冷めても熱いカヴァーの名品について。
武田洋 (eyeshadow)
Ep.5 / 15 Dec. 2021
Dennis Brown & Snagga Puss – Missing You (Black Scorpio) 12″
冬になると聴きたくなる「Missing You」のカヴァー。哀愁が漂いまくっているデニス・ブラウンと、唯一無二の個性派DeeJay、スナガ・プスとのコンビネーションがもう絶妙過ぎて、リリース当時は何度も何度もリピートして聴いていました。悲しい歌に終始笑い声で絡むスナガ。不謹慎を通り越して、これぞレゲエの粋やタフさといったものを感じさせてくれます。
この曲は7インチではリリースされず12インチのみ。当時、渋谷のCISCOレゲエ店で大いに売れた記憶があります。というのもこのシングルが出た1994年は日本でも人気の高かったガーネット・シルクが不慮の火災事故で亡くなって、哀悼の曲として受け入れられたという流れがありました。
なお1990年にはデニス単独で同じ《ブラック・スコーピオ》レーベルから7インチがリリースされています。94年のと比較すると心持ち若くて張りのある声で、「Far East」トラックにのせて歌ったこの曲は、長らくサウンドシステムの定番チューンとして支持されたクラシックソングでもあります。
「Far East」とは、バリー・ブラウンが1981年にスタジオ・ワンから放ったファウンデーションソングのこと。90年代に入ってもこのリディムトラックを使用した多くの名曲が生まれました。
ご存知の通り、ダンスホールレゲエの世界ではヒット曲が出ると、瞬く間に同じトラックで新たな曲が量産されるという慣習があり、これはこれでカヴァーと思うのですが、その話はまた別の機会に。
では大御所デニス・ブラウンに絡むスナガ・プスとは一体何者か? 英語で書くとSnagga Puss。ジャマイカ人DJにしてあの独特な笑い声、実はアメリカのアニメのキャラクターであるスナグルプス(Snagglepuss)を真似たもの。日本では馴染みのないアニメキャラですが、YouTubeで音声を聴くと確かに似ています。
キャリア初期はディッキー・ランキンの名でトースティングではなくラップを持ち味とし、1989年に「Sleng Teng」リディムにのせて『バットマン』のテーマソングをカヴァーした「Rap Man」を《ジャミーズ》からリリースしてヒット。その頃のレゲエ系のクラブではよくかかっていたものです。
さて、原曲の「Missing You」は1984年のヒットソングであり、ダイアナ・ロスにとってR&Bシングルチャート1位を取った最後の曲となります。
邦題は「追憶の涙」。父親に殺害されたマーヴィン・ゲイに捧げた内容で、ダイアナとマーヴィンは1973年にデュエットアルバムを作った仲でもありました。作詞・作曲、プロデュースはライオネル・リッチー。
ちなみに3週連続でチャート1位だったこの曲に代わってトップとなったのは、ライオネルが在籍していた(この当時は脱退している)コモドアーズの「Nightshift」。この曲も亡くなったマーヴィン・ゲイ(とジャッキー・ウィルソン)へのオマージュでした。
話は戻って「Missing You」、1993年にはジャネット・ケイもカヴァーしています。
1997年になるとThe Notorious B.I.G. feat. 112「Miss U」でサンプリング。同じく97年、Master P「Gangstas Need Love」でも使われました。両曲とも、ほぼカヴァーといっても差し支えない仕上がりです。
こうして聴いていくと原曲も含め様々な「Missing You」がありますが、個人的にはスナガ・プスの笑いながらのトースティングをフィーチャーした「Missing You」がやっぱり一番。切ない曲でもそこにユーモアが介在することでバラードからワンランクアップするというか何というか、一周まわって粋に感じます。レゲエのこういうところが好きなんですよね。