録ったんですか?

CO: バーニングスピアのスペシャルは持ってないよ。未発表ミックスの方ね。

1T: どこかのサウンドがバーニング・スピアのスペシャルを持ってるって話を聞いたことがありますが、そう言えばボブ・マーリーも偽者がいっぱいいますね(笑)。ジャミーズとジャロだけが持ってるって聞くんだけど、彼らも本物ではないんじゃないかって議論がされています。

E: そっくりさんが声真似してるんですか?

1T: キャンディーマンってモノマネ歌手ではないけど、嘉門達夫みたいなものまね、ボブ・マーリーのそっくりさんがいて、O.B.F.が持ってるんですけどすげえ似てるんですよ、シャウトとか。

https://youtu.be/YL3_MgIM1PE

E: シャレでやってるんじゃなくて?

1T: 割と真面目にやってます。彼は一応リリース・アーティストでもあるんですけど、ボブ・マーリーのカヴァーがめちゃめちゃ上手くて。さすがにボブ・マーリー本人はビッグだし亡くなってから長いので、今の人は無理だと思うんですけどジャミーズとジャロが本物を持っていると噂される。いまだにそれが謎になってますよね。

CO: 多分それは本物じゃないと思う…。

1T: ジギー・マーリーとかキマーニ・マーリーももちろん声が似てますしね。

CO: キマーニ・マーリーが一番似てると思う。

1T: そういう意味ではカヴァーの話になるけど、レゲエでは人の曲を違う人が歌うっていうのはありますよね。

CO: それは昔からあるね。

TM: 音の面で言うと、《ミュージックハウス》はクオリティーが高いですね。特色のある音。

CO: そう思うよ。個人的にも一番好きなダブカッティング・スタジオ。

COJIEさん持参その7:デニス・ブラウン「Liberation」のダブプレート

E: このデニスもダブプレートなんですね。

CO: そうだね。これもプレリリース。

TM: スリープがもうドキドキする(笑)。うちも作ろう!

1T: オリジナル・スリーブいいかもね。

TM: 今度ジャケの打ち合わせして、日本のダブ・スリーブ作りましょうよ。

CO: スリーブも大事だね。

1T: 白いやつよりかは全然いい。

TM: やっぱ残るんすよ、こういうのやっとくと。最後に僕が死んでも。

1T: 《アローズ》とかもそうだけど、やっぱり違うもんな。

E: スペシャルやダブプレートって市場に出ることあるんですか?

TM: たまに出ますね。

CO: ネットとかオークションで売っちゃってる人いるね。

1T: 売るもんじゃないですからね。結局リリックも買った人のために作られたものじゃないから、捉え方だとは思うんですけどね。あんまり売り買いするものでは無い気がする。

TM: いいなあ…先人のカットは。

E: 溝を見てどんな音か読めたりしますか?

TM: 溝を見れば大体イントロ、ブレイク、ボリュームまでは分かりますね。

CO: さすがプロだね。

1T: これがカッティング前のPVCですね。

TM: これが1ミリ。めちゃくちゃ軽くて薄くて。COJIEさんが切ってたのは1.5ミリですね。

CO: そうだね。1ミリも一回だけカットしたかな。

TM: アセテートとは相当な違いですよね。

E: よくレコードで重量盤は音が良いみたいな売られ方しているじゃないですか。薄くても音に問題はないんですか?

1T: 重いと歪みが少なくなるんで、フラットで安定感はある気がしますけどね。

TM: 歪みづらくなるっていう利点はあるんですけど、基本的に音が太いって言ってるのは、普通は1.5ミリのやつでキャリブレーションとってるじゃないですか。2ミリのやつだと針圧が強くかかるんですよね、上がってる分。故に低音が強く出るんです。なので重量盤を聴くならちゃんとキャリブレーションは2ミリの高さで聴かないと。でも1ミリでも2ミリでも極端な話しますけど、レコードが分厚ければ音がいいかって言うと…?っていう。溝の深さって何ミクロンの世界なので、その分の厚さあれば本当は十分なんです。

