ギターとカヴァーの美味しい関係。ギターにピントを合わせれば、あの曲もこの曲も味わいがガラリと変わる。ギタリストのワダマコトがカリプソ愛を香辛料にして熱く調理します。
ワダマコト
Ep.32 / 10 Jun. 2024
時流のリズムを拝借したり、便乗したり、カリプソは軽妙に進化してゆくというお話のつづき。
トリニダードから英国に渡ったロード・キチナーが、ロンドンで目の当たりにした最先端のジャズ、ビ・バップを歌った「Calypso Be Bop」。キチナーとヤング・タイガー、そしてジャマイカから米国に渡ったロード・フリーのも。これらは、同名異曲のようで題材は同じ。ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィスら、ビ・バップの重要人物の名を歌詞盛り込んで讃える。そしてバップ・スキャットを交えて歌うのも同じだ。
ビ・バップも、カリプソも、そしてアフリカン・ビートも…。新しい音楽が一挙に押し寄せてきた当時のロンドンを思い浮かべて欲しい。そして、そこで様々な組み合わせのミクスチャ音楽が生まれていったのである。
ロックンロールの台頭も記しておくロード・キチナー。ぬかりがない。ジャンプ・ブルース・スタイルのブギウギとカリプソの融合がなんとも愉快である。
ロード・メロディもまたロックンロール讃歌を残している。サビの部分で引用される「Brother Beware」という一節は、チャック・ベリーも憧れたジャイヴの王様、ルイ・ジョーダンの名曲から。
そんなロード・メロディのヒットへのアンサーソングがマイティ・スパロウの「No More Rocking and Rolling」。ライバル関係にあるカリプソニアン同士のこういった、ヒップホップで言うところのビーフ合戦みたいなものもカリプソの伝統のひとつ。〈BREAKING DOWN〉よろしく、煽り合いが結果、互いを高めるのだ。
そのスパロウは、60年代半ばのブーガルーの流行にも着目。ニューヨークで出会ったミシシッピ出身のビッグ・ファット・ママからブーガルー・ダンスを教わるというドラマ仕立ての歌詞がいかにもスパロウらしい。
そんなこんな。要するに何でもアリなのである。カリプソは常に話題を求めている。そして便乗する。リズムやアレンジは節操がないようで、歌い回しやユーモラスな歌詞にはトリニダードの伝統が込められていて、それは間違いなくカリプソなのだ。つくづくユニークな音楽だと思う。
(つづく)
- Profile
- カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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Our Covers #043 ワダマコト