
演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。
伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.62 / 20 Mar. 2026
もう三十年近く通っている床屋さんがあるのですが、先日の散髪の際、ラジオをいただきました。オイラがレコードや音楽に関わる仕事をしていると知ってか知らずか、
「あんた、これ使う? まだ聴けるよ」
と手渡されたラジオは、いかにも昭和レトロを感じさせる外観。ナショナル「RE-780」。1970年前後に発売されたと思われる、モノラル・ラジオです。たまにつけては楽しんでいます。
ナショナルといえば思い出すのが、
〽明るいナショナル 明るいナショナル
の歌詞で知られるCMソング。歌詞を変え、アレンジを変え、1950年代から2000年代までラジオやテレビで流れていました。作曲は三木鶏郎。日本CMソングの父ともいうべき作曲家です。
そんなトリローが手掛けたラジオ番組『日曜娯楽版』の人気コーナー、「冗談音楽」にあやかりまして、今回は、「冗談音楽」のレコードを紹介していきましょう。
まずはこちら。

戦後日本の放送文化を支えた巨人、三木鶏郎。彼の足跡を辿るボックスセットです。
民放が生まれた際、初めて流れたコマーシャルソングは、トリロー作詞作曲の「僕はアマチュアカメラマン」。コニカのCMソングです。他にも、トリローには、名CMソングの数々があります。「明るいナショナル」、「仁丹の歌」、「キリン・レモン」など、数々の曲が今でも使われ続けています。本作には、そんなCMソングの数々が収録されていることはもとより、今回のコラムのテーマとしている、「冗談音楽」も収録。
2言3言のセリフのやり取りで風刺を効かせたコントの後、ジングル的な音楽を挟む。後のショートネタにも通ずるようなこのスタイルが、人気を博しました。巧みなコーラスワークで聴かせるコミック・ソングも素晴らしく、今聴いても、そのクオリティの高さには感心させられます。リアルタイムで聴いていたら、どれほど先鋭的で面白かっただろうか。
そんな冗談音楽は、三木鶏郎の専売特許というわけではありません。音楽で人を楽しませようとする気持ちは、万国共通。米国で冗談音楽といえば、やっぱりこの人、スパイク・ジョーンズです。

スパイク・ジョーンズ大傑作大会 (LP)
ディキシー・スタイルのラージ・コンボを率いるバンド・リーダー、スパイク・ジョーンズは、とにかく人を楽しませる演奏をします。「笑い」と「音楽」を融合させたボードビル芸の極致と言っても過言ではありません。
様々な日用品を楽器にして、要所で効果音のように入れる。キメのような場所で、「ぽへ~」と気の抜けたような音がするわけです。この音響センスが抜群。タイミングもばっちし。演奏がうまいから、絶妙なタイミングで外せるんですね。音楽で笑いをとるということは、ヘタクソに演奏することではありません。しっかりと演奏し、聴衆に先を想像させ、それを裏切る。かなり高度な技です。次々とそんな芸当をこなす、楽団の巧さが光ります。
そんな楽団の名前は「シティ・スリッカーズ」。スパイク・ジョーンズに憧れ、まったく同じ名前を自身のバンド名にした人が日本にいます。

スパイク・ジョーンズ・スタイル フランキー堺 (LP)
『幕末太陽傳』や『私は貝になりたい』などで昭和名画ファンにはお馴染みのフランキー堺は、元はジャズ・ドラマー。大学在学中からプロ活動を開始し、卒業後は、進駐軍などを相手に演奏活動。その際に組んだバンドの名前が、「シティ・スリッカーズ」です。スパイク・ジョーンズの模倣を中心として笑いをとりながら、オリジナルな冗談音楽を模索していきます。ここでの笑いの追及は、後のコメディアン / 俳優としての活動にも、存分に活かされているでしょう。スクリーンから滲み出る躍動感に、グルーヴを感じざるを得ません。
フランキー堺が俳優業で人気を博すようになり、バンド活動は数年間で終わってしまいます。しかし、そこから巣立った面々がすごい。後のクレイジー・キャッツとなる谷啓、桜井センリ、植木等、吹奏楽ポップス・アレンジで知られる岩井直溥、後年再評価が広まったジャズ・ミュージシャンの稲垣次郎や福原彰など、錚々たるメンバーです。ちなみに、先のトリロー門下からは、永六輔、野坂昭如、いずみたくなどが巣立っていきます。冗談音楽は、日本音楽界の礎を築いたと言っても、冗談ではなさそうです。
日米の冗談音楽は、主にジャズやミュージカル的な音楽を基調としていました。しかし、クラシック音楽をベースとした冗談音楽もレコードで楽しめます。
イギリス人漫画家、ジェラード・ホフナングが描くクラシックを題材とした音楽漫画を実践した音楽祭の模様がこちら。

これが冗談音楽だ ホフナング音楽祭 (LP)
スパイク・ジョーンズと同様、特殊な効果音で笑いをとったり、歌曲の歌詞を替えてみたり。一聴して笑えるものもあれば、そうでないネタもあり。というのも、クラシックのパロディ・ネタが多いんですね。クラシック音楽の素養がないと、理解できない笑いが結構あります。
しかし、そんな素養がなくても笑える、クラシックの冗談音楽もあります。

音楽の冗談 斎藤晴彦 (LP)
クラシックの名曲に歌詞を付ける、替え歌の派生系です。歌はあくまでバカっぽく、バックのオーケストラの演奏はあくまで本気。これが、やはりミソです。音楽で人を笑わせるには、確かな演奏技術がないと、成立しません。
さらにこんなクラシック音楽もあります。

パロッタ・クラシック 殿さまキングス (LP)
こちらは、クラシックの名曲にド演歌調の歌詞をつけ、さらにド演歌調にアレンジして歌うという、今でいうマッシュアップのような発想です。
歌うは、殿さまキングス。通称・殿キンで知られる、演歌コーラス・グループです。1973年に発売したド演歌ナンバー「なみだの操」のヒットで知られていますが、元々はボーイズ芸をするコミック・バンド。70年代からは歌謡グループに転身していましたが、根っこのどこかに笑いの心が残っていたのでしょう。1983年に、本作が発売されました。よく聴くと、ふざけることなく大真面目に歌っています。だからこそ、面白いんです。
冗談音楽とは、「音楽」と「笑い」の融合です。それだけでなく、「楽器」と「日用品」、「音楽」と「音響」、「クラシック」と「演歌」など、様々な要素の融合です。異なるもの同士を、それぞれへの愛を持って、それ相応の技術を持って掛け合わせる。聴く側には、その新たな組み合わせを楽しむ心の余裕がある。すると、自然に笑いが生まれてきます。
だからこそ、みなさん、多様な価値観を愛して、共に手と手を取り合って、人々が笑い合う世の中を作っていきましょう!
と、なに教祖様みたいなこと言ってんだ。
冗談言っちゃいけねえ。
(つづく)
- Profile
- 1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店員、レコード屋の店員、無職を経て、現在は雑誌編集職。経歴だけはまるで昭和の文化人。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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