武田洋(eyeshadow)
23 JUNE 2020
歴史は螺旋階段のように発展していくと言うけど、1992年のロサンゼルス暴動からジョージ・フロイド事件に至るまでの28年間、我々は同じ階のフロアをグルグル回っていただけだったのかもしれない。
本書の主題である《Agit Disco / アジット・ディスコ》とは、1948年生まれの元モッズでもあるステファン・ジェルソンが始めたプロジェクトであり、活動当初からずっと政治色の濃い作品を扱っている。参加しているのは自費出版の作家、DJ、ポリティカルなジンのライター、同性愛者の人権活動家、アーティストなど、反権威主義の政治活動やDIYカルチャーと密接に関係している23人。そんな彼らの選ぶ《アジット・ディスコ》のプレイリストを集めたのがこの本。
つまるところ《アジット・ディスコ》とは、今一番必要な音楽のことではないかと思う。一言で表せば「扇動する音楽」。または翻訳者である鈴木孝弥さんが、自らの《アジット・ディスコ》のプレイリストを作成する際に頭の中で鳴り響いたという次の言葉、「ちゃんとしかるべき奴らに中指を立ててるやつ。今のこの国の生きづらさを作り出しているシステムと価値観と時代の病理に訴える、甘美で健全たる暴力性」を持った曲。
23名のプレイリストを見ると、パティ・スミス「Gloria」(Them / ヴァン・モリスンがオリジナル、歌詞を替えてカヴァー)といったマスターピースから、ロニー・ドリュー「The Auld Triangle」(1954年ブレンダン・ベーハンによって書かれたアイリッシュ・ブルーズのカヴァー)のような根っからのプロテスト・ソング / ポリティカル・ミュージックが並んでいる。各々の深い理由に基づいた選曲なのは、文末の「訳者注」を読むとよりうなずける。
当初パンク・ロックに対して懐疑的だったボブ・マーリーが、クラッシュのカヴァーした「Police and Thieves」を聴き、名曲「Punky Reggae Party」へとつながった…など心を引くエピソードもあれば、日本版ボーナス・プレイリストとして、荏開津広、桑原茂一、ブレイディみかこ各氏の他、日本側コントリビューターによる10のプレイリストとテキストも掲載している。
《アウトサイダー》《労働者階級》《反権力》《自由至上主義》《ラスタファリアン》のキーワードに絡む曲、そして《公民権運動》《リトルロック高校事件》《ワッツ暴動》《ヴェトナム戦争》《北アイルランド紛争》を背景に持つ曲。思想と感情を作品に込めたアーティストたちが集うプレイリスト。一階層上のフロアへと進むため、今こそ読むべき、聴くべきミュージック・ガイド本。
- Agit Disco
- 『Agit Disco: 超プロテスト・ミュージック・ガイド』(ele-king books)は、2011年にロンドンで刊行された “ポリティカル”な音楽のパワーについて、23名のプレイリスト&テキストで語った『Agit Disco』の邦訳本。プレイリストは《アジット・ディスコ》という名称にフィットするコンピレーションCDを制作する名目で作られている。もともとはアーティストのステファン・ジェルソンが始めたブログで公開されていた。