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演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。
伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.43 / 19 Jun. 2024
人を人とも思わぬ史上最低最悪の人権侵害の一つ、黒人奴隷制度は皮肉なことに、アメリカに豊潤な文化を育んだ。ブルース、ジャズ、ロックン・ロールなど、西欧とアフリカや南米の文化が融合して生まれた素晴らしき大衆音楽の数々。明るさと暗さが同居する、二元論では割り切れない非合理性に多くの人が魅了されてきた。オイラも、ブルースやジャズが大好き。最近はヒップホップも聴くようになった。初期のブルースは日本の語り芸のようであり、沁みる。
活字好きなもんで、興味のある分野の本を見つけると、ついつい買ってしまう。黒人音楽や映画の本もぽつりぽつりと買っては読んでいるのだが、オイラは気がついてしまった。人種差別を乗り越えてスーパースターに昇りつめたあの人の名がほとんど出てこないことに。それが今回のテーマ、サミー・デイビス・ジュニアです。ミスター・ワンダフル、ミスター・エンターテインメントなどと称されながらも、黒人芸能史の中ではあまり語られることのない彼の魅力の一端をご紹介します。
まずはこちら。ご年配の方にはお馴染みのこの曲から。
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1970年代のサントリーホワイトのCM曲収録のシングル盤。ウイスキーの瓶をベースに見立てて指で弾きながらスキャットをする姿、懐かし映像などで見たことがある人も多いのでは。歌詞もなにもなく、ドゥビドゥビ歌うだけで十分に人を惹きつける、サミーの魅力を感じてください。
芸人一家に生まれたサミー・デイビス・ジュニア。父シニアと叔父のウィル・マスティンとのトリオで三才から舞台に立ち、巡業生活を送ります。歌って踊ってのボードビル芸で人気を博し、徐々にスターダムへとのし上がっていきます。
ステージ・デビューしたての幼少期の歌声と当時の思い出話が聴けるレコードがこちら。
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サミー・デイヴィス・ジュニア・ショー (LP)
1973年のテレビ特番をレコード化したもの。冒頭、父サミー・デイビス・シニアの紹介の後にながれるのは、まだ声変りをする前のサミーの歌声。子供にしてはとてつもなくうまい。その後、親子で思い出を語るコーナーに続けてサミーは「ミスター・ボージャングル」を歌います。カントリー歌手ジェリー・ジェフ・ウォーカーのカバーです。自らを実在のタップダンサー、ビル・”ボー・ジャングル”・ロビンソンだと名乗る囚人を歌った曲に、サミーは様々な思い入れがあるようで、情感たっぷりに歌い上げます。
芸人としての巡業時代に鍛え上げられたサミーのタップ・ダンスは名人芸。次のレコードでは、タップ・ダンスの音も収録されています。
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サミー・デイビス・ジュニア・オン・ステージ (LP)
クラリネットとのデュオでジャズのスタンダード・ナンバー「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」を披露。互いの音に触発し合って演奏が盛り上がっていく様が見事です。タップ・ダンスがただの踊りではなく音楽なんだと思わされました。このレコードでは、タップ・ダンスに続けてものまね歌唱も披露しています。以前も書きましたが(Ep.27)、サミーはものまねの腕前も達人です。フランク・シナトラ、ディーン・マーティン、ナット・キング・コール、サッチモといった、当時のアメリカ人なら誰もが知っているというポピュラー歌手の歌声を、ものの見事に再現できるのです。以前紹介したものも含め、これまでレコ屋で探し出せたサミーのものまね収録レコードはこちら。
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サミー・デイビス・ジュニアのすべて (LP)
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サミー・スイングス サミー・デイビス・ジュニア (LP)
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ミスター・エンターテインメント サミー・デイビス・ジュニア (LP)
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豪華盤 サミー・デイビス・ジュニア大全集 (2LP)
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サミー・デイビス・ジュニア ゴールデン・ステージ (2LP)
サミーは歌やライヴMCの合間に細かくものまねを挟み込んだりもするので、探せばきっとまだまだあるはず。知らないサミーのレコードを見つけて買っては針を落とすのが楽しみなのです。
最後に紹介したライヴ盤では、MCパートもたっぷりと収録(A5 おしゃべり)。軽快なジョークをとばして笑いをとる様は、さながらスタンダップ・コメディアンです。この日の客席には著名人が何人かいたようで、その中からジャズ・ドラマーのバディ・リッチをステージに上げ、セッションをする模様も収録されています。サミーはヴィブラフォンを弾きます。そう、サミーは楽器もできるのです。なんてマルチな才能!
様々なことができるとはいえ、サミーの魅力はやっぱり歌。ミュージカル・ナンバーやスタンダード・ナンバー、ロックン・ロールやソウルなど、おおよそのポピュラー音楽を歌いこなし、ライヴで披露します。エンターテインメント性の高いボーカリストともいえますが、きっちり聴かせる歌ももちろん歌えます。最後は、サミーの歌声をじっくり堪能できるこのレコードをご紹介。
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サミーとギター (LP)
ブラジル人ギタリスト、ローリンド・アルメイダとのデュオでスタンダード・ナンバーを披露するひたすら美しいアルバム。アルメイダのギターはアルペジオで粒だった和音を奏で、単旋律と低音が絡み合い、内声の動きも実に美しい繊細な演奏。それにサミーも呼応して、普段のエンタメっぷりとは違い、詞、そして歌とギターのインタープレイをしっかりと聴かせます。ギターとデュオでスタンダード歌えるってのは実力者の証拠です。
どうですか、サミー・デイビス・ジュニアに興味を持っていただけましたでしょうか。サミーは音楽とステージ以外でも大活躍しています。映画に多数出演していますし(『オーシャンズ11』オリジナル・メンバーです)、黒人初のTVドラマ主演も果たしました。公民権運動にも参加しています。ところが、アメリカ黒人史の中で語られることは少ないのです。それはオイラが思うに、私生活に問題があるのでは。サミーの自伝『ミスター・ワンダフル』に書かれた乱れ切った生活、金遣いの荒さ。幼き頃から芸人として生き、軍隊生活で酷い人種差別を受け、そんな中スターとして生きて行くには必要な振る舞いだったのかも知れませんが、好印象を持たれることはまずないでしょう(後年、反省していますが)。
とはいえ、人間性と芸は別物。サミーがどんなにひどいことをしたって、彼のパフォーマンスが超一流であることに変わりはありません。少しでも興味がでてきたなら、華やかなサミーのステージを、レコードで楽しんでみてください。
(つづく)
- Profile
- 1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店勤務を経て、現在はディスクユニオンにて勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。
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