CO: 1ミリでも十分ってことだね。

TM: そうですね、ただノイズは出ます。フラットなのは重量盤の方が強いですけど。ちょっとテクニカルな話になりますが、レコードの溝ってボリュームを大きくすると大きく揺れるんですよ。なので溝がくっつかないように溝と溝の幅を開ける必要があるんです。収録曲の多いLPはボリュームを小さくして溝の幅を抑えて曲を入れるんですね。

CO: その代わり解像度が下がりますよね。

TM:  下がりますね。

1T: じゃあ重量盤って様式美だけの気がしてきた(笑)。

CO: 重量盤って聞こえは良いよね。

TM: 重量盤の音が良いのはリマスターしてるからです。自分も同じものを重量盤と普通の厚さの盤でカットしたことあるけど、そんなに変わらなかったです。

CO: そうそう、前に試したよね。別に変わらなかった。

TM: 工程としては薄かろうが厚かろうがプレスする段階では同じですからね。
しかしこれだけ色んなダブプレートがあると興奮するな(笑)。ダブこんなに見たことないですもん。すぐ発送しちゃって手元に残らないんで。

E: 保さん、話せる範囲で結構なんですけど、個人的な用途でダブプレートやスペシャルを切ったりするお客さんは多いですか?

1T: 結婚式で使うとか、子供の思い出とか、そういうのもあるんですよね。

TM: ありますあります。それこそスペシャルで結婚おめでとうとか追悼もあります。還暦、おめでたい時、お店の周年とか、クラッシュの用途以外のスペシャルもいっぱいありますよね。これはマーラが言ってた言葉ですけど「音楽を作るイコール売る」じゃないっていう世界なので。

CO: 必ずしもそこはイコールではない。

TM: 色んなパターンがありますよね。感謝の手紙としてカットする人もいますし、赤ちゃんの産声を記録として残したりとか、プロポーズの言葉も。僕はもうゾクゾクしながら…(笑)。

1T: カットしながら恥ずかしくなっちゃいますよね(笑)。

TM: 少しでも伝わるように努力して。曲以外のスペシャルっていうか、本当にピンポイントめがけて収録した音源は世の中にいっぱいあります。これもダブプレートの範囲。スペシャルですよね。サウンドじゃなくて個人やパーティー限定とか。

E: その他、自作の曲を自分用にプレートにしたりも。

TM: ダブステップとかクリエーター界隈でいうと、それがほとんどですね、それこそ作って現場でかけたいとか、うちでカットしてCOJIEさんに送ってくれ、とか。

CO: そう思ってもらえることはありがたい。

TM: 海外のあるレーベルだとデジタル音源のプロモを送るのが禁止で、ダブプレートじゃないとうちは聴かないよってところもあります。そこでふるいにかけているっていうか、カッティングのカルチャーを分かってて、なおかつカッティング・エンジニアのコネクションを持ってるようなアーティストしか扱いませんって意思表示をしているレーベル。そういうところの案件をカットしたりしてますけど、結構荷が重いですよね。変な音だったら落ちるじゃないですか(笑)。

1T: 反対にカットの評価が上がって仕事がどんどん増えたりも?

TM: UKの連中から新しい曲やリミックスが送られてきたりとか、どうやって情報を知ったのか分からないですけど、ある有名なプロデューサーDJがうちにオーダーしに来てますね。
個人的に聴きたいんですけど、COJIEさんが最初に録った時ってどうでした?

CO: 自分の好きなアーティストに曲の中で、名前を呼ばれるってめっちゃ嬉しかった思いがある。

E: スペシャルやダブプレートを録る時って、名前の他にどこまで細かくリクエストするものなんですか?

