New Direction<br>“スタンダードの魅力”
feature #141

New Direction
“スタンダードの魅力”

ジャズとカヴァーの物語。

福田俊一
Ep.1 / 9 Jun. 2023

ジャズにはスタンダードと呼ばれるものがあります。つまり、定番曲のこと。古くはミュージカルの挿入歌だった楽曲やポップスがスタンダードとなったものがあるほか、チャーリー・パーカーやセロニアス・モンクなど有名なミュージシャンが作曲し、のちに多くのカバーが生まれた場合がそれにあたります。

スタンダードってね、良いんですよ。もう最高。オリジナル曲と違って、ミュージシャンの個性とか表現の仕方がダイレクトにそれぞれの演奏に表れるから。冒頭と終わりで奏でられるテーマ(歌でいうならサビの部分)こそメロディラインは一緒ですけど、そのあいだ、ソロパートにアーティストの味が出ます。もちろん、楽器によっても色合いはガラッと変わります。

私は22歳のときにジャズに興味を持ってレコードを買い集めるようになりました。でもスタンダードの良さがわかるようになったのは30代過ぎてから。スタンダードの魅力を知ってから「あぁ、僕も大人になったな」なんて感じましたよ。そんなわけで、ジャズスタンダード3曲を筆者が個人的にお勧めしたいそれぞれの名演とともにご紹介します。

Body And Soul(身も心も)

Ella Fitzgerald『Ella Swings Gently with Nelson Riddle』(1962)

…。ごめんなさい、レビュー書こうと思って聴いていたら感動で泣いてました。

スタンダードのなかでも星の数ほど演奏されてきたバラード曲、「Body and Soul」。作曲されたのは1930年だとか。以降、著名なジャズミュージシャンであれば一度は吹き込んだことがあるのでは? というほど有名な楽曲です。私がお勧めするのは最も偉大なる女性ジャズシンガーのひとり、エラ・フィッツジェラルドによる歌唱。「寂しくて淋しくて。わたしはこんなにもあなたを好きなのに、気づいてもらえない。身も心もあなたに捧げてるのに」という悲壮感漂うちょっとおセンチな歌詞。おわかりの通り、失恋ソングです。こんなの、ロマンチストな私なんか泣くにきまってるじゃないですか。この曲は、テナーサックス奏者 ジョン・コルトレーンやギタリストのウェス・モンゴメリーも作品で演奏しています。でもこういう切ない詩の物語だからこそ、女性歌手が歌うと男目線からはグッと胸に込み上げてくるものがあります。この曲を聴いてその良さがわかれば、きっとあなたもジャズスタンダードの楽しみ方がわかりますよ。

Poor Butterfly(プア・バタフライ)

Paul Desmond『Glad to Be Unhappy』(1965)

「Poor Butterfly」は、ジャコモ・プッチーニによるオペラ『蝶々夫人』からインスピレーションを受けてジョン・レイモンド・バベルが1916年に作曲した楽曲。ソフィー・バーナードの歌唱によって、ブロードウェイでの同作の劇中で使用されたのが最初だそうです。翌年には、歌手によってカバー曲が米ビクター、コロムビアというデカいレコード会社から発表され大ヒット、世に知れ渡ったのだとか。その後、ジャズ界でも様々なミュージシャン・歌手に取り上げられてたちまち人気スタンダードとなりました。

ここで私がピックアップするのはポール・デズモンドによる演奏。彼は長らくデイヴ・ブルーベックのバンドで活躍したアルトサックス奏者であるほか、ブルーベックのあの超有名曲「Take Five」の作曲者でもあります。デズモンドのサックスの魅力はずばり味わい深さ。決して派手ではありませんが、抑揚のついた柔らかいブロウ、そして品格をともなったリリカルなソロ。相性バツグンのギタリスト、ジム・ホールの伴奏も彼の歌心をうまく引き立てています。いやぁ、何度聴いてもいいですね、最高です。うんうん。

My Cherie Amor(マイ・シェリー・アモール)

Gene Russell『New Direction』(1971)

こちらは、先ほど紹介した2作とは少しあとの時代の作品。泣く子も黙るレアグルーヴ人気ジャズレーベル、《ブラック・ジャズ》からリリースされた記念すべき1枚目。アーティストは本レーベルの創設者でありピアニストでもあるジーン・ラッセル。本作『New Direction』はピアノトリオスタイルで演奏しており、「柳よ泣いておくれ」「Black Orchid」「On Green Dolphin Street」といったスタンダード曲を取り上げました(※ただし曲によってトニー・ウィリアムスがコンガで参加)。また、ホレス・シルバーの「Silver’s Serenade」では彼なりのファンキーさを味付けした好アレンジを披露。中でも特筆すべきはスティービー・ワンダー「My Cherie Amour」のカバー。スティービーの原曲の雰囲気そのままに、スティーブ・クローバーが叩くドラムが軽く踊り暴れ、ヘンリー・フランクリンが奏でるベースがブンブン低く唸る。ラッセルのゴキゲンで黒いピアノの打鍵はどこかエロル・ガーナー、オスカー・ピーターソン、(スリー・サウンズの)ジーン・ハリスのようで。誰に似ていようがいまいが、ラッセルの表現力の豊かさは唯一無二、このアルバムでたっぷり楽しめます。《ブラック・ジャズ》からリリースされたタイトルはどれもオリジナルのレコードプレス枚数は多くなく、かねてから人気も高いため近年めっぽう見かけなくなってきました。素晴らしいモダンジャズ作品、レコード屋で見かけたらぜひ聴いてみてください。

話は変わりますが、こんな小さなレーベルにもかかわらず《ブラック・ジャズ》の作品が米国での発売の翌年、我が国でも東宝から日本盤が出ていました。目にも鮮やかなピンクの帯付きで。当時の日本のレコード会社の関係者の耳の良さ、いい音楽への嗅覚の鋭さにはホントに感服します。

(つづく)

Profile
福田俊一(ふくだ・しゅんいち)。1984年、東京都大田区生まれ。レコードコレクターであり、中古レコード店スタッフ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒。大学1年生のとき、体育の授業でラジカセから流れていたL L・クール・Jのラップに心奪われ、ヒップホップ/R&Bに熱中になる。そののち、サンプリングに魅了され、徐々にソウル/ファンクやレアグルーヴにも興味を持つように。大学を卒業すると、レコード収集にハマる。ネタ系を掘り下げるようになった最終結果、次第にジャズに惹かれるようになり、30代前半のときにモダンジャズ最高峰レーベル、《ブルーノート》のほぼ全てのレコードをオリジナルでコンプリートした。
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