
演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。
伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.55 / 22 Jul. 2025
昭和のメカがかっこいい。リサイクル・ショップでレコードを物色している最中も、ついつい昭和家電に目移りしてします。最新家電のスマートさとはまた違う、個性あふれる顔立ちの数々。中でも音楽好きとしては、やっぱり昭和のオーディオ機器に惹かれます。家具調のラジオやスピーカー、ボタンのたくさんついたラジカセ。どんな音が鳴るのかなと、胸がときめくのです。
先日、ひときわ強烈な存在感を放つマシーンを見つけました。シルバーボディの四角い体、ボタンがいっぱい、ツマミもいっぱい。ダブル・カセットに加えてカートリッジの挿入口…、そう、これは、8トラック・テープのカラオケデッキなのです。子どもの頃、家族旅行で泊まったちょいとオールドな旅館の一角に、こんな機械が鎮座していたなあと、ノスタルジーな気分に。あのとき歌った「雪国」が、思えば人生初カラオケだったな。
ちょうど今年のあたまの無職期間に、カラオケの歴史を綴った本を読んだばかり。ならば今回は、カラオケをテーマにレコードを紹介していきます。
カラオケとは、「空(カラ)」の「オーケストラ」の略語。歌手がラジオ番組に出演する際、歌入りのマスター音源とは別の、演奏だけのテープがそのルーツだと言われています。誰もが好きな曲を歌える現在のスタイルに至るまでには、いくつかの前段階がありました。
まずは、酒宴文化。昔から日本人は、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎが大好き。かつてこのコラム(Ep.16)でも紹介した「宴会レコード」は、いわばオッサン団体が盛り上がるためのBGM。今も少しずつコレクションを増やしているので、またいずれ成果をご報告します。
みんなで歌う、という点では「歌声喫茶」も忘れちゃいけません。喫茶店に人々が集い、労働歌やフォークソングを斉唱。1950~70年代に流行した、健全でまじめな音楽活動です。どんな曲を歌っていたのかは、雰囲気はレコードからも味わえます。

このレコードはカラオケ仕様。一緒に歌って楽しめます。歌声喫茶は、現在も営業を続ける名店もありますので、健康で健全に音楽を楽しみたい方は、ぜひ利用してみてください。
もう少し「夜」の香りが漂うルーツもあります。それが「流し」です。ギター片手に店を渡り歩く、あの流し。彼らはただ自分で歌うだけでなく、客の伴奏もしていました。一流の流しは、お客の声に合わせてキーを変え、調子に合わせてリズムをずらし、気持ちよく歌わせます。今のカラオケ機の持つ機能を人力で対応していたのです。そんな流したちの全国大会を収めたレコードがこちら。昭和のネオンが目に浮かぶ歌声です。

全国流し演歌大全集 第一集 ナレーター 芥川隆行 (LP)
「歌のない歌謡曲」も、カラオケの前身として重要です。民放開始の年、1951年から放送が続く長寿番組で、インストゥルメンタル・アレンジされた歌謡曲が放送されます。こうしたインスト歌謡のレコードは、高度経済成長期に大量生産されました。楽器編成やアレンジに凝ったものも多く、掘り出しがいのあるジャンルです。中でもお気に入りはこちら。

アントニオ・コガ ギター・ムード 第4集 村田英雄集 (LP)
ナイロン弦ギターに爽やかな演奏ですが、曲の力強さがしっかりと見て取れるアレンジ。村田英雄の魅力は、楽曲の良さもあってこそということに思いが至る一枚です。
そんな背景に加え、機械の進化がカラオケ文化を加速させます。8トラのカラオケ機器、レーザーカラオケの普及、そしてレコードでの「カラオケ・トラック」発売。自宅での練習が可能になり、サラリーマンたちはスナックで披露する社交スキルとしてカラオケを磨いていきました。もし自分がその時代にバリバリ働いていたら、きっとこういうのを買って練習したでしょうね。

決定盤・カラオケ・レコード あなたもスター歌手 村田英雄ベスト・ヒット (LP)

カラオケ・リクエスト・シリーズ あなたの花のステージ 村田英雄ヒット曲集 (LP)

カラオケ・スター・シリーズ 村田英雄ベスト・ヒット (LP)

村田英雄 カラオケ・ベスト (LP)
村田英雄ばっかりじゃねぇか。まずいまずい。三波春夫と二葉百合子で均衡を保とう。

カラオケ・シリーズ あなたが歌う三波春夫ヒット曲集 (LP)

語って歌える 二葉百合子カラオケ集 (LP)
調子に乗って、前口上まで自分でつけていたかもしれません。たとえば、こんな司会付きの一枚を参考にしながら。

司会付カラオケ・シリーズ 二葉百合子ヒット曲集 司会・宮尾たか志 (LP)
そんな接待カラオケも、いまや昔。1980年代後半にはカラオケボックスが普及し、1990年代には通信カラオケが定着。カラオケは、オッサンたちの酒場芸から、友人同士で楽しむレジャーへと姿を変えました。世代は一気に若返り、盛り上がる曲、歌いやすい曲が求められるように。平成J-POP全盛時代の幕開けです。その一方で、私の好きな演歌や昭和歌謡は、静かにフェードアウト。
いま、大手リサイクル・ショップの片隅には、役目を終えたカラオケ機器やカラオケ・ソフトがひっそりと眠っています。もう一度、日の目を見る日は、たぶん、来ない。それでも、どうにか活かす方法を見つけて、もう一花、咲かせてあげたいな。
(つづく)
- Profile
- 1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店員、レコード屋の店員、無職を経て、現在は雑誌編集職。経歴だけはまるで昭和の文化人。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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