魅惑のオンラインショップ《パライソレコード》がお贈りする、カヴァーソング桃源の世界。
野田晋平(パライソレコード)
Ep.50 / 18 Oct. 2024
先日惜しくも他界した、ブラジル最高の音楽家セルジオ・メンデス。「マシュ・ケ・ナダ」の大ヒットにより、世界中にブラジル音楽の魅力を拡散するとともに、ビートルズなどに匹敵するほど、世界中に数々のカヴァー曲を生み出すことになります。今回はそんなセルジオ・メンデス(セルメン)を追悼し、セルメン自身や様々なアーティストによるカヴァー、そしてその関係者や、セルジオ・メンデスの音楽的フォーマットに影響を受けた楽曲まで、まさにセルメンづくしなカヴァー特集です!
ブラジル・リオデジャネイロで生まれた、セルジオ・メンデスは幼少の頃からリオ市内の音楽学校でクラシックピアノを学ぶなど、恵まれた環境で音楽の基礎を身に着けますが、クラシックの道には進まず、ジャズやアントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトの影響を受けボサノヴァに移行していくことになります。そんなセルメンがブラジル’66を率い、アメリカを席巻する以前の1964年に本国ブラジルでリリースされたアルバムより、アントニオ・カルロス・ジョビン作「イパネマの娘」を。のちのポップス路線とは異なる、王道のボッサジャズ。エレガントなピアノのタッチがたまりませんね。
Mas Que Nada
そんなセルジオ・メンデスの名を一躍世界的に有名にしたのがジョルジ・ベン「マシュ・ケ・ナダ」のカヴァー。アメリカ進出を果たし、ブラジル’66名義によりリリースした1966年のアルバム『Herb Alpert Presents Sergio Mendes & Brasil ’66』からもシングルカットされたこの曲は、男女混声ヴォーカルを交えたポップなアレンジで、鉄壁のフォーマットを確立。セルメンクローンと呼ばれるブラジル’66マナーなグループや楽曲を世界中に数を多く生み出すことになります。
マシュ・ケ・ナダ
そんな「マシュ・ケ・ナダ」ブームはここ日本にも! 双子デュオ、ザ・ピーナッツはその至宝の歌声で、見事な「マシュ・ケ・ナダ」を披露してくれます。和ボッサジャズな洗練のアレンジも素敵すぎる! 1970年のアルバム『フィーリン・グッド! ピーナッツの新しい世界』の2009年CD化作のボーナストラックなどで聴くことができますが、オリジナルはおそらく同時期? のカセットテープ音源のようです。
マシュ・ケ・ナダ (Mas Que Nada)
「マシュ・ケ・ナダ」ブームがとんでもない珍味盤を生み出した!? あの「イパネマの娘」の名唱で知られるブラジルの歌姫アストラッド・ジルベルトが日本に残した1970年のアルバム『ジルベルト・ゴールデン・ジャパニーズ・アルバム』より「マシュ・ケ・ナダ」をカタコト日本語で歌ったというレアな音源。あの魅惑ヴォイスで日本語、そして和ボッサアレンジ。たまりませんな!
Love So Fine
セルジオ・メンデス&ブラジル’66を脱退したホセ・スアレスとジャニス・ハンセンを中心に結成された4人組男女混成コーラスグループ、ザ・カーニバル。セルジオ・メンデスの影響下にありながらプロデュースを担ったのがフィフス・ディメンションで知られるボーンズ・ハウということでまさに2大ハーモニーグループのおいしいとこどりなサウンド。そんな彼らの1969年のアルバムから、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのソフトロック名曲「Love So Fine」のカヴァー。この開放感!
Roda
セルジオ・メンデス&ブラジル’66の大ヒットにより通称〈セルメンクローン〉と呼ばれるセルメンマナーなグループが世界中に、まさにクローンのごとく生まれることになりますが、こちらは北欧支部代表、スウェーデンの男女混声グループ、ギミックスによるセルメンやエリス・レジーナはじめ、色々なアーティストがカヴァーした名曲「Roda」を。セルメン越えを果たした!? 北欧スタイリッシュの極みのようなナイスヴァージョン!
Hello It’s Me
セルジオ・メンデス&ブラジル’66のヴォーカリストであるラニ・ホールが1974年のソロアルバムで歌った、タイトル曲でもあるトッド・ラングレン「Hello It’s Me」のカヴァー。溌剌としたブラジル’66とはまた違った、しっとりとしたヴォーカル。プロデュースはセルジオ・メンデスを世に送り出し、ラニ・ホールの夫ともなった巨匠ハーブ・アルパート!
Mas Que Nada
群馬県のブラジル人コミュニティから結成された5人組ブラジリアン・ガールズ・ユニット、リンダ3世。群雄割拠のアイドルシーンにおいて、バイレファンキ的な隙間サウンドで存在感を確立した彼女たちの2014年のファーストアルバムから「マシュ・ケ・ナダ」を。孫世代によるエレクトロサンバなフューチャーサウンドによるグッドリサイクラー!
Mas Que Nada
最後は御大セルジオ・メンデスがまさに当時飛ぶ鳥を落とす勢いであったヒップホップグループ、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムをプロデュースに迎えリリースした2006年のアルバム『Timeless』から、やはり「マシュ・ケ・ナダ」をブラック・アイド・ピーズをフィーチャリングし、ヒップホップとの融合を見事に果たした鬼クラシック。そのヒットから半世紀近く経っても、そのヴィヴィッドさを失わないことを見事に証明してくれます!
(つづく)
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Our Covers #020 野田晋平