演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。
伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.46 / 26 Sep. 2024
本年2024年は、映画『男はつらいよ』公開から五十五周年のメモリアル・イヤー。関連グッズや、4Kリマスター版のBlu-Rayが発売されるなど、イベントごとが目白押しです。そんな中、先日、『落語とトークと寅次郎リターンズ』というイベントに行ってきました。
前半は、『男はつらいよ』にまつわる浪曲と落語、後半はトーク。登壇者は山田洋次、倍賞千恵子、秋本治という超豪華布陣。楽しかったぁ。この模様は後日BSチャンネルで放送予定とのことなので、要チェックです。
そんなこんなで、あの日からずっと寅さん気分。日々のレコード鑑賞タイムも、毎日のように寅さんを聴いています。え、寅さんのレコードっていったって、あの主題歌以外にあるのかい? バカぁ言っちゃいけねぇ。『男はつらいよ』のレコードってのは、結構あるもんで。結構結構猫灰だらけ。今回は手前がよぉく聴いております、『男はつらいよ』のレコードをご紹介いたします。
まずはこちら。やっぱりこいつを聴かなきゃ始まりません。映画『男はつらいよ』オープニング曲。
この曲を聴くと、この後始まるであろう、寅さんの巻き起こす大騒動、もとい、大活躍が目に浮かんでくるじゃありませんか。もっと続きが、そう思ったら次はこいつ。
男はつらいよ 御存知名場面集 (LP)
A面にはシリーズ第一作、B面にはシリーズ第六作『純情篇』のダイジェストが収録されています。九〇分近くある映画まるまる一本をレコード片面に収めちまうんだから、大したもんだよ蛙の小便、見上げたもんだよ屋根やのふんどし。
ところで、B面の『純情篇』、映画本編と違ってこのレコードには歌が挿入されてるんだ。それが、妹さくら役の倍賞千恵子の歌う『さくらのバラード』。これがいい曲なんだ。日本のどこかを旅する兄への思いが、哀愁漂うメロディーにのせて歌われて切なくなるぜ、チキショー。
このダイジェスト企画が好評だったのか、その後もレコードが作られます。その名も、『サウンド寅ック盤』。いかした名前じゃねぇか。
男はつらいよ 寅さん名場面集 (2LP)
このレコードは二枚組、片面に一作ずつ四作品が収録。順に第二作『続・男はつらいよ』、第五作『望郷篇』、第七作『奮闘篇』、第十作『寅次郎夢枕』、どうでぃ、寅さんとマドンナたちとの恋模様が目に浮かんでくるだろ。
しかし、レコード片面に一作品収録ってのは、ちょいと端折り過ぎやしませんか。きっと誰かがそう気づいたんだろうな。『サウンド寅ック盤』シリーズ、第二集と第三集は、両面使って一作収録と、ちょいと時間が延びております。
男はつらいよ 寅さん名場面集 第二集 (2LP)
男はつらいよ 寅さん名場面集 第三集 サウンド寅ック盤 (2LP)
映画本編なんてわざわざレコードで聴いてなんてないで、DVDやBlu-Rayで観ればいいじゃないかって? おいちゃん、それを言っちゃあおしめぇよ。いいかい、昭和のこの時代には配信はおろかVHSだってなかったんだ。公開時期を過ぎた映画を、また観たいなぁと思ったって、どこぞの小せぇ映画館でやる再上映や、テレビでやっつくれんのを気長に待つしかなかったんだ。そんな時に、たとえ音の中だけでも大好きな寅さんに逢える、それだけで十分にありがてぇじゃねぇか。ああ、昔はこんな時代があったんだなぁと思いながら、レコードを聴いてもらいてぇな。
寅さんの職業といえば、路上やお祭りでものを売るテキ屋稼業。立て板に水の如く、すらすらと口から出る売り口上が劇中でもおなじみ。そんな啖呵売を収録したレコードがこちら。
渥美清の啖呵売 (7インチ)
ジャケット裏面の歌詞カードには、口上の速記がしっかり載ってるんで、ぜひ覚えて、寅さんと一緒に売【バイ】をしよう!
寅さん演じる渥美清は、浅草軽演劇出身の名俳優。『男はつらいよ』シリーズ以外にも数々の映画やドラマで主演し、主題歌も歌っています。なので渥美清のレコードってのはたくさんあるんだけど、中でも寅さんが全面に打ち出されたジャケットを見ると、嬉しくなっちゃうね。
男はつらいよ フーテンの寅と発します! 渥美清 (LP)
男はつらいよ 渥美清ヒットアルバム (LP)
男はつらいよ 渥美清 (7インチ)
まだまだ寅さん推しの渥美清レコードはあるかしら。見知らぬ寅さんジャケを求めて、レコード屋さんの「あ行」は要チェック。
オムニバス盤に寅さんが客演してる、なんてレコードもあるもんで。
任侠演歌ベスト20 (LP)
豪華スター夢の競演 (LP)
まだ見ぬ客演寅さんジャケはあるかしら。見知らぬ寅さんジャケを求め、レコード屋さんの「V.A.」コーナーは要チェック。
季節はもう秋になりましたが、まだまだ暑さは残ります。まだまだ音頭を聴いてもいいんじゃないでしょうか。『寅さん音頭』は二種、レコードがでているようです。
寅さん音頭 渥美清 (7インチ)
寅さん音頭 若原一郎 (7インチ)
音頭のリズムに寅さん載せて、お祭り気分を楽しみましょう。
さて、最後にご紹介しますレコードはこちら。
TORA-SAN, Our Lovable Tramp (10インチ)
2022年に受注販売されましたレコード・プレイヤーの付属レコード。おなじみのテーマ曲の他、『男はつらいよ』の音楽を担当した山本直純の劇伴が収録されています。
なによりこのレコード・プレイヤー、スピーカー内蔵タイプのトランク型なのですが、寅さんのトランクの色形になっているという優れもの。もちろん、買いましたよ。このトランクを片手に日本全国旅をして、各土地々々のレコード屋さんにお世話になって、いろいろ音楽を聴いて回りたいもんです。
やっぱり『男はつらいよ』シリーズは面白い。毎日聴いても飽きない。俳優・渥美清はもう亡くなってしまったけど、映画の中の寅さんは旅に出たまんま。シリーズ本編では、おいちゃん、おばちゃん、タコ社長、御前様はもう亡くなってしまったけど、さくらと博、満男は元気にやってるよ。寅さん、そろそろ旅を止めて柴又に帰ってきてよ。また寅さんに逢いたいな。
(つづく)
- Profile
- 1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店勤務を経て、現在はディスクユニオンにて勤務。出身地の影響からか、ドリフで笑いに目覚める。月数回の寄席通いとレコード購入が休日の楽しみ。演芸レコードの魅力を伝えるべく、2019年12月に『落語レコードの世界 ジャケットで楽しむ寄席演芸』(DU BOOKS)を刊行。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
Our Covers #029 伊藤一樹