CO: それは人それぞれですね。用途によっても変わってくるし、リリックの内容を細かく指定する人もいるし。

TM: 古くからやってるクルーの方たちで、時々「3人目のパートをカットしてください」っていうような依頼が来ることがあって、メンバー抜けたんだなあって思っちゃいますね。

CO: そういうのあるよね。

TM: そういう意味では最近はダブプレートの依頼もクルーで発注するのではなく、個人単位が多いですね。

1T: リスクは少ないですよね。ある意味、ダブプレートを作ることは、この曲の替え歌でここをこうしてみたいに、編集というかディレクティングのセンスで変わったりするので、そこにこだわる、命かけてるようなセレクターもいるし奥が深いですよね。

CO: ダブプレートの録り方でサウンドの特性が出やすいっていうのはあるよね。

E: いずれ録ってみたいアーティストっていますか?

1T: デニス・ブラウンは録らなかったので、欲しかったなあと思いますね。でもそれよりも一発目でかけて、そこにいる人たちが「なんだこれ!」ってなるものは追い求めてますよね。そういう意味では別にインストでもいいし。その瞬間にドツボにはまるような奇跡的な曲っていうのは狙っていきたいですね。

TM: COJIEさんはスペシャルはもうあまり興味がない?

CO: いつからか、スペシャルには興味がなくなってたね(笑)。その価値観も変わってきてるし、ダブプレートミックスとかプレリリースの方が興味あるよ。

1T: 最近はジャー・シャカもダブプレートかけないみたいですね。

CO: ダブプレートかけてるけど、以前と比べるとその割合が少ないね。でもシャカはシャカ!

1T: 存在がダブプレート(笑)。

TM: 絶対帝王だから。

CO: やっぱりシャカの影響力はすごい!

1T: COJIEさんがその域に達しているけど、自分の曲をかけて欲しいっていう人が出てくるのはプレイヤーとしての最終到達地点かもしれない。

CO: 海外のプロデューサーから頼んでなくても勝手に送られてくるというのが増えた時に、認められてきたんだなって思ったね。頼まなくても曲をもらえるっていうかさ。

TM: 自分の場合はダブステップのトップ・プロデューサーDJのダブプレートを定期的に切っているので、「こんなの出るんだ」「レーベルがいつもと違う」という発見や驚きがいつもありますね。

CO: いち早く新曲聴けるし、ダブカッターの特権だね。

TM: 特権ですよ。でも分かっている人は僕に対しても守秘義務というか、アーティスト名を全部消して送ってくるんですよね。タイトルだけで、自分も誰か分からないけどなんとなくは分かる。楽しいですよ。COJIEさんの昔のMightyの音源をカットしてる時も「こんなのもあるんだ」って。

E: さて、最後にスペシャルやダブプレートの未来についてお伺い出来れば。

TM: 今ちょうど面白いことやってて。マッシヴ・アタックやポーティスヘッドとか、レコードの音の質感がヤバいのあるじゃないですか。今それをやろうとしても、どうしてもあの質感って出来なくて。っていうのでアーティストと一緒に曲を制作しているんですけど、各素材を1回レコードに全部カットしたんですよ。それをサンプリングしてミックスするという作曲技法をやってまして。

CO: それは凄いな。

1T: その工程は凄い。

TM: そうすると一発であの音になるんですよね。説得力っていうか「これが欲しかったんだよ」って音になる。1回レコーディングしてサンプリングすることで変わる。これも新しいレコードの制作方法になるんじゃないかなと思います。
よくテープとか真空管に通したりするじゃないですか。同じように1回レコードにしちゃうという新しい作り方。

1T: 独特のコンプレッション。

TM: レコードを再生すると内側へ行くにつれて歪みが強くなるので高音が下がってくるんですよ。で2曲目になるとまたパーンといい音になる独特の感じ。あの質感を制作段階で作るという方法で今アルバムを制作しています。

CO: 面白いね。制作の工程にこだわるっていうのは大事なことだと思う。

TM: そうですね。プロデューサーが「レコードのあの質感の音を出したいんですよ」って話をして、「もう切るしかないでしょう」って(笑)。

CO: それが一番早いね。

TM: そうなんですよ、レコードの音を疑似的に再現するプラグインも出ていますが話にならない。あの音っていうか、例えば歌もリバーブ無しでアカペラでカットするんですよ。リバーブをかけなくても良いくらいそこに空気感というかあの質感があります。リバーブじゃなくて僕は質感を味わいたくて音楽を聴いてたんだなと気づきました。

CO: 確かに。質感はこだわりたいとこ。

TM: ただ全トラックを1回アナログに落とすとなると莫大な予算がかかる(笑)。

1T: 保くんがそこまでこだわってるからね。さっき言った結婚式とか記念にカットするのもスペシャルだ、という考え方がもうちょっと世間に浸透したら面白くなるんじゃないかな。野球のバッターボックスへ入る時のBGMとか、格闘技の入場曲でスペシャルを使うとか実際にあるけど、そういうのがもっと一般の生活の中に出てきたら面白いですよね。

TM: あー、確かに。超面白い。

1T: 考え方が普遍的で本質があるから、スペシャルが浸透してきたら面白いな。それとポップスの有名な曲をアレンジして、例えばサザンオールスターズのダブプレートをクラブDJがかけるとかあっても良いと思うし、こういう考え方があるっていう理解が深まっていって世界的にも増えたら音楽的にもそうだし、現場も盛り上がるし。何か楽しい世界になりそう。

TM: これが広がるともっとシンガーの層も厚くなってきますよね。仕事も回っていくだろうし。

1T: ジャマイカだって正規リリースするよりダブで稼いでいる人の方が多いかもしれない。ボーカリストの仕事の幅が広がるのも良いことだし。

TM: ヒップホップは最近増えてきましたね。ガチガチの「Sleng Teng」にラップ載せてるとか。

1T: そこは2000年代のダンスホールが頑張ってきた中で、ちょっと浸透してきたところは感じますけど、もうちょっと色々な範囲で広がっていくと面白いよね。クラブカルチャーもそうだし、バンドカルチャーの中でもそういうのがあったらもっと繋がっていくし、交流も増えたら独特の日本の音楽シーンっていうのが出来そう。

TM: 日本独自の派生の仕方をして欲しいというのはありますね。

E: 海外でそういうジャンル横断の例はないんですか?

1T: 《Red Bull Music Culture Clash》っていうのがあって、ベースカルチャーの中でレゲエやダンスホール、ジャングル、ヒップホップの代表のサウンドがクラッシュするイベントがありましたね。誰が一番盛り上げられるか毎年やってたんですけど。

CO: カルチャー・クラッシュみたいな趣旨は面白いね。

1T: システムによって鳴りも全然違う。僕らが毎年やっている《東京ダブアタック》のジャンルが違うイメージ。

E: そういう意味では《東京ダブアタック》も色んな可能性がありそうです。

1T: 今はレゲエでベーシックなところでやっているんですけど、今後もしかしたらあるかもしれないですよね。違う名前になるかもしれないけど。

CO: その可能性は広げたい!

TM: 自分もカッティング・ハウス同士でクラッシュをやりたいなっていつも思っています。

一同:おおー。

TM: うちのカスタマー対、例えばブリストル勢のダブスタジオがクラッシュするみたいな。

1T: それ凄いなー、出来るかもね。

TM: アーティストはみんな1ヶ所のカッティング・スタジオで切るのがほとんどなんですけど、割とネットワークがそれぞれのサウンドシステムとスタジオの間にあるので、そのクルーごとでやれたら面白いよなって(笑)。

CO: それが成り立ったら最高に面白い。

TM: お2人には〈Team Wax Alchemy〉で招集したい。ブリストル勢と〈Team Wax〉でダブカズムとかカーンら辺とクラッシュとか。

1T: それは本当にカルチャー・クラッシュだな。

TM: ゴストラッド、マーラ、COJIEさん、1TAさん…やりてーなー(笑)。世界中のカッティング・ハウスを巻き込んで、その土地のカルチャー同士、ザ・ローカル対決。負けらんないみたいな。

1T: オリンピックの日本代表みたいな感じになるか(笑)。

TM: 国内だけでもいいからやりたいんですけどね。

CO: 日本は数がまだ少ないからね。

TM: もうちょっと日本のタブプレート・シーンが大きくなったらやりたいですね。

1T: ご当地アーティストとかね、色が出るだろうし。そういうのやりたいですよね。

TM: 本気になりますよね。

1T: 本気だよね。ローカルがかかってると自分だけの問題ではないから熱くなる。ダンスホールのサウンドシステムはそういう意味で功績があると思うよね。

TM: サウンドシステムとダブプレートは並行してるんで。

CO: そこは互いに必要な存在。

1T: 現場ですよねーやっぱり。早くコロナ終わって欲しいなあ。

#スペシャル
主にサウンドシステム同士がクラッシュ(対決)するイベント用に作られたアセテート製(現在はPVC製がメイン)のレコード。ヒット曲の歌詞を書き換えてサウンドシステムの名前やセレクターの個人名を入れたり、サビのフレーズをオリジナルなものに変えた、文字通り世界に1枚だけのスペシャル盤のこと。レコードではなくデータ・ファイルの場合もある。

#ダブプレート
未発表テイクなどを収録した非売品のレコード、またはデータ・ファイル。ヨーロッパのルーツレゲエ・シーンやUKのベースミュージック界隈では必要不可欠なツールとして、現在も新しい音源が日々カッティングされ続けている。
Profile
COJIE (MIGHTY CROWN / Scorcher Hi-Fi)
世界を股に掛け活躍するMIGHTY CROWNのセレクター。1991年から6年に亘るNY滞在の後、オールディーズ部門担当として、MIGHTY CROWNに加入。彼のレゲエに対する知識と愛情、独特のセレクト・センスは、現在のMIGHTY CROWNの世界的な活躍の重要な一役を常に担っている。オリジナルな選曲によるコアなアプローチは、各界より高い評価を受けており、彼がセレクトしたコンピレーション・アルバムにはARIWA音源『LOVERS ROCK AFFAIR』(2005)やISLAND音源『Island Golden Oldies』(2007)、〈King Of Diggin〉ことMUROと共作した『DIG ON SUMMER」(2009)『BLACK FUNK』(2011)などがある。
MIGHTY CROWNのプレイ以外に、COJIEのレギュラーとしては《Steppas’ Delight》がある。
www.mightycrown.com
Our Covers #027 COJIE

1TA (Bim One Production / Riddim Chango / BS0 / Tokyo Dub Attack)
レゲエ/ダブを軸に世界中に点在する”リズム”を有機的に結合していくオリジネーターDJ。また、Bim One Productionのレーベル《Riddim Chango》主宰の一人でもあり、ベース・カルチャー発信集団〈BS0〉や、年末サウンドシステムの祭典〈TOKYO DUB ATTACKの主要メンバーでもある。2003年頃から数々のMix CDやトラック提供、リミックスなど作品を残し、2010年から2012年までロンドンに長期滞在を決行。これまでにロンドン随一のトロピカル・ベース・パーティ〈Arriba la Cumbia〉でのレギュラー出演や、バルセロナの老舗ビッグ・クラブApollo2の人気パーティ〈Rumba Club〉で日本人初のゲストDJとして招かれた。2011年にはヨーロッパ最高峰といわれるレゲエフェス〈Rototom Regaae Fes〉にDJとして出演、2012年3月に行われたUK滞在集大成となるヨーロッパツアーも各都市で大成功を収めた。Bim One Production名義を中心に数多くの音源作品をリリース中。
bim-one.net
Riddim Chango Records
Our Covers #003 1TA

諏訪内 保 (Wax Alchemy主宰)
“ダブプレート・カッティング” 至高の一枚を斬り続けるサウンドエンジニア。強靭なアナログレコードカッティングのサウンドを求め、世界中からファーストコールが絶えない。ダブプレートアイコンと言うべき多数のアーティストのプライベートカッティングを担当し、その響が評価され現在はマスタリングエンジニアとしても数多くのリリースタイトルを手掛けている。

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