スライ・ダンバーが書き換えたカヴァー曲
feature #222

スライ・ダンバーが書き換えたカヴァー曲

レゲエドラムの革新者、スライ・ダンバー。ロビー・シェイクスピアとともに、カヴァーという形で数々の音楽をレゲエへと変換してきた50年のキャリアについて。

武田洋 (eyeshadow)
29 Jan. 2026

2026年1月26日、スライ・ダンバーがこの世を去った。パートナーのロビー・シェイクスピアを2021年に失ってから約4年。

1952年5月10日、キングストンに生まれたローウェル・フィルモア・ダンバーは、15歳でドラムを始めた。1970年、デイヴ&アンセル・コリンズ『Double Barrel』に参加したのが最初のレコーディングだった。1972年、ベーシストのロビーと出会い、以降50年近くにわたって共に演奏を続けることになる。

1976年から1981年まで、2人はピーター・トッシュのバンドで演奏し、5枚のアルバムを録音した。この時期、彼らはローリング・ストーンズやサンタナとも共演。ロックのライブを観察し、その要素を取り入れ始めた。

スライは後にこう振り返っている。「その頃ピーター(・トッシュ)と一緒にいて、ストーンズやサンタナのギグもやっていた。このときからスネアを開けてバックビートに鋭い音を加え、バスドラムにもっと低音を入れるようになった」。それまでのレゲエのドラムはリムショット中心だったが、オープンスネアによる鋭い音が、黒人音楽の新しいスタイルを生み出した。

「Private Life」

1979年、クリッシー・ハインドはプリテンダーズのデビューアルバムに「Private Life」という曲を収録した。ロンドンのパンクスがみんなそうだったように、彼女もレゲエをやりたかった。だがその試みは不完全なものだった。

翌1980年、グレイス・ジョーンズがバハマのコンパス・ポイント・スタジオでこの曲をカヴァーした。バックを固めたのがスライ&ロビー。プロデューサーのクリス・ブラックウェルが組んだセッションだった。

ハインドは後にこう語っている。「ロンドンのパンクスはみんなレゲエをやりたがっていて、私も『Private Life』を書いた。グレイスのヴァージョンを初めて聴いたとき、『ああ、こういうサウンドであるべきだったんだ』と思った。スライ&ロビーという巨匠たちと、グレース・ジョーンズの焼けつくようなボーカルで実現されたこのカヴァーは、作曲家としての私のキャリアのハイライトのひとつだった」。

2020年のインタビューでスライ自身もこう述べている。「『Private Life』は僕のお気に入りのレコーディングのひとつ。本当に上手くいったと思う。『Private Lifeのイントロを演奏してくれ』と言われると嬉しくなるんだ」

この曲で何が起きたのか。プリテンダーズの原曲が持っていたパンクの焦燥は消え、代わりにスライのドラムが作る独特のポケットと、ロビーのベースが生み出す粘りが曲を支配した。グレイスの声は冷ややかで、鋭い。単なるレゲエアレンジではなく、曲の構造そのものが変わった。

コンパス・ポイント3部作

『Warm Leatherette』(1980年)、『Nightclubbing』(1981年)、『Living My Life』(1982年)。グレイス・ジョーンズとスライ&ロビーが作り上げたこの3部作には、多くのカヴァー曲が含まれている。

ザ・ノーマル「Warm Leatherette」、ロキシー・ミュージック「Love Is the Drug」、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ「Breakdown」、ビル・ウィザーズ「Use Me」、イギー・ポップ「Nightclubbing」、フラッシュ・アンド・ザ・パン「Walking in the Rain」、そしてアストル・ピアソラの「Libertango」まで。

これらの楽曲は、スライ&ロビーの演奏によって原曲とは異なる響きを持つようになった。「Demolition Man」はスティングがグレイスのために書き下ろした曲だが、後にポリスで自らカヴァーしている。

「Stalag 17」から「Murder She Wrote」へ

レゲエにおけるリディム(リズム)の再利用という文化も、広義のカヴァーといえるだろう。1973年、アンセル・コリンズが「Stalag 17」を録音、このリディムは70年代を通じて数多くのアーティストに使用された。

1982年、シスター・ナンシーがスライ&ロビーをバックにして「Bam Bam」をリリース。「Stalag 17」リディムの上に、トゥーツ&ザ・メイタルズの1966年の曲「Bam Bam」のフレーズを乗せてフリースタイルで歌った。

1992年、スライ&ロビーはこのリディムを再構築し、翌1993年、チャカ・デマス&プライヤーズが新しいヴァージョンで「Murder She Wrote」を録音して世界的なヒットとなった。2013年にはフレンチ・モンタナ「Freaks」にサンプリングされるなど、その後も使われ続けている。

同じリズムトラックの上に異なるアーティストが新しいメロディと歌詞を乗せていく。スライ&ロビーが残したリズムもその連鎖の中にある。

椅子を離れても

スライ&ロビーは生涯で20万曲に演奏と制作で関わったとされる。ボブ・ディラン、ミック・ジャガー、ハービー・ハンコック、ローリング・ストーンズ。ジャンルを問わず、彼らの演奏は求められた。

スライは13回グラミー賞にノミネートされ、1985年にブラック・ウフル『Anthem』で、1999年にスライ&ロビー『Friends』で2度受賞している。

1979年、ブライアン・イーノはスライについてこう述べた。「レゲエのレコードを買うと、90パーセントの確率でドラマーはスライ・ダンバーだ。スライがジャマイカのどこかのスタジオで椅子に縛られているような印象を受けるが、実際は彼のドラムトラックが非常に面白いから、何度も何度も使われるんだ」

スタジオの椅子からロビー・シェイクスピアの待つ場所へ向かうため、彼はその席を立った。だが、残されたビートはあまりに強靭で、その椅子を離れてもなお、世界中の音楽のボトムを支え続けている。

享年73歳。ご冥福をお祈りします。

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