レコード盤★盤<br>”新春レコード放談”
feature #220

レコード盤★盤
”新春レコード放談”

演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.60 / 21 Jan. 2026

←Ep.59

久米宏が、今年の1月1日に亡くなった。ニュースでそれを知ったとき、しばらくお見掛けしていなかったとはいえ、少なからずショックを受けた。テレビ番組での追悼特集を見ながら、彼がわかりやすい言葉を選び続けてきたこと、常に権力と距離を取り続けていたことを、改めて思い出した。そして同時に、インターネットに溢れる荒い言葉やわかりやすさだけを求める空気、体制に寄った投稿の数々が頭をよぎり、久米宏という存在を失った喪失感は、さらに大きなものになっていった。

1985年生まれの自分にとって、久米宏といえば『ニュースステーション』の人である。TBSのアナウンサーだったことや、『ザ・ベストテン』の司会者を務めていたことは、後から知った。

その久米宏が、かつてラジオの世界で活躍していた頃の声は、レコードに残されている。

Album Title

D・J 海賊放送局 THE RADIO in ’75 (LP)

P1005 SEIKO
Track
※TBSへの出社模様を実況
Album Title

TBSパック・イン・ミュージック 嗚呼!ミドリブタパロディCM大集合 (LP)

L10114W ワーナー・パイオニア
Track
※パロディCMを収録

民放のニュース番組は、パネルや模型を使ったりするのが当たり前だ。NHKや新聞と比べると、はるかにわかりやすい。淡々と事実を伝えるだけでなく、硬軟織り交ぜた番組構成は見ていて面白く、ときにゲストを招いたトークコーナーや音楽演奏で視聴者を楽しませた。こうしたスタイルを『ニュースステーション』で打ち立てたのが、久米宏だった。今ではすっかり当たり前の光景になっている。

そんな番組づくりの元になったのが、アメリカのレイト・ショーだと言われている。平日夜間の帯番組で、司会者と多彩なゲストが織りなし、エンターテインメント性と教養の高さを両立させている。

なかでも有名なのが『トゥナイト・ショー』だ。ジョニー・カーソンは30年にわたり司会を務め、アメリカの夜の顔として親しまれてきた。その番組の模様は、レコードとしてもリリースされている。

Album Title

HERE’S JOHNNY Magic Moments from the TONIGHT SHOW (2LP)

SPNB1296 CASABLANCA RECORDS

ベット・ミドラー、ビリー・ホリディ、ジュディ・ガーランド、レニー・ブルース、ディーン・マーティン、サミー・デイビス・ジュニアといった、錚々たる面々が出演。それだけこの番組が、アメリカ文化の中枢にあった証でもある。

米NBCでは、平日夜に『トゥナイト・ショー』、そして土曜日の夜は『サタデイ・ナイト・ライブ』。1975年に放送を開始し、現在も続く人気のバラエティ番組だ。この番組もレイト・ショーと並び、アメリカのテレビ文化を語るうえで欠かせない存在である。現代でも若手コメディアンの登竜門とされ、かつてはブルース・ブラザーズのダン・エイクロイドやジョン・ベルーシも出演していた。

番組開始当初の模様は、こちらのレコードに収められている。

Album Title

NBC’s Saturday Night Live (LP)

AL4107 ARISTA

当初、出演しているコメディアンの多くは、シカゴの即興コメディ劇団「セカンド・シティ」のメンバーが中心だった。

Album Title

COMEDY FROM THE SECOND CITY (LP)

OCM2201 MERCURY

セカンド・シティは、シカゴに本拠地を置く劇団で、アメリカにおける即興コメディの本場とも言える存在である。名前の由来は「二番手の都市」。ニューヨークと比べられるシカゴを皮肉った呼び名である。その名から連想される通り、社会や政治を題材にした風刺コメディを育んできた。

出身者には、前述のブルース・ブラザーズの二人のほか、ビル・マーレイ、デーブ・スペクター、マシ・オカなどがいる。多彩な才能を世に送り出してきた劇団だ。

『サタデイ・ナイト・ライブ』の構成は、前半にコント、後半には音楽ゲストを招いたライブというのが定番。バックバンドは今も昔も一流のセッションマンが務めており、かつてはバックバンドのレコードが発売されたこともある。

Album Title

サタデイ・ナイト・ライヴ・バンド (LP)

K28P6258 キングレコード

『トゥナイト・ショー』でも『サタデイ・ナイト・ライブ』でも、共通しているのが風刺だ。アメリカのお笑いの多くは、風刺、パロディ、時事ネタ。これを笑えることが、一つの教養でもある。コメディ・ライブでは、政治家を茶化し、時に行き過ぎたネタにブーイングをし、舞台が終われば笑い合う。言論の自由、自由の国アメリカを象徴する、素敵な光景に思えた。

ところが近年、そのアメリカでもテレビの言論空間は揺れている。人気トーク番組『ジミー・キンメル・ライブ』をめぐっては、チャーリー・カーク銃撃事件に関する発言を理由に当局より圧力がかかり、放送休止となった(現在は局を減らして放送中)。コメディアンたちは、鋭い風刺がゆえに、時折「炎上」し、物議を醸している。たとえパロディであっても、もう笑って許してはもらえない。

日本でも、政権によるメディアへの介入が取り沙汰されることがある。世界報道自由度ランキングの2025年版では、日本は180か国中66位。G7のなかでは最下位。公正中立を建前に、無難で大勢に寄った発言や番組内容が目立つようになった。言いたいことが言えないテレビは、オールドメディアになってしまったのだろうか。

一方、インターネットには、自由な言論空間がある。誰もが好きなことを発信でき、権力を批判することもできる。だが、そこに溢れる情報は真偽不明なものも多く、ファクトチェックも追いつかない。過激な言葉ほど拡散され、わざと対立を煽るような投稿も少なくない。

言いたいことが言えないテレビ。

言いたいことが言えるインターネット。

けれど、それは本当に「言っていい言葉」なのだろうか。

(つづく)

Profile
1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店員、レコード屋の店員、無職を経て、現在は雑誌編集職。経歴だけはまるで昭和の文化人。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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