演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。

伊藤一樹（演芸＆レコード愛好家）
Ep.52 / 21 Apr. 2025

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今年の3月に入った悲しいニュース、村田英雄記念館の閉館の知らせ。私の中では、オール・タイムNo.1の浪曲師は村田英雄。彼の唸りを聴いて、浪曲が一層好きになった。天下無二の節回し。そしてもちろん、村田英雄は昭和歌謡界の大歌手であり、一時は東映任侠映画で主演を何本も務めた映画スターでもあった。昭和芸能界の超大物であった村田英雄は、惜しくも2002年に亡くなったが、その2年後、郷里である佐賀県唐津市相知町に記念館がオープンする。当初は年間2万人以上が来館する人気ぶりだったが、徐々に来館者は減少し、ついに今年、閉館となってしまった。

いてもたってもいられず、急遽、佐賀へ飛んだ。閉館まで残り数日、最初で最後の村田英雄記念館、その姿を、展示物の隅々までを、しかと目に焼き付けてきました。ありがとう、そして、さようなら、村田英雄記念館。

どんなに活躍した人物でも、時が経てば忘れ去られてしまう。あの素晴らしい節回し、あの力強い歌声、あの名シーンを知らない人が増えていくのはあまりにも悲しい。少しでも長くみんなの記憶に留めるにはどうすればいいか。そうだ、記憶に刷り込んでしまおう。

私はこれから、日本の武道をレポート形式でまとめます。そしてそこに、さりげなく村田英雄を散りばめます。きっとみなさん、このコラムを読み終わったときには、知らず知らずのうちに、村田英雄が頭に残っているはずです。

日本の武道に関するレポート

伊藤一樹

日本で最も古くからある武道は、「相撲」です。日本最古の書物とされる『古事記』にも相撲の描写が登場します。しかし、この頃の相撲は、殴る、蹴る、突くが許される「ヴァーリ・トゥード（なんでもあり）」。相手を踏みつけて骨を折ることもあったという、半ば素手による殺し合いの様相でした。

当初は着衣でも行われていた相撲ですが、5世紀頃になると裸で闘うスタイルへ。「素の舞い」が「すまい」「すまう」を経て「すもう」となったとされています。8世紀頃には危険な技が禁じ手となり、現在の相撲に近い形へ。江戸時代には興行として発展し、現代の大相撲の礎となりました。

戦国時代（15世紀後半～16世紀後半）に入ると、相撲から派生した近接戦闘の技術として柔術が発展していきます。鉄砲の伝来により鎧の重要性が減り、軽装の足軽が増える中、小回りの利く戦闘術として特化していった柔術は、多様な流派が生まれていきます。

しかし、明治維新後の近代化で柔術は実戦的価値を失っていきます。乱暴な稽古や乱立した流派間の対立も問題となっていました。そこで、伝統的な柔術の技術と精神を基盤に、より安全で体系的、教育的価値の高い武道として創設されたのが「柔道」です。創始者である嘉納治五郎【かのうじごろう】が東京に設立した講道館を中心に、武道として、また競技として発展していきます。

明治に入り、警察機構が組織されます。東京の警視庁武術大会では、柔術と柔道が雌雄を決する戦いが行われました。勝者が警視庁の公式武術として採用されるこの異種格闘技戦の模様は、講道館四天王の一人、富田常次郎の息子で作家の富田常雄による小説『姿三四郎』に描かれています。

その後、柔道は世界中に広まり、1964年の東京オリンピックでは正式種目に採用。国際的なスポーツとなります。

柔道が一歩先を歩みましたが、現在、同じく国際的な広がりを見せる武道が「空手」です。空手は、沖縄の古武術が中国武術の影響を受けて発展したと言われています。14世紀頃の琉球王国で生まれ、19世紀に船越義珍【ふなこしぎちん】によって本土に伝えられ体系化されていきます。戦後は駐留米軍の影響や指導員の国際派遣などもあり、空手は世界へと広がっていきます。2020年の東京オリンピックで正式種目と採用され、国際的なスポーツとしての地位を揺るぎないものとしています。

空手と同じく中国の影響を受けた武術として、「少林寺拳法」があります。

少林寺拳法は、1947年に宗道臣【そうどうしん】によって創始されました。東洋武術と戦時中の大陸での白兵戦経験などを基盤とした、比較的新しい武道です。よく中国の嵩山少林寺の少林拳 / 少林武術と混同されますが、香川県が発祥の日本の武道です。護身術として優れていて、戦後の混乱期に瞬く間に広まっていきました。1964年には、少林寺拳法を題材にしたテレビドラマ『坊主拳法』も放映されています。

第二次世界大戦後、武道はGHQにより一時的に禁止という憂き目に遇いますが、スポーツ志向を取り入れることなどで認められるようになります。そして日本は、高度経済成長期へと入っていきます。

この頃の日本国民を勇気づけたものは「プロレス」です。このプロレスにも、武道が息づいています。日本プロレス創成記のトップ・レスラー・力道山は「相撲」出身。必殺技は「空手」チョップ。15年間不敗の「柔道」家・木村政彦をタッグ・パートナーに、シャープ兄弟ら外国人レスラーたちを次々と撃破。日本の武道をごった煮したスポーツ・エンターテインメントは、復興と発展に邁進する日本国民の背中を押しました。

この様に、日本の武道は時代に応じて変化しながらも、その精神は、今も脈々と日本に、そして、世界へと受けて継がれているのです。

どうですか。日本の武道を学びながら、村田英雄が頭にこびり付いて離れませんよね。こうやって、少しずつ、少しずつ、村田英雄を普及させ、いつの日か、村田英雄記念館を復活させるのです。

次はどんなテーマに村田英雄を忍ばせようかな。

（つづく）