
演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。
伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.57 / 22 Sep. 2025
先日、古本屋で“まさか”の一枚を見つけた。母校・吹奏楽部の定期演奏会のレコードである。私家版の学校レコードがあるのは知っていたが、よりによって出身校とは。生まれる4年前の盤だが、ラベルには懐かしい常任指揮者と副常任指揮者の名前が並んでいる。お二方とも、自分が入部するずっと以前から、長年にわたり指導してくださっていた方々だ。
もちろん、買った。すぐ聴いた。決して上手な演奏ではないけれど、トロンボーンに打ち込んだ高校時代の記憶がむくむくと蘇る。気分はすっかり吹奏楽モードになってしまった。というわけで、今回のテーマは吹奏楽のカバー曲にします。
吹奏楽の演奏会はだいたい二部構成で、第1部はクラシックの編曲モノや吹奏楽オリジナル、第2部は華やかなポピュラー曲、というのが定番。ところがこのポピュラー枠、ときに「なぜこの曲?」と首をかしげる曲があります。今回は、そんな愛すべき曲たちをご紹介していきましょう。
まずは高校一年の定期演奏会で演奏したこの曲。

吹奏楽アレンジの人気シリーズ第10弾に収録されたこの曲、元はこちら。

グリズリー グリズリーのテーマ/男の冒険 (7インチ)
ジャケットを見てわかる通り、熊です。1976年公開のモンスター・パニック映画『グリズリー』のテーマ曲。『ジョーズ』を海から山へ、鮫から熊へ。という言葉だけで内容を表現できる、いわゆるB級映画なのだが、曲は実にいい。往年のハリウッド映画を思わせる壮大さ。内容とは似ても似つかないほどゴージャスだ。そのゴージャス感をちゃんと残し、金管セクションの勢いはそのまま、ストリングスの流麗なメロディを木管に置き換えた吹奏楽アレンジもよく出来ている。とはいえ、高校一年当時、この映画のDVDは流通しておらず、『グリズリー』を観たことがある部員は皆無。先輩たちはなぜこの曲を選んだのか。そもそも、なぜB級映画の主題曲が吹奏楽化されたのか。疑問は多く残るが、また演奏したいな。
吹奏楽と言えば、警察音楽隊も一般市民になじみ深いものの一つ。各都道府県の音楽隊が、定期的に各地で演奏会を開いています。次は、そんな警察音楽隊の演奏を収めたレコードからこちら。

第30回全国警察音楽隊演奏会 (LP)
小柳ルミ子のヒット曲を吹奏楽アレンジで、しかも歌入り。歌うのは、おそらく女性隊員(推定)。会場の熱気のせいか、テンポはやや速めで始まり、その後も走り気味。Bメロまでは順調にきていた歌は、緊張していたのかCメロからヘロヘロに…。なかなか生々しいライヴ盤です。
お次は吹奏楽の仲間、マーチング・バンド・アレンジで、郷ひろみのヒット曲を。

ヒット・ヒット・マーチ (LP)
マーチのテンポは平均してBPM120前後ですが、このアレンジは〈駆け足用〉ということでBPM168。文字通り駆け足の演奏となっています。一瞬、レコードの回転数を間違えたかと思う。しかも、マーチング・バンドだというのに、シンセサイザーやエレキ・ギターが前面に出る大胆アレンジ。ギターとショルダー・キーボードを担いで駆け足なんて、いかにも80年代っぽい光景ですね。
次は、正統派マーチング・バンドのポップス・アレンジを堪能できる一枚。

ダイナミック・マーチ・パレード サウスポー / 微笑がえし (LP)
A面はピンク・レディー、B面はキャンディーズのヒット・ナンバーをそれぞれ7曲ずつ収録。ジャケットはピンク・レディーが写真で二連発、キャンディーズはシルエットのみ。別レーベルゆえの大人の事情も感じます。エレキ控えめのブラス編成が奏でるスーザフォンの4分刻みと、マーチング・スネアの粒立ち。聴き慣れたメロディで、ブラス・バンドの楽しさを再認識させてくれる一枚です。
最後は、高校野球応援の定番曲を。

ニュー・サウンズ・イン・ブラス 第5集 (LP)
1977年に吹奏楽アレンジが発売されたこの曲、元は「ハッスル」でお馴染みのヴァン・マッコイの楽曲。

ラブ・イズ・ジ・アンサー (LP)
「ハッスル」同様のインスト・ソウルで、「シンフォニー」の名にふさわしくブラスとストリングスがうねりを上げる壮大な楽曲です。そんなディスコ由来の一曲が日本で広く定着する決定打となったのは、1987年のこと。智辯和歌山高校の甲子園初出場時に応援歌として採用され、同校が常連化するにつれて全国に広がり、いまや野球応援の定番へ。オイラもね、毎年この曲を吹いて応援しましたよ。府中市民球場、八王子市民球場、市営立川球場。毎年予選止まりだったけれど、いい思い出。もっと吹きたかったな。
吹奏楽を通じて、知らない音楽にいくつも出会えた。今月は母校の定期演奏会がある。久しぶりに顔を出してみよう。新しい音楽との出会いがありますように。
(つづく)
- Profile
- 1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店員、レコード屋の店員、無職を経て、現在は雑誌編集職。経歴だけはまるで昭和の文化人。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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