
演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。
伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.54 / 20 Jun. 2025
長らく続いた無職期間を終え、とある雑誌の編集部で働けることとなりました。ひとまずアルバイトからスタートですが、浪人状態からは脱出です。
無職という悠久の時間の中で、さまざまなことがありました。その中の一つが、『ロッキー』シリーズの完走です。シルベスター・スタローン主演、ボクシング映画の金字塔を、全て鑑賞しました。
かつて一作目を観たときはあまり印象に残りませんでしたが、改めて観てみると、ハマりました。なかなか希望の仕事に就けない今の自分と、イタリア系移民で不遇のロッキーとが重なって、「ロッキー、がんばれ!」と心の底から共感していました。彼の浮き沈みにのめり込んでしまいました。1~5作目、ファイナル、スピンオフの『クリード』シリーズと、全9作品を駆け抜けました。観続けていると、自然とスタローンが大好きになります。いまは『ランボー』シリーズを観始めました。
スタローンで、個人的に思い入れが深いのが1987年に公開された映画『オーバー・ザ・トップ』。スタローン演じるトラック運転手が、幼い頃に別れた息子との関係性を深めながらアームレスリングの世界大会に挑む。あらすじだけ読むと大したストーリーじゃないって感じるかも知れませんが(実際そうですが、シンプルで好き)、中高生の頃に腕相撲マイ・ブームがありまして、この映画をよく観ていたんですね。あれから四半世紀たって、またスタローンにハマってしまうとは。これも何かの縁、ということで、今回は腕相撲 / アームレスリングに関するレコードをご紹介します。
まずは『オーバー・ザ・トップ』のサントラ盤です。

ナイスな80’s洋楽が満載のLP。オープニングにながれるケニー・ロギンスのナンバーと、サミー・ヘイガーの歌う映画タイトルが邦題につけられた「Winner takes it all」はシングル・カットもされています。

心の夜明け ケニー・ロギンス (7インチ)

オーバー・ザ・トップ サミー・ヘイガー with エディ・ヴァン・ヘイレン (7インチ)
サミー・ヘイガーのこの曲は、映画にも出演したプロレスラー、スコット・ノートンの入場曲としても知られています。シングルB面に収録のジョルジオ・モロダー「ザ・ファイト」は、ノートンを日本に招聘したプロレスラー、マサ斉藤の入場曲にも使われています。
スコット・ノートンは、アームレスリングの世界大会や全米選手権を制した怪力レスラー。1990~2000年代に日米を股にかけて活躍しました。丁度同じころ、アームレスリング世界チャンピオンの肩書を引っ提げて格闘技界で活躍したのが、ゲーリー・グッドリッジです。決して器用な選手ではなかったですが、闘志とパワーみなぎるファイトで観客を魅了しました。彼はクイーンの「We Will Rock You」を入場曲に使っており、足踏みと拍手で会場が一体に。わかりやすいファイト・スタイルからか、格闘技ファンに愛されたファイターでした。

世界に捧ぐ クイーン (LP)
まさにこの頃はプロレスと格闘技が大人気。nWo、T2000、K-1、PRIDE。そして時を同じく、腕相撲がマイブーム。根性なしなもんで、格闘技をやってみたくても人の顔は殴れない。そんな自分でもこれならできるかもと、腕相撲に興味津々だったのです(結局、根性なしなので長続きしませんでしたが)。この頃、ベースボールマガジン社から刊行されていた『これがアームレスリングだ!!』という本を、繰り返し読んでいました。とくにアームレスリングの歴史の項は面白く、その中で、ヘミングウェイの『老人と海』に腕相撲の描写があると紹介されており、早速買って読みました。三日間続く老いた漁師と巨大カジキの格闘にたぎります。カジキとの格闘の最中、夜通し続いた腕相撲の試合を回想。老漁師は、かつて腕相撲のチャンピオンでした。
この作品は1958年に映画化。往年の名作曲家、ディミトリー・ティオムキンによるオーケストラ・スコアは、オールド・タイム・グレイト・アメリカン・サウンド。ハリウッド映画の黄金時代を感じさせる豊かな響きです。

THE OLD MAN AND THE SEA SPENCER (LP)
映画と腕相撲といえば、印象に残っているのが『プレデター』です。シュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガー演じるダッチが、カール・ウィザース(『ロッキー』シリーズのアポロ役)演じるディロンと再会、“You son of a bitch.”と言って握手、からの、エア腕相撲。子どもの頃、日曜洋画劇場で観て痺れました。欧米人はなんて腕が太いんだ。
しかし、腕相撲マッチョだけのものだけではありません。ヤセ型の腕相撲シーンも存在します。最後に紹介するのは、そんな映画のサントラ盤です。

ザ・フライ (LP)
異能の科学者が実験のミスにより、ハエと遺伝子レベルで融合。徐々に身体がハエ化していくという1986年の作品。1958年公開『ハエ男の恐怖』のリメイク版です。主人公の科学者を演じるジェフ・ゴールドプラムは、身長は高いもののヤセ型です。そんな彼が、ハエと融合することによって、身体に変調をきたしてきます。その一つが怪力。酒場で屈強で腕白なあんちゃんと腕相撲をすると、あんちゃんの腕がポキッ。皮膚が破れ、腕の中身が露出します。そんな怪奇グロテスク・シーンを見事に煽るのがこの曲。人間の不安な心理につけ入るかのような絶妙なストリングスの響きです。
思い返せば、もう何年も、本気で腕相撲なんてしていないな。今年で四十。中年に差し掛かりました。本気で腕相撲なんてしたら、それこそ腕がポキッ。無職でなまった体、まずは定年まで勤めあげられるよう、少しずつ鍛え直していきます。そうしなきゃ、週5で働けない…。
(つづく)
- Profile
- 1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店やディスクユニオンでの勤務を経て現在無職の素浪人。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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