冷めても熱いカヴァーの名品について。
武田洋 (eyeshadow)
Ep.9 / 15 Apr. 2022
Junior Mervin – People Make the World Go Round (Mervin) 7″
まず注目したいのはレーベルデザイン。ピラミッドに目といえばフリーメイソンや1ドル紙幣裏側のイラストで知られていますが、これは「プロビデンスの目」といって、神の全能の目を意味しています。普通は一つのピラミッドに一つの目なんですが、ここではレーベル名《Mervin》の頭文字「M」にちなんで二つになってるところが愛らしい。プロビデンスの目が二つ並ぶのは前代未聞かと思われます。猫の顔みたいですね。スフィンクス風に寝そべるライオンもかわいい。色使いも含め、レゲエでしかありえない見事な世界観です。
Discogsによると《Mervin》レーベルはこれまで11枚の7インチシングルをリリースしており、すべてがジュニア・マーヴィンの曲。プロデュースもアレンジも彼の手によるもので、この「People Make the World Go Round」はレーベル最後の作品となります。
彼は子供の頃からアメリカンソウルが好きで、カーティス・メイフィールドのレコードに合わせてよく歌っていたといいます。レゲエ界きってのファルセットボイスのモデルはカーティス・メイフィールドだったんですね。
1980年録音のこの曲でも独特のファルセットは健在。反復するトラックに乗せた、気だるくて哀愁の漂う歌声は何度も聴きたくなる中毒性があります。大ネタではありますが、デジルーツ好きにもラヴァーズファンにもおすすめできる逸品です。
原曲の「People Make the World Go Round」は71年にスタイリスティックスが放ってヒット。数々のカヴァー曲を生み出します。邦題は「愛の世界」だし、なんとなくラブソングっぽい雰囲気も感じますが、歌詞を読んでみると結構硬派な内容で、スト、大気汚染、不況…など当時のアメリカの社会情勢が色濃く反映されています。
そんな「People Make the World Go Round」ですが、上記のジュニア・マーヴィンをはじめアレンジに凝ったカヴァーが多いのは知る人ぞ知るところ。
フィリーソウルを見事にジャズ化したディー・ディー・ブリッジウォーター。
ジャズ化といえばこのジャズメイア・ホーンも必聴。
《ストラタ》レーベルでお蔵入りしていたマウラウィ・ヌルーディンのバージョンも最高です。
凛としたムード漂うモンティ・アレキサンダー。
名曲すぎてもうお腹いっぱいの感はあるものの、今回ご紹介したようなアレンジの優れたカヴァー曲を聴くと新たな魅力がどんどん湧き出てくる、なんとも懐の深い曲です。