
演芸とレコードをこよなく愛する伊藤一樹が、様々な芸能レコードをバンバン聴いてバンバンご紹介。音楽だけにとどまらないレコードの魅力。その扉が開きます。
伊藤一樹(演芸&レコード愛好家)
Ep.56 / 20 Aug. 2025
夏とくれば祭り、祭りとくれば「音頭」。伝統的なものから郷土の町おこし、新興住宅地での交流や憩いの場として、盆踊りは戦後日本の夏を活気づけてきました。そして、音頭といえば忘れてはならない存在があります。「三波春夫でございます」。
着物姿で背筋をピンと伸ばし、両手を広げ、朗々と響く歌声で観客を魅了するその姿は、まさに日本歌謡界の象徴。三波春夫はその長いキャリアの中で、数多くの音頭ナンバーを残してきた〈キング·オブ·音頭〉というべき存在なのです。
今回はそんな三波春夫の音頭ナンバーを紹介しよう、と思いましたが、それだけでは物足りません。そこで誰かを対抗馬を。三波春夫に対抗するとしたら、村田英雄をおいて他にはいないでしょう。三波春夫と同様に浪曲界から歌謡曲の世界に転向し、互いに切磋琢磨し合って日本の歌謡界を盛り上げてきた終生のライバルです。真面目で繊細さを持った三波春夫とは異なり、村田英雄は迫力ある歌声と男気あふれるキャラクターで人気を博しました。もっとも、実生活での二人は仲良しだったそうですが、公の場ではあえて〈ライバル関係〉を演出し、ファンを楽しませてくれました。そんな二人の音頭作品を並べた華やかな夏祭り。三波春夫対村田英雄の音頭合戦、開幕です。
まずはこちら。「三波春夫=音頭」、そのイメージを世に定着させた記念碑的な一曲。

1964年の東京オリンピック公式ソング。作曲は古賀政男。明るさと憂いが同居し、洋楽器と和楽器とが見事に融合した音頭マスターピースと呼べる一曲でしょう。大会に合わせ、複数の歌手が各社から同曲をリリースしましたが、最も売れたのが三波春夫版。彼の代表曲として全国に浸透しました。
国際行事と三波春夫の相性は抜群で、1970年の大阪万博では「世界の国からこんにちは」を歌い、これも各社競作の中でトップの売上を記録。そんな「万博」を、村田英雄も負けじと歌っていたのです。

万国博音頭 村田英雄 (7インチ)
ジャケットの両手を大きく広げたポーズは、三波春夫もよくやる決めポーズ。果たして意識してのことか、それとも偶然か。そんなことを想像するのもファンの楽しみ。ちなみに村田英雄は、1985年のつくば万博でも音頭を吹き込みました。

万博音頭 村田英雄 (7インチ)
科学技術をテーマにしたつくば万博。その未来志向の空気に呼応するかのように(おそらく偶然ですが)、三波春夫は1988年に「ぎふ中部未来博」のテーマ音頭を担当しました。

未来音頭 三波春夫 (7インチ)
未来なのに音頭。このミスマッチ感こそ温故知新の極み。音頭は未来へ継承されるにふさわしい日本文化の一つなのでしょう。
そんな未来を見据えつつも、決して郷土愛を忘れることはありません。出身地である新潟県を盛り上げる音頭も残しています。

大新潟音頭 三波春夫 (7インチ)
地元愛といえば、村田英雄も負けてはいません。郷里·佐賀県唐津市相知町の音頭がこちら。

相知音頭 村田英雄 (7インチ)
さらに、歌手としてのデビュー曲『無法松の一生』の舞台である、北九州·小倉も音頭化。

小倉音頭 村田英雄 (7インチ)
もちろん地元愛だけではありません。三波春夫は地元だけでなく、自らの活動の拠点となった首都·東京も音頭にしています。

大東京音頭 三波春夫 (7インチ)
さらに、社会啓発まで音頭にしてしまいます。交通安全という真面目なテーマも、三波春夫の手にかかれば、思わず踊りたくなる明るい啓蒙歌に。

交通安全音頭/交通安全でろれん音頭 三波春夫 (7インチ)
娯楽と学びを一曲に同居させる、三波春夫の芸の懐の深さ、そして、「音頭」という音楽のもつ奥深さを体現しています。
こうして二人の音頭合戦は、我が家のレコード部屋でいつまでも響き続けるのです。まだまだ尽きない三波春夫と村田英雄の音頭のレパートリー。次はどんな「対決」をみせてくれるのか、お楽しみに。
(つづく)
- Profile
- 1985年東京都東村山市出身。演芸&レコード愛好家。ジャズ・ギタリストを志し音大へ進学も、練習不足により挫折。その後、書店員、レコード屋の店員、無職を経て、現在は雑誌編集職。経歴だけはまるで昭和の文化人。
https://twitter.com/RAKUGORECORD